サヴローラ

 

SAVROLA
A TALE OF THE REVOLUTION IN LAURANIA

BY
WINSTON SPENCER CHURCHILL

 

 

サヴローラ
ローラニアの革命の物語

ウィンストン・スペンサー・チャーチル著

 

 

 

 

訳者より:これはW・チャーチルが23歳の時に書いた小説です。
なお著作権はチャーチルの死後50年を経た2015年に切れています。
原文:http://www.gutenberg.org/files/50906/50906-h/50906-h.htm

 

 

この本を
著者がともに幸せな4年の月日を過ごした
女王陛下の軽騎兵隊の将校の皆さんに捧げます

 

 

前書き

私はこの物語を1897年に書き、すでにマクミラン誌に連載しました。最初の評判が悪くなかったためそれを本として出版することにしました。そして今、一般の皆さんのご評価、あるいは寛容を賜るために恐れながらここにそれを提出いたします。

ウィンストン・S・チャーチル

 

 

 

内容
I.政治的重要イベント
II.国家元首
III.大衆の側の男
IV.代表団
V.密談
VI.憲法に基づいて
VII.ナショナル・ボール
VIII.「星明かりの中」
IX.提督
X.魔術師の杖
XI.夜更けに
XII.戦争評議会
XIII.エグゼクティブの行動
XIV.陸軍の忠誠心
XV.サプライズ
XVI.反乱の進展
XVII.宮殿の防衛
XVIII.窓から
XIX.教育的経験
XX.争いの終わり
XXI.艦隊の帰還
XXII.人生の報酬

 

 

 

第I章
政治的重要イベント

激しい雨が降っていましたが、雲の切れ間から太陽がすでに輝いていて、ローラニアの街の通り、家々、庭に急速に形を変える影を投げかけていました;すべてが日光の下で濡れ輝いていました。ホコリは静まり;空気は涼しく;木々の色は心地よい緑でした。それは夏の暑さの後の最初の雨であり、ローラニアの首都を芸術家、傷病者、そして遊蕩者の故郷にしてきたその楽しい秋の気候の始まりを告げるものでした。

にわか雨は激しかったにもかかわらず、国会議事堂前の大きな広場に集まった群衆を追い散らすことはできませんでした。それは歓迎されこそすれ、彼らの不安と怒りの表情を変えることはなく;びしょ濡れになっても興奮が冷めることはありませんでした。明らかに重大な出来事が起こっていました。人々の代表がそこで会合を持つことを常としていた、古の芸術を愛する人々がそのファサードに戦勝記念碑や彫像を飾った、渋さと重厚さを纏った立派な建物から人々は払いのけられませんでした。共和国親衛隊の槍騎兵隊が大階段の下に整列しており、相当数の歩兵隊がエントランスの前に空けられた広いスペースを守っていました。兵士の背景を埋めていたのは群衆でした。彼らは広場とそこに通じる街路に群がって;共和国の審美眼と自尊心がその古代の英雄の記億のために建立した数多くの記念碑によじ登り、それを完全に覆って人間の塚のようにしてしまっており;その場所を見下ろす家やオフィスの窓、多くの屋根は観衆で込み合っており、木に登っている人たちまでいました。大群衆が興奮に揺れており、スコールが嵐の海で荒れ狂うように激しい情熱がわき立っていました。あちこちで仲間に担がれた男が声の届く限りの人々に向かって熱弁をふるっており、そして自分の気持ちを言い表してくれる言葉を探していたのにそれを聞いたことがなかった何千もの人々が歓声や叫び声を上げていました。

