橋のホラティウス

 

HORATIUS

By THOMAS BABINGTON MACAULAY


橋のホラティウス

トマス・バビントン・マコーリー作

 

訳者より

 これは19世紀にトマス・バビントン・マコーリーが著書、古ローマ詞藻集(LAYS OF ANCIENT ROME)の中で発表した詩です。
 原題は「ホラティウス」、日本では「橋の上のホラティウス」として知られています。単に「ホラティウス」と言うと後の有名な詩人を指すのが一般的です。また厳密に言えば「橋の上のホラティウス」ではこの詩の内容と一致しません。そこで橋の(逸話で知られる)ホラティウスという意味で、ここではタイトルを「橋のホラティウス」としました。
 パブリック・スクール時代のW・チャーチルはこの詩を大変気に入り、最初から最後まで暗唱できたそうです。
原文:https://www.gutenberg.org/files/847/847-h/847-h.htm
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作者トマス・バビントン・マコーリーの解説(要約)

読み書きが普及していなかった時代
歴史を保存する数少ない手段の一つとして
ローマにも伝承バラッドがあったはずだが
ギリシャの詩歌に席巻されて消失してしまった。
公の記録もガリア人の侵入(紀元前390年)によって失われてしまった。
しかし葬儀で先祖の功績を語る習慣によって辛うじて歴史は繋がった。
以下は紀元前のローマ人の伝承バラッドを
当時の人々の立場に立って再現しようとする試みである。

 

 


ホラティウス

市の創建360年頃(*紀元前393年頃)に作られた詩歌

 

 

  

        Ⅰ

   クルシウムのラルス・ポルセナは
     九柱の神に誓った、
   タルキニウスの大いなる家の
     間違いをもう許してはおかない、と。
  (*タルキニウスは王政ローマ最後の王、
    エトルリア系だったがローマから追放されていた)
   九柱の神に彼はそれを誓った、
     そして集合の日を定めた、
   そして早馬の使者に命じた、
     東から西から南から北から、
       我が軍団を招集するべし、と。

        II

   東へ西へ南へ北へと
     使者の馬は速やかに行き、
   そして塔と町と田舎家は
     ラッパが鳴り響くのを聞いた。
   家にいるのは
     恥ずべき偽エトルリア人である、
   クルシウムのポルセナが
     ローマへ進軍するというときに。

        III

   騎兵たちと歩兵たちが
     全速力で流れ込んでくる、
   数多くの立派な市が立つ街から、
     数多くの実り豊かな平原から、
   ブナとマツに隠された、
     ワシの巣のような、
   紫色のアペニンの頂の、
     数多くの人里離れた村から/

        IV

   神々しい昔日の王たちのために、
     巨人の手によって積み上げられた
   名高い砦が睨みつける
     威厳あるヴォルテッラから/
   その歩哨がはるかかなたの
     サルディーニャの雪の山頂が
   南の空を縁取っていることに気づく
     海辺のポプロニアから/

        V

   金髪の奴隷をたっぷり載せた
     マッシリアの三段櫂船の浮かぶ、
   西の海の女王
     ピサの貿易港から/
   小麦とブドウと花々の間を
     甘美なクラニス川が彷徨う地から/
   コルトーナの街が塔の王冠を
     天に向かって突き上げている場所から。

        VI

   背の高いオークのドングリが落ちるのは
     暗いオーサーの小川/
   シミニアの丘の大枝を
     むしゃむしゃ食べる牡鹿は太っている/
   クリタムヌス川の全ての流れは
     牧夫に愛されている/
   全ての池の中で鳥取りに最も愛されているのは
     大ヴォルシニアン湖。

        VII

   しかし今やオーサーの小川に
     樵の斧音は聞こえず/
   シミニアの丘を上がる牡鹿の
     新鮮な足跡を辿る狩人もおらず/
   クリタムヌス川沿いでは乳白色の去勢牛が
     見張りもなしに草を食んでおり/
   ヴォルシニアン湖では
     水鳥が安らかに水浴びをするだろう。

        VIII

   アレティウムの収穫では、
     今年は年寄りが刈り入れをするだろう/
   今年はアンブロの少年たちが
     混雑した羊たちの中に飛び込むだろう/
   そしてルナの大桶では、
     今年は笑っている少女たちの白い足の周りで
   ぶどうの汁が泡を立てるだろう、
     その父親たちはローマに進軍したのである。

        IX

   選ばれた三十人の預言者がいる、
     この国の最も賢い者たちである、
   朝も夜もいつも
     ラルス・ポルセナのそばに立っている/
   夜に朝に三十人は
     昔の偉大な予言者が
   白いリネンの上に右から左に書いた
  (*古代エトルリア文字は右から左へ書く)
     詩文について考えを巡らせた。

        Ⅹ

   そして三十人が声を一つにして
     その喜ばしい答えを告げた:
   「進め、進め、ラルス・ポルセナ、
     進め、天に愛されし者、
   行って、栄光とともに
     クルシウムの王室のドームへ凱旋せよ/
   そして、ヌルシアの祭壇の周りに吊るせ
     ローマの黄金の盾を」

        XI

   そして今、すべての都市は
     全ての男たちを送り出した/
   歩兵は八万人、
     馬は一万頭。
   スートリウムの門の前には
     巨大な軍団が集合していた。
   集合の日に誇らしげだった男こそ
     誰あろう、ラルス・ポルセナ。

        XII

   彼の眼下には
     エトルリア全軍が整列していたのである、
   そして多くの追放されたローマ人たちが、
     そして、多くの頑強な軍団が/
   そして強力な援軍と共に
     招集に応えたのは
   トスカラン・マミリアス、
     ラテン名の王子。

        XIII

   しかし黄色いテヴェレ川のほとりでは
     騒動と不安が起こっていた:
   すべての広々とした平野から
     人々はローマへと逃げようとした。
   街の周囲一マイルで
     群衆が道を塞いでいた/
   二日間の長い夜と昼の間中
     恐ろしい光景が繰り広げられた。

        XIV

   松葉杖をついた年寄り、
     そして身重の女、
   そして自分にしがみついて微笑む赤ん坊を抱いて
     すすり泣く母親、
   そして奴隷の首の高さの
     担架に載せられた病人、
   そして鎌と棍棒を持った
     日焼けした百姓の一群、

        XV

   そしてワインの皮袋を積んだ
     ラバとロバの群れ、
   そして山羊と羊の終わりのない群れ、
     そして終わりのない牛の群れ、
   そして穀物袋と家財道具の
     重さにきしみつつ
   すべての怒号飛び交う門に滞っていた
     終わりのない荷車の列にとって。

        XVI

   さて、青ざめた市民たちは
     タルペーイアの岩から
   列をなして燃える村を
     真夜中に赤くなる空を偵察した。
   市の元老たちは
     昼夜を問わず座っていた、
   一時間ごとに数人の騎馬の伝令が
     落胆の知らせを持ってやって来た。

        XVII

   東へそして西へと
     トスカーナ人の群れは拡がった/
   家も柵も鳩小屋も
     クルストゥメリウムには立っていない。
   ヴェルベンナからオスティアまで
     すべての平野が荒廃させられた/
   アストゥルがジャニコロを襲撃し、
     そして頑強な守備兵が殺された。

        XVIII

   確かに元老院のどこにも、
     それほど雄々しい心はなかった、
   しかしその悪い知らせが伝えられたとき、
     それはひりひりと痛み、鼓動が速くなった。
   直ちに執政官は立ち上がった、
     全ての元老たちが立ち上がった/
   急いで彼らはガウンを身にまとい、
     そして城壁の元へと行った。

        XIX

   彼らは立ったまま協議をした、
     川に面した門の前で/
   短い時間だったが、推測できるだろう、
     沈思または討論するためである。
   執政官は厳しく直言した:
     「橋は間違いなく落とさねばならない/
   ジャニコロが奪われたいま、
     町を救う方法は他にない」