ローラニアの歴史にとって大きな日でした。内戦以来5年間、人々は独裁政権の侮辱に耐えてきました。政府が強力であるという事実、そして過去の無秩序の記憶がより冷静な市民の心には強力に作用していました。しかし不平のつぶやきは最初からありました。長い闘いはアントニオ・モララ大統領の勝利に終わりましたが、敗れた側にはまだ武器を持っている人々が大勢いました。怪我や没収に苦しむ人々がいて;投獄を経験した人々がいて;妥協なき戦いの遂行を要求して息を引き取った友人や身内をもつ多くの人々がいました。和解できない敵を抱えたまま政府は船出し、その支配は過酷で抑圧的でした。市民が大変強い愛着を持っており、非常に誇りに思っていた古来の憲法は覆されました。大統領は扇動の蔓延を主張し、何世紀ものあいだ人々の自由の最も確実な砦と見なされていたその議場に人々の代表を送らせることを拒否しました。こうして日ごとに、そして年ごとに不満がつのっていきました;最初は打ち負かされた側の少数の生き残りだけで構成されていた国民党は国内で最も数の多い強力な党へと膨れ上がりました;そしてついに彼らはリーダーを見つけました。運動が四方八方へと広がりました。首都の数多い不穏な住民はずっと運動の高まりに傾倒していました。デモに続くデモがあり:暴動に暴動が引き続き:軍隊でさえ動揺の兆候を見せるようになりました。とうとう大統領は譲歩することを決意しました。9月1日に選挙の令状が発行される、国民には希望や意見を表明する機会が与えられるべきである、という発表がありました。

この誓約はより平和的な市民を満足させました。過激派は少数派であることに気づいてその論調を変えました。政府はこの好機を利用してより暴力的なリーダーの何人かを逮捕しました。かつて戦い、反乱に参加するために亡命先から戻ってきた他の人々は国境の向こうへ命からがら逃げました。厳密な武器の捜索によって重要な捕獲物が得られました。欧州諸国は関心と不安の目でその政治的変化の兆候を見、政府の主張が優位であると確信していました。しかしその間、人々は黙って約束の履行を期待しながら待っていました。

とうとうその日が来ました。投票を記録する7万人の男性選挙人を招集するため、公吏が必要な準備をしました。大統領は慣習に従い、必要とされる忠実な市民への招集状に直接署名するのです。選挙の令状は都市と地方のさまざまな選挙区に転送されます。そして古来の法律によって選挙権を与えられた人々が評決を下すのです。激しい憎しみを抱いたポピュリストが独裁者と呼んだ彼の行動について。

群衆が待っていたのはこの瞬間でした。ときどき歓声が上がりましたが、大部分は黙って待っていました。大統領が上院に向かう途中で通過したときでさえ、彼らはヤジることを控えました;その目には彼は事実上退位しており、そのことがすべての人々の態度を変えさせていたのでした。古来の習慣、長年愛されてきた権利が回復され、再び民主的な政治がローラニアで勝利を収めようとしているのです。

突然、人々が見つめる階段の一番上に若い男が現れました。その服装は乱れ、顔は興奮で真っ赤でした。市民評議会の一員、モレでした。すぐにそうと知って大衆は大歓声を上げました。彼を見られなかった多くの人々は広場に反響した国民の満足の叫び声を聞きました。彼は熱烈にジェスチャーをしました、もし話したとしても騒ぎのせいで言葉は聞きとれなかったでしょう。別の男、守衛が彼の後から急いで出てきて肩に手を置き、真剣に話しているように見えたかと思うと、彼をエントランスの影に引き戻しました。群衆はまだ歓声を上げていました。

ドアから出てきた3番目の人物は市庁のローブを着た老人でした。迎えの馬車までの階段を彼は歩いた、というより弱々しくよろめき下りました。再び歓声が上がりました。「ゴドイ!ゴドイ!ブラボー、ゴドイ!民衆の闘士!フレー、フレー!」

それは市長で、改革派で最も有力で最も評判の良いメンバーの一人でした。彼は馬車に乗り込み、兵士に守られた広場を通り抜け、群衆の中へ行きました。群衆はまだ歓声を上げていましたが敬意を表して道を譲りました。

馬車のドアは開いていて、老人が痛々しいほど動揺していることは明らかでした。その顔は青白く、口は悲しみと怒りの表情ですぼめられ、抑えられた感情でその全身が震えていました。群衆は拍手で彼を迎えましたが、たちまち気づいてその変化した外見と痛ましい面貌に打たれました。彼らは馬車の周りに群がって叫びました「どうしたのです?大丈夫ですか?教えて下さい、ゴドイ、教えて下さい!」しかし彼はそれを受け付けませんでした。そして動揺で震えながら御者に早く行くよう命じました。人々は重大な決意をして、ゆっくりと、むっつりと、考え込んで道を譲りました。厄介な、予期せぬ、歓迎されない何事かが起こった;それが何なのか、知ることを彼らは熱望しました。

そして根も葉もないうわさが飛び交い始めました。大統領は令状に署名することを拒否した;彼は自殺した;軍隊は発砲するよう命じられた;結局のところ、選挙は行われないだろう;サヴローラは逮捕された―つまり上院で捕まったとある者は言い、殺された、と他の者が付け加えました。群衆の喧騒は怒りの高まりによる鈍い不協和音のざわめきへと変わりました。

ついに答えが出ました。広場を見下ろす場所に建物があり、代議院との間には狭い通りがあるだけでした。この通りは軍隊によって通行を禁じられていました。この建物のバルコニーに市民評議員の若者、モレが再び現れました。そして彼の出現は広大なコンコースからの興奮した不安な叫び声の嵐のきっかけとなりました。彼は沈黙したまま手を挙げました、そしてしばらくして一番近くにいた人々に彼の言葉を聞こえました。「裏切りです―酷い詐欺―私たちの大切な希望は投げ捨てられたのです―すべてが無駄になったのです―だまされた!だまされた!だまされた!」彼の雄弁は途切れ途切れに興奮した群衆に届きました。そして彼は何千人もの人々が聞き、さらに何千人もの人々が繰り返した言葉を叫びました「市民権の登録簿が削られました、選挙人の名前が半分以上消されました。To your tents(*ソロモン王の子レハベアムが民の要求を聞き入れなかったので民は失望してテントに戻った故事に因む)ああローラニアの皆さん!」

一瞬の沈黙があり、それから怒りと失望と決意の大きなすすり泣きが群衆から生じました。

このとき4頭の馬と共和国の制服を着たその騎手に引かれ、槍騎兵隊に護衛された大統領の馬車が階段の下に進みました。国会議事堂から注目すべき人物が現れました。彼はローラニア軍の将軍の見事な青と白の制服を着ており;その胸はメダルと勲章で輝いており;その機敏で強力な容貌を成立させていました。彼は馬車へと降りてくる前に少し立ち止まり、仲間の内務省長官セニョール・ルーヴェと平然と話をしているように見えました。あたかも群衆がシーッと不満の声を上げ、ブーイングして満足する機会を与えようとしているかのようでした。彼は急増する大集団に向かって1、2回指をさし、それからゆっくりと階段を下りました。ルーヴェは彼と一緒に行くつもりでした。しかし群衆の怒号を聞いて彼は上院で後回しにできない仕事があることを思い出したため;その先は一人で行くことになりました。兵士たちは捧げ銃をしました。人々から怒りの咆哮が上がりました。馬を動かさずに座っていた騎馬の将校、冷酷な機械は、部下に向き直って命令を出しました。歩兵の数個中隊が議場の右側の脇道から一列縦隊で行進を始め、今や群衆がいくらか侵入していた広場に一列に整列しました。

大統領は槍騎兵隊に先導された馬車に乗り込み、すぐに速歩で出発しました。馬車が広場の端に達するやいなや群衆が突進してきました。護衛が立ちはだかりました;「向こうへ戻れ!」と将校が叫びましたが、無視されました。「どけ、どかないならどかせるぞ」と不機嫌そうな声が言いました。それでも群衆は1インチも動きませんでした。危険が差し迫っていました。「詐欺師!裏切り者!嘘つき!暴君!」彼らはここに記すには粗野過ぎる表現で叫びました。「おれたちの権利を返せ―泥棒!」