        XX

   ちょうどその時、斥候が飛んで来た、
     焦燥と恐怖に気も狂わんばかりだった:
   「戦闘準備!戦闘準備!執政官殿:
     ラルス・ポルセナがすぐそこにおります。」
   低い丘から西方へと
     執政官は目を凝らした、
   そして速やかに空へと立ち昇って行く
     黒ずんだ砂塵の嵐を見た。

        XXI

   そして、近くへ、どんどん近くへ
     赤いつむじ風がやって来る/
   そして、大きく、さらに大きく、
   その巻き雲の下から、
   聞こえて来るのは誇らしげなトランペットの戦争の音色、
     踏み鳴らす足音、そしてどよめき。
   そしてはっきりと、さらにはっきりと
     今、暗闇の中に現れる、
   遠く左に、遠く右に、
   夜明けの濃青色の微光の中に、
   輝く兜の長い隊列が、
     槍の長い隊列が。

        XXII

   そしてはっきりと、さらにはっきりと、
     地平線の微かな光の中に、
   今や見えることだろう
     十二の堂々たる都市の旗が輝いているのが/
   しかし、それらすべての中で最も高かったのは
     ウンブリア人に恐れられ、
  ガリア人に恐れられている、
     誇り高きクルシウムの旗。

        XXIII

   そしてはっきりと、さらにはっきりと
     今や市民は知ることだろう、
   振舞いと胴衣、馬と紋章によって、
     それぞれの勇武のルクモ(*王)を。
   栗葦毛の馬上に見られるのは
     アルレティアムのシルニウス/
   そして他の誰にも振る舞うことのできない剣を帯びているのは、
   四重盾のアストゥル、
   金の帯を締めているトルムニウス、
   そして葦の多いトラジメネの砦から来た、
     色の黒いヴェルベンナ。

        XXIV

   王旗の傍らで揺らぐことなく、
     戦争の全てを見ているのは、
   自ら象牙の戦車に座った、
     クルシウムのラルス・ポルセナ。
   右輪の傍らにはマミリウス、
     ラテン名の王子が騎馬で従っていた/
   そして、左輪の傍らに従っていたのは、
     恥ずべき行いをした不実のセクストス。
(*タルキニウス王の息子、いとこの妻を強姦してローマを追われた)

        XXV

   しかし、セクストスの顔が
     敵の間に見えると、
   大空を引き裂くような叫び声が
     町中から上がった。
   女は家の屋根にはいなかった
     しかし彼に向けて唾を吐き、シーッと言った、
   呪いの言葉を叫ばない子供はいなかった、
     そしてその小さな拳を振り上げた。

        XXVI

   しかし執政官の眉根は悲しかった、
     そしてその言葉には力がなかった、
   そして彼は暗い目で城壁を見ていた、
     そして暗い目で敵を見ていた。
   「橋を落とす前に
     彼らの先陣は私たちのところへ来るだろう/
   そして一度橋が奪われたなら、
     町を救うどのような希望があるだろう?」

        XXVII

   すると、勇敢なホラティウスが言葉を発した、
     門の指揮官である:
   「この地上のすべての人間に
     死は遅かれ早かれ訪れます。
   そして、恐るべき薄い勝ち目に
     立ち向かう以上の死があるでしょうか、
   先祖の遺灰、
     そして神々の神殿のために、

        XXVIII

   「そして彼を抱いてあやして眠らせた
     優しい母親のために、
   そして彼の赤ん坊にその胸で
     乳を飲ませる妻のために、
   そして永遠の炎を護る
     聖なる乙女たちのために、
   そして恥ずべき行いをした不実のセクストスから
     これらすべてを救うために?