そして群衆の後ろの誰かがリボルバーを空中に発射しました。効果は電気的でした。槍騎兵は槍の穂先を下げ、前方に飛び出しました。恐怖と怒りの叫びが四方八方から起こりました。民衆は騎兵隊の前を逃げました;何人かは地面に倒れ、踏みにじられて死に;何人かは馬に倒されて負傷し;数人が兵士に槍で貫かれました。ひどい光景でした。後方の人々は石を投げ、何人かが手当り次第にピストルを発射しました。大統領は動きませんでした。自分が賭けていない競馬を見つめる人のように、彼は直立してひるむことなく騒動を見つめていました。彼の帽子は叩き落され、石がどこに当たったかをその頬の血の滴りが示していました。しばらくの間、結末は確かではありませんでした。群衆は馬車を襲撃し、そして―暴徒がそれをバラバラにしてしまうかもしれません!もっとましな死に方もあったはずですが。しかし軍隊の規律がすべての困難を克服し、大統領の態度が敵を脅かしたと見え、群衆はいまだヤジったり叫んだりしながら後退しました。

その間に国会議事堂の傍らの歩兵隊の指揮官は、大統領の馬車に向かって暴徒が殺到するのを見て危急を知りました。彼は牽制することを決めました。「発砲しなければならないだろうな」と横にいた少佐に言いました。

「素晴らしい」と将校は答えました;「それによって私たちがやってきた膨張弾の浸透実験を終えられることでしょう。非常に価値ある実験です。サー。」そして兵士に目を向け、いくつかの命令を出ました。「非常に価値ある実験だ。」と彼は繰り返しました。

「少々高くつくがな」と大佐は乾いた声で言いました;「半個中隊で十分だろう、少佐よ。」

ライフルに装弾するときの遊底のガラガラ音が聞こえました。軍隊のすぐ前にいた人々は差し迫った一斉射撃から逃れるため狂ったようにもがきました。一人の男、麦わら帽子をかぶった男が頭を抱えていました。彼は前へ駆け出しました。「頼む!撃たないでくれ!」叫びました。「憐れみを!解散するから。」

一瞬の停止、鋭い命令、大爆発があり、続いて悲鳴が上がりました。麦わら帽子をかぶった男は後ろに折れ曲がって地面に倒れました;他の人々も倒れこみ、いっそう不思議にねじれた姿勢で横たわっていました。兵士以外の全員が逃げました;幸いなことに街区への出口はたくさんあり、数分でほとんど誰もいなくなりました。大統領の馬車は逃げる群衆の中を通り抜け、より多くの兵士に守られている宮殿の門に向かいました。そしてそれを無事に通過しました。

今やすべてが終わりました。群衆の意気はくじかれ、広々とした憲法広場はまもなくほとんど空になりました。地面には40人の遺体といくらかの使用済み薬莢が残されていました。どちらも人間の発達の歴史の中でその役割を果たし、そして生者の考慮の外へと去ったのでした。それにもかかわらず兵士たちは空のケースを拾い上げ、やがて数人の警察官がカートを持ってきて他のものを運び去りました。そしてローラニアではすべてが再び静かになりました。

 

 


第II章
国家元首

馬車とその護衛はとても古い玄関口を通過し、宮殿の入り口にある広い中庭を通り抜けました。大統領は降りました。彼は軍の善意と支援を維持することの重要性を十分に理解していたため、すぐに槍騎兵を指揮していた将校のところへ歩いて行きました。「貴下の部下には負傷者がいないと信じている」と彼は言いました。