        XXIX

   「橋を引き摺り落としてください、執政官殿、
     出来る限り速やかに/
   私はあと二人の助けを借りて、
     敵を足止めしようと思います。
   向こうの狭い橋の袂なら千人を
     三人で止められるかもしれません。
   さあ、私の両側に立って、
     一緒に橋を守ってくれる人はいますか?」

        XXX

   するとスプリウス・ラルティウスが言葉を発した/
     彼はローマ人の誇りだった:
   「よし、私はあなたの右側に立とう、
     そして、あなたと一緒に橋を守ろう。」
   そして剛力のヘルミニウスが言葉を発した/
     彼は巨人の血筋だった:
   「私はあなたの左側に留まろう、
     そして、あなたと一緒に橋を守ろう。」

        XXXI

   「ホラティウス」と執政官は言った、
     「あなたが言った通り、そのようにして下さい。」
   そして、あの巨大な隊列に対してまっすぐに
     勇敢な三人は立ち向かっていった。
   ローマ人はローマの戦争のためには
     土地も金も、
   息子も妻も手足も命も惜しまなかった、
     昔の勇敢な日々には。

        XXXII

   そのとき、誰も党派を優先しなかった/
     そのとき、すべての人々は国家を優先した/
   そのとき、金持ちは貧しい人々を助けた、
     そして貧しい人々は金持ちを愛していた:
   そのとき、土地はフェアに分配された/
     そのとき、戦利品はフェアに売られた:
   ローマ人は兄弟のようだった
     昔の勇敢な日々には。

        XXXIII

   今ローマ人はローマ人を
     敵よりも憎む、
   そして、護民官は上の者に刃向かい、
     そして、元老は下の者を虐げる。
   私たちの派閥の争いが熱くなると、
     私たちの戦争は冷たくなる:
   それゆえ、人々は以前戦ったようには戦わない
     昔の勇敢な日々のようには。

        XXXIV

   三人がその背中に
     鎧を引き締めている間、
   執政官は一番最初に
     斧を手に取った:
   そして平民たちと混ざり合った元老たちは
     手斧、棒、釘抜きを手に取った、
   そして、上の板を強打し、
     そして、下の支柱を緩めた。

        XXXV

   一方、トスカーナ軍は、
     見よ、まさに燦然と、
   日の光を照り返しながらやって来て、
   横列の後には横列が続き、黄金の広大な海の、
     輝く波のようだった。
   四百のトランペットが吹き鳴らされ
     勇武の歓喜が轟いていた、
   整然とした足並みのその偉大な軍勢が、
   槍兵を先立てて、軍旗を広げ、
   勇敢な三人が立つ橋頭に向かって
     ゆっくりと進んでいたそのとき。

        XXXVI

   三人は落ち着いて静かに立っていた、
     そして敵を見つめた、
   するとすべての前衛たちが
     大きな笑い声を上げた:
   そして三人の大将が馬に拍車をかけて前に出て来た
     その長い隊列の前面に/
   彼らは地面に飛び降りて、剣を抜き、
   そして盾を高く掲げて飛ぶように走って来た
     隘路を勝ち取るために/

        XXXVII

   緑なすティフェルヌムのアウヌス、
     ブドウ畑の丘の主/
   そしてセイウス、その八百人の奴隷は
     イルバの鉱山にうんざりしている/
   そしてピクス、長きに渡る平時と戦時の
     クルシウムの家臣、
   あの塔に囲まれた灰色の岩山から
   ウンブリアの兵を率いて戦いに来た、
   ネキナムの要塞から見下ろせるのは
     ナル川の淡い波。

        XXXVIII

   頑強なラルティウスが流れの中へと
     アウヌスを投げ落とした/
   ヘルミニウスはセイウスを襲った、
     そして歯で噛みついた/
   勇敢なホラティウスはピクスに
     燃えるような一突きを放った/
   そして、誇り高きウンブリアの金箔の武器は
     血煙の中でガシャンという音を立てた。

        XXXIX

   そして、ファレリイのオクヌスが
     ローマの三人に襲い掛かった/
   そしてウルゴのラウスルスが、
     海賊である/
   そして大きなイノシシを殺した
     ボルジニウムのアルヌスが、
   アルビニアの海岸沿いの
   コサの沼地の葦の中に巣喰っていて
   畑を荒らし、人々を殺した
     大きなイノシシである。