「たいしたことはありません、将軍」中尉が答えました。

「貴下はすばらしい判断力と勇気をもって部隊を指揮した。それは記憶に残ることだろう。しかし勇敢な兵士たちを率いるのは本当に気持ち良いことだ;彼らが忘れられることはないだろう。おお大佐、あなたが来てくれて本当によかった。私たちがまだ国の法と秩序を守る決意を持っていることが知られるや否や、不満を持つ階級と揉めることは予想していたのだ。」言葉の後半はサイドゲートから急いで中庭に入って来た暗い青銅色の男に話しかけたものでした。ソレント大佐は、それが新来者の名前でしたが、憲兵隊長でした。この重要な役職の他に彼は共和国の戦争長官の任務を帯びていました。この組み合わせによって強力な措置を講じる必要がある場合、あるいは望ましい場合はいつでも大変な、そして便利な速度で軍隊が社会的権力を補うことができるのでした。この配置はこの時代にふさわしいものでした。普段ソレントは落ち着いていて穏やかでした。彼は多くの戦闘と情け容赦のないタイプの多くの戦争を経験し、数回負傷し、勇敢で非情な男と見なされていました。しかし暴徒の集中した怒りには凄まじいものがあり、大佐の態度は彼ですらそれに完全に耐えることはできなかったという事実を示していました。

「負傷されましたか?閣下」大統領の顔を見て彼は尋ねました。

「なんでもない―石だ;しかし彼らは非常に暴力的だった。誰かが彼らを激高させたようだ;ニュースが知られる前に私は立ち去ろうと思っていた。誰が話したのかね?」

「市民評議員のモレがホテルのバルコニーから言ったのです。非常に危険な男です!自分たちは裏切られた、と言いました。」

「裏切られただと?なんと大それたことを!間違いなくそうした発言は憲法第20条に触れるだろう:不実告知またはその他の方法による国家元首たる人物に対する暴力の扇動」大統領は行政長官の支配権を強化することを目的とした公法の条項に精通していました。「ソレント、やつは逮捕だ。政府の尊厳に対する侮辱が処罰されずに許されてはならない。―いや待て、事態が落ち着いた今、寛大な態度を取ったほうがおそらく賢明だろう。差し当たり私は国家訴追を望まないことにする」と大きな声で付け加えました:「大佐よ、この若い将校は自らの義務を大きな決意を持って遂行した―最も優れた兵士である。ぜひこのことを記録に残しておくように。軍務においても軍務以外でも、昇進は年齢ではなく常にその功績によるべきである。若者よ、君の行動は忘れない。」

将来の展望と成功への高い期待を胸に描いて喜びと興奮に溢れた22歳の少年中尉を残し、大統領は階段を上って宮殿のホールに向かいました。

ホールは広々としていて、よく調和がとれていました。それはローラニア共和国の最も純粋なスタイルで装飾され、その紋章がいたるところに飾られていました。柱は古代の大理石でできており、その大きさと色は往時の豊かさと壮麗さを証言していました。切り嵌め細工の舗装は心地よいパターンを示していました。壁の精巧なモザイクには国の歴史的場面が描かれていました:都市の創建;1370年の和平;大ムガールの使節の受け入れ:ブロタの勝利;憲法の厳密な法解釈に違反するよりは死を選んだ真面目な愛国者サルダーニョの死。そして後年部分の壁には国会議事堂の建物;チェロンタ岬における海軍の勝利、そして最後に1883年の内戦の終結が描かれていました。ホールの両側の深い凹部にある、ヤシやシダに囲まれたブロンズの噴水が目と耳にさわやかな涼しさを与えていました。エントランスに面して広い階段があり、真っ赤なカーテンでドアが隠されている大広間へと続いていました。

階段の上に女性が立っていました。その手は大理石の手摺の上に置かれていました;彼女の白いドレスは後ろの明るい色のカーテンと対照をなしていました。彼女はとても美しかったのですが、その顔には警戒心と不安の表情がありました。女性がよくするように彼女は一度に3つの質問をしました。「何があったのですか、アントニオ?暴動があったのですか?なぜ発砲があったのです?」彼女は降りるのを恐れているかのように、階段の上でおどおどと立ち止まっていました。

「すべて順調です。」大統領は公式の態度で答えました。「不満分子が暴動を起こしたのです。しかしこちらの大佐があらゆる予防措置をとっていたので再び秩序が回復されたのです。最愛の人よ。」それからソレントに目を向けて続けました:「また騒動がある可能性がある。軍隊を兵舎から出してはいけない。共和国に乾杯するため彼らに特別の日給を払うとよい。警備は二倍にしなさい。今夜は通りをパトロールしたほうがよい。何かあったら私はここにいる。おやすみ、大佐。」彼は数段を上りました。戦争長官は厳かにお辞儀をし、向きを変えて立ち去りました。