        XL

   ヘルミニウスはアルヌスを打ち負かした:
     ラルティウスはオクヌスを倒した:
   ラウスルスの心臓を
     ホラティウスは一撃した。
   「この通り」と彼は叫んだ。「海賊は死んだ!
     もう、人々はオスティアの城壁から
   お前の破壊の船の航跡を見て
   仰天したり青ざめたりはしない。
   もうカンパニアの女鹿は
   お前の呪われた三本の帆を見て
     森や洞窟に身を隠すことはない。」

        XLI

   そして今や敵の間から
     笑い声は聞こえなくなった。
   怒りに満ちた荒々しい叫び声が
     前衛の全員から上がった。
   橋の袂から槍六本の長さのところで
     その長い隊列は停止した。
   そして、隘路を勝ち取るために、
     前に出てくる者は誰もいなかった。

        XLII

   しかし、聞け!アストゥルが叫んでいる:
     そして、見よ!兵士たちが道を開ける/
   そしてこのルナの偉大な君主は
     堂々とした足取りでやって来る。
   その広い肩に
     四重盾をガランガランと鳴らし、
   そして彼以外の誰にも振るうことのできない
     剣をその手に打ち振って。

        XLIII

   彼は勇敢なローマ人たちに微笑んだ
     穏やかで高貴な微笑み/
   彼は怯むトスカーナ人たちに目を向けた、
     そしてその目には軽蔑の色があった。
   彼は言った「雌オオカミの子らが
     厳しい窮地に追い詰められている:
   しかし、お前たちにも後に続く勇気があるだろうか、
     もしアストゥルが道を切り開いたなら?」

        XLIV

   そして、幅広の剣をぐるぐると回しながら
     両手で高々と振り上げて、
   彼はホラティウスに突進し、
     そして、満身の力を込めて打った。
   ホラティウスは盾と剣で
     まさしく巧みに打撃をかわした。
   打撃をかわしたが、間合いが近すぎた/
   それは彼の兜を逃したが、太ももを深く切った:
   赤い血が流れるのを見て
     トスカーナ人たちは歓喜の叫び声を上げた。

        XLV

   彼はよろめき、そしてヘルミニウスに
     寄りかかって一呼吸をおき/
   そして、狂った手負いの山猫のように、
     アストゥルの顔にまともに飛びかかった。
   その凄まじい速さの突きは
     歯、頭蓋骨、兜を貫き通し、
   優れた剣は見事にトスカーナ人の頭の後ろ
     一手幅に達した。

        XLVI

   そしてルナの偉大な君主は
     その致命的な一撃に倒れた、
   アルベルヌス山の樫の木が
     落雷に打たれて倒れるように:
   森全体のはるか遠くまで
     巨大な枝を広げていた樫の木である/
   そして、青ざめた卜占官は低くつぶやいて、
     吹き飛ばされた頭を見つめた。

        XLVII

   ホラティウスはアストゥルの喉を
     かかとでしっかり押さえつけて、
   そして全力で三度四度とぐいぐい引いて、
     剣をねじ取った。
   「さあ」と彼は叫んだ「やって来い、
     天晴な客人よ、ここで待っているものはこれだ!
   次はいかなる高貴なルクモが
     我がローマの喝采を浴びにやって来るのか?」

        XLVIII

   しかし、彼の不遜な挑戦に対して
     そのきらびやかな先陣に走ったのは、
   鬱憤と恥と恐れが混じり合った、
     苦々しいざわめきだった。
   豪勇の者には不足しておらず、
     君主にふさわしい者も不足していなかった/
   エトルリアの最も高貴な人々は
     すべてこの運命の場所にいたのだから。

        XLIX

   しかしエトルリアの最も高貴な人々はみな
     地面に転がる血まみれの骸を見て
   意気消沈していた、
     行く手には勇敢な三人の姿があった:
   そしてその大胆なローマ人たちが立ちふさがっている
     恐ろしい橋の袂から、
   全員が尻込みした、
   それと知らずに森を気ままに歩き回っていて、
   血まみれの骨の真ん中で低いうなり声を上げている、
   恐るべき老熊の洞穴の入口に出くわして
     脱兎のごとく逃げ出す少年のように。