女性が階段を降りてきて、途中で二人は会いました。彼は両手を握りしめ、愛情を込めて微笑みました;彼女は彼の一段上に立ち、うつむいてキスをしました。正式でありながら心地よい挨拶でした。

「うむ」彼は言いました。「親愛なる人よ、今日のところは大丈夫でした。しかし、それがどれだけ続くかはわかりません。革命家どもは日に日に強力になっているようです。ついさっきの広場は非常に危険でした;しかし、とりあえず終わったのです。」

「不安な時間でした。」と彼女は言い、そして彼の額が傷ついていることに初めて気付きました。「怪我をされたのですね。」

「別に何でもありません。」と大統領は言いました。「彼らは石を投げた;そこでこちらは弾丸を使った。良い解決法でしょう。」

「上院で何があったのです?」

「トラブルが起こることは予想していました。私はスピーチで、不安定な状況にもかかわらず私たちは古来の共和国憲法を復活させることを決定した、しかし敵対的で反抗的な登録簿は一掃しなければならない、と言ったのです。市長がそれを箱から取り出し、彼らは争って選挙区の選挙人の合計を見ようとしました。どれだけ削減されたのかを見て、彼らは非常に怒りました。ゴドイは言葉を失っていました;彼は馬鹿です。あの男は。ルーヴェは彼らにそれは一回分として受け取るべきであり、事態がより落ち着くにつれて選挙権が拡大されるだろう、と言いました。;しかし彼らは怒って喚いたのです。確かに守衛と少数の護衛がいなかったなら、まさに議会のただ中で彼らは私を襲っただろう、と信じています。モレは私に拳を振り上げた―ばかげた若い頑固者―そして暴徒に熱弁を振るうために飛び出して行ったのです。」

「そしてサヴローラは?」

「ああ、サヴローラ―彼はとても落ち着いていました。登録簿を見たとき笑って『まぁ、ほんの数ヶ月の問題でしょう。』と言ったのです;『こんなことに意味があると思っているのですか。』私は何を言っているのか理解できない、と言い返したのですが、彼が言ったことはすべて真実だったのです。」そして妻の手を取り、ゆっくりと考え込みながら階段を上りました。

しかし、国家の混乱の時には公人の休息はほとんどありません。モララが階段の一番上に到達して応接室に入るやいなや、一人の男が反対のドアから彼に会うために近づいてきました。彼は小柄で黒ずんでおり、そしてとても醜く、年齢と屋内生活のために顔にシワが寄っていました。その青白さはどちらも自然にはありえない紫がかった黒い髪と短い口ひげといっそう対照的でした。彼は手に大きな紙の束を持ち、長く繊細な指で注意深く部門別に配列していました。それは秘書でした。

「どうしたのかね、ミゲル?」大統領は尋ねました。「何か渡すものがあるのかね?」

「はい、サー;数分で結構です。エキサイティングな一日でした;成功裏に終わったことをお喜び申し上げます。」

「わかってるよ」モララはうんざりして言いました。「何を持ってきたのかね?」

「数通の国際ディスパッチです。英国からアフリカ南部の植民地の勢力圏についての文書が送付され、外務長官が返答を起草しました。」

「ああ!この英国人ときたら―いかに貪欲で、いかに横暴なことだろう!しかし、私たちは堅固でなければならない。私は内外のすべての敵から共和国の領土を守る。軍隊を送ることはできない、しかしディスパッチを書けるのはありがたいことだ。十分強気に出たのかね?」

「閣下のご心配には及びません。私たちは我が国の権利を最も力強く擁護しました;それは大きな道徳的勝利になるでしょう。」

「それによって私たちが道徳的利益と同様、物質的利益を得られることを願っている。かの国は豊かで;支払う金を持っている;文書からそれは明らかだ。もちろん私たちは厳しく返答しなければならない。他に何かあるかね?」