        L

   何よりも大切な
     そうした壮絶な攻撃を率いる人物がいなかった/
   しかし、後ろの者は「前進!」と叫び
     そして、前の者は「後退!」と叫んだ。
   そして今や深い陣立ての
     後方と前方は浮足立った/
   そして剣の海の荒波の中を
   軍旗はあちらこちらと漂った/
   そして勝利のトランペットの響きは
     途切れ途切れになって消えてしまった。

        LI

   それでもひと時一人の男が
     馬に乗って人々の前に出て来た/
   三人全員が彼をよく知っていた。
     そして大声で挨拶をした。
   「さあ、ようこそ、ようこそ、セクストス!
     ようこそお帰り!
   なぜお前は立ち止まり、背を向けるのか?
     ここを行けばローマなのに。」

        LII

   彼は三度街を見た/
     彼は三度死者を見た/
   そして三度激怒してやって来た、
     そして三度恐怖して引き返した:
   そして、恐れと憎しみで蒼白になって、
     血の池に溺れた
   最も勇敢なトスカーナ人たちが横たわる、
     その狭い道を睨みつけた。

        LIII

   しかしその間、斧と梃は
     敢然と仕事に精を出していた/
   そして今や、橋はぐらつきながらぶら下がっていた
     沸き立つような激流の上に。
   「戻って来い、戻って来い、ホラティウス!」
     大声で元老たち全員が叫んだ。
   「戻って来い、ラルティウス!戻って来い、ヘルミニウス!
     戻って来い、橋が落ちる前に!」

        LIV

   スプリウス・ラルティウスが飛ぶように戻った/
     ヘルミニウスが飛ぶように戻った:
   そして彼らは通り過ぎるとき、その足の下で
     材木が割れるのを感じた。
   しかし、彼らが振り返ったとき、
     対岸に勇敢なホラティウスが
   一人立っているのが見えた、
     彼らはもう一度渡ろうとした。

        LV

   しかし、雷のような轟音とともに
     すべての緩められた橋げたが落ちた、
   そして、巨大な残骸が横たわって
     流れをダムのようにせき止めた:
   そしてローマの城壁から
     勝利の長い雄叫びが上がった、
   一番高い小塔の上まで
     黄色い泡が跳ね上がった。

        LVI

   そして、乗り馴らされていない馬が
     初めて手綱をつけられた時のように、
   荒れ狂う川は激しくもがいて、
     そして、その黄褐色のたてがみを翻し、
   そして沓を引きちぎって、躍り上がって
     自由になったことを喜んだ、
   そして、渦を巻いて、猛烈にまっしぐらに、
   欄干、厚板、橋げたが、
     海に向かって突進していった。

        LVII

   一人で勇敢なホラティウスは立っていた、
     しかし、その心は変わらなかった/
   前に三万人の三倍の敵、
     そして背後に幅広い奔流。
   「やつを倒せ!」不実のセクストスが叫んだ、
     その青白い顔に笑みを浮かべて。
   「さあ、降伏しろ」とラルス・ポルセナは叫んだ、
     「さあ、降伏して朕に哀れみを乞え。」

        LVIII

   彼は向きを変えた、
     あの臆病な兵士たちには目もくれず/
   ラルス・ポルセナにものを言うこともなく、
     セクストスにものを言うこともなく/
   彼はパラティーノの丘を見て
     故国の白い柱廊を見た/
   そしてローマの塔のそばを流れている
     高貴な川に話しかけた。

        LVIX

   「ああ、テヴェレ川!父なるテヴェレ川!
     ローマ人の命、ローマ人の武運を
   ローマ人は御身に祈ってきた、
     今日この時こそ叶え給え!」
   彼はそう言って、言いながら
     傍らの優れた剣を鞘に収め、
   そして、背中に鎧を背負ったまま、
     真っ逆さまに流れに飛び込んだ。

        LX

   どちらの岸からも
     喜びや悲しみの声は聞こえなかった/
   友軍と敵軍は驚きで口もきけずに、
   ただ口を開けたまま目を見開いて、
     彼が沈んだところを見つめて立ちつくしていた/
   そして、大波の上に、
     彼の兜が現れるのを見たとき、
   すべてのローマ人は狂喜の叫び声を上げた、
   そしてトスカーナの兵士たちでさえ
     ほとんどが喝采を送らずにはいられなかった。

        LXI

   しかし、流れは猛烈だった、
     何カ月もの雨で水かさが大幅に増していた:
   そして流血の速度は速かった/
     そして痛みは深刻だった、
   そして鎧は重く、
     そして干戈を交えて疲れていた:
   そして何度も沈んだように見えた、
     しかし、そのたび彼は浮かび上がって来た。

        LXII

   そのような悪条件の中で、
     そのような荒れ狂う奔流をかき分けて、
   無事に上陸場所へと泳ぎ着いた
     人物はこれまでいなかったことだろう:
   しかし、彼の手足は内なる勇敢な心によって
     勇敢に支えられ、
   そして私たちの良き父なるテヴェレは
     勇敢に彼の顎を支えた。

        LXIII

   「呪われてあれ!」不実のセクストスは言った/
     「この悪党めが溺れてしまわないものだろうか?
   もしここで足止めされていなかったなら、
     今日のうちに町を略奪しているはずだったのに!」
   「天よ、かの男を助け給え!」とラルス・ポルセナは言った
     「そして無事に岸へと送り届け給え/
   このような戦場の武勇は
     いまだかつて見たことがない。」

        LXIV

   そして今や彼は川底に足がつくのを感じる/
     今や乾いた土に立つ/
   今や周りに元老たちが群がっている/
     その血みどろの手を握りしめるために/
   そして今や叫びと拍手、
     そして大きな泣き声とともに、
   彼は川の門を入る
     歓喜する群衆に伴われて。

        LXV

   公権力は彼に
     小麦の畑を与えた、
   朝から夜まで耕すことができる
     二頭の強い牡牛をも与えた/
   そして彼らは鋳像を作り、
     そしてそれを高いところに据えた、
   そして私が言ったことが嘘ではない証拠に
     それは今日も立っている。

        LXVI

   それはコミティウムに立っていて
     誰にでも見ることができる/
   鎧をつけたホラティウスが、
     片膝をついて休んでいるのを:
   そしてその下には、
     すべてが金の文字で書かれている、
   いかに勇気を持って彼が橋を守ったかということが
     昔の勇敢な日々に。

        LXVII

   その名の響きは今もローマの人々を
     鼓舞している、
   ヴォルスキ族の本国への突貫を叫ぶ
     トランペットの響きのように/
   そして妻たちは今もジュノーに祈る
     男の子たちが勇敢に育ちますように、と
   橋をとてもよく守った彼のように
     昔の勇敢な日々に。

        LXVIII

   そして冷たい北風が吹き、
     そして雪の中から、
   オオカミの長い遠吠えが聞こえてくる
     冬の夜/
   人里離れた田舎家の周りを
     大きな音を立てて大嵐が吹き荒れ、
   そしてアルジドスの良い丸太が軋んで
     家の中でさらに大きな音を立てているとき/

        LXIX

   最も古い樽が開けられ、
     そして、最も大きなランプに火が灯され/
   燠火の中で栗が柔らかく輝くとき、
     そして、子供は串をひっくり返し/
   老いも若きも燃える木の周りに
     集まって輪になって/
   少女たちが籠を編んでいるとき、
     そして、若者たちが弓を矯めているとき/

        LXX

   良い男が彼の鎧を修理して、
     そして兜の羽を整えるとき/
   良い妻の杼が楽し気に
     織機の間を閃いて行くとき/
   泣きながら笑いながら
     なおも物語は語り継がれている、
   どのように良くホラティウスが橋を守ったか
     昔の勇敢な日々に。

 

 

Keywords:橋の上のホラティウス、古ローマの歌


2021.4.21