「陸軍、任官、昇進に関する書類がいくらかあります、サー」とミゲルは一束の書類、親指と人差し指の間の束を触れて言いました。「判決の確認、モルゴンの予算草案の通知と意見、そして1つ2つの小さな問題。」

「うーん、長い仕事だ!よし、行ってそれを片付けよう。最愛の人、私がどれほど責め立てられているかは分かるね。今夜のディナーで会おう。閣僚は全員来ているのかね?」

「ルーヴェ以外です。アントニオ、彼は仕事に拘束されています。」

「仕事!プー!あいつは夜の街が怖いのだ。臆病者になるなんてどういうことだ!こうやってあいつは上等なディナーを逃すわけだ。じゃあ8時に、ルシール。」そして迅速かつ断固としたステップで彼はプライベート・オフィスの小さなドアを通り抜け、秘書が続きました。

アントニオ・モララ夫人は、素晴らしい応接室にしばらく立ったままでした。それから彼女は窓へと歩いてバルコニーに出ました。彼女の前に広がっていたのは並外れて美しい風景でした。宮殿は高台に立っており、街と港の景色を広々と眺めることができました。太陽は水平線の高さに沈んでいましたが、家々の壁はまだ眩く白く目立っていました。緑と優雅なヤシの木が目を落ち着かせ満足させてくれる数多くの庭園と広場が赤と青の瓦屋根を救っていました。北には上院議会と下院の大きな建築群が堂々とそびえていました。西側は船舶と防御砦を持つ港でした。停泊地には数隻の軍艦が浮かんでおり、すでに青から日没のよりゴージャスな色へと変わり始めた地中海にたくさんの白い帆の小型漁船が点在していました。

彼女は秋の夕方の澄んだ光の中でそこに立っていたため、神々しいほどに美しく見えました。乙女の美しさの魅力に女性の機知の魅力が加わって、彼女はその人生の時を迎えていました。その完璧な容貌はその心の鏡であり、女性の最大の魅力である生き生きとした豊かな表情であらゆる感情とあらゆる気分を表現していました。その長身には天性の優雅さがあり、着ていた古典的と言ってもよいドレスはその美しさを高め、その周囲と調和していました。

彼女の表情には満たされない想いが浮かんでいました。ルシールは5年近く前アントニオ・モララと結婚しました。彼の権力はそのとき絶頂にあり、活力にあふれていました。彼女の家族は彼の運動の最も強力な支持者に数えられており、父と弟はソラトの戦場で命を落としていました。母親は大きな不幸と悲しみに打ちひしがれ、彼らの最も強力な友人、国家を救い、今やそれを支配することになるであろう将軍の世話になることを自分の娘に勧めて世を去りました。彼は最初、自分にとても忠実に従ってくれた人々への義務感からその仕事を受け入れましたが、その後他の動機から受け入れることになりました。一ヶ月も経たないうちに彼は運命の女神が引き合わせた美しい少女に恋をしました。彼女は彼の勇気、エネルギー、そしてその資産に憧れました;彼の執務室を満たしている壮麗さはその影響力なしではありえないものでした。彼は彼女に富と―ほとんど王位とも言える―地位を約束して求婚しました;それに加えて、彼は容姿にも恵まれていました。二人が結婚したとき彼女は23歳でした。何ヶ月もの間、彼女の生活は忙しいものでした。冬のシーズンはレセプション、舞踏会、そしてパーティーの絶え間ないもてなしの仕事でいっぱいでした。外国の王子たちはヨーロッパで最も美しい女性としてだけでなく、偉大な政治家としても彼女に敬意を表していました。彼女のサロンはあらゆる国の最も有名な人々で賑わっていました。政治家、兵士、詩人、科学者がその殿堂に詣でました。彼女は国家の問題にも関わっていました。もの柔らかで優雅な大使たちが微妙な暗示を投げかけ、彼女は非公式の答えを返しました。全権大使たちは彼女のために条約と議定書の詳細を驚くべき入念さで説明しました。慈善家たちは自分たちの見解や気まぐれを主張し、促し、そして説明しました。誰もが彼女と公事について話しました。彼女のメイドでさえ兄弟である郵便局員の昇進をもちかけました;そして女性が味わう最も美味しい飲み物である賞賛自体が無味乾燥になるまで、誰もが彼女を賞賛しました。

しかし最初の数年間でさえ、何か足りないものがありました。それが何であったのか、ルシールには全く見当もつきませんでした。夫は愛情深く、公務から割くことのできる時間には彼女のいうことを聞いてくれました。このごろ事態はあまり明るくありませんでした。国の動揺、民主主義の台頭する力が共和国のただでさえ重い業務に加わって、大統領の時間とエネルギーに比して完全に酷な要求になっていました。彼の顔には硬いシワ、責務と懸念のシワが刻まれ、時に彼女が驚くほど疲れた姿をしていることがありました。まるで骨を折っているにも関わらずその労力が無駄になることを予見している人のようでした。彼が彼女に会う頻度は少なくなり、その短い間の会話には職務や政治のことがどんどん増えていきました。

首都には不穏な空気が充満していました。始まったばかりの季節の幕開けはひどいものでした。平野はすでに涼しくて緑でしたが、名門諸家の多くは山の斜面にある夏の邸宅に残っていました;他の人々は市内の自宅に留まり、宮殿の最も正式な催しだけに出席しました。見通しが荒れ模様になるに従って、彼女はあまり彼を助けることができなくなったように思いました。激情が掻き立てられて美しさを目に見えなくし、魅力を感じる心を鈍くしていました。彼女はまだ女王でした、しかし臣民は不機嫌で無関心でした。彼が非常に強い圧力を受けている今、彼を助けるために何ができたでしょうか?退位の考えは、すべての女性同様、彼女にとって憎むべきものでした。輝きが消えた後も、宮廷の儀式を指揮し続けなければならないのでしょうか?自分が愛着を抱いてきたものすべてを転覆するため敵が日夜活動しているというのに。

「私には何もできないの?何も?」彼女はつぶやきました。「私は自分の役目を果たしたのかしら?人生最高の時は終わってしまったの?」そしてそのとき、苛立たしい決意の熱い波が押し寄せました。「私はやるわ―でも何を?」

問いの答えはありませんでした;太陽の端が水平線の下に沈み、軍用突堤の末端の防衛砲台の目印となっているいびつな土盛りから煙のパフが噴き出しました。それは夕方の大砲でした。そしてかすかに漂ってきた砲音が彼女の頭をいっぱいにしていた不愉快な考え事を中断しました;しかし記憶は残っていました。彼女はため息をついて振り返り、再び宮殿に入りました:日の光が次第に消えて夜になりました。

 

 


第III章
大衆の側の男

落胆と激しい怒りが街を満たしていました。一斉射撃のニュースは速く遠くへと広がり、そして、そうした場合の常として結果は非常に誇張されました。しかし警察の予防措置はよく考えられており、首尾よく実行されていました。大勢で集まることは許されず、通りの絶え間ないパトロールでバリケードの建設は妨げられました。さらに共和国親衛隊は非常に恐ろしいものだったので市民が何を感じようとも彼らは黙認し、場合によっては満足しているという態度を示すのが慎重な態度であると考えていました。

しかし大衆派のリーダーたちは違っていました。彼らはすぐに市長の官邸に集まり、激しい議論を続けました。市庁舎のホールで緊急会議が開かれ、党派のすべての勢力がそこに代表を送っていました。市民評議員であり、出版禁止になった「トランペットコール(*集合ラッパ)」の元編集者であるモレが部屋に入ると大いに歓声が上がりました。彼の演説は多くの人にアピールし、ローラニア人は常に大胆な行動に拍手喝采する準備ができていました。その上、最近の暴動には誰もが興奮し、何かをしたいと思っていました。労働派の代表は特に怒っていました。自らの不満を表現するために合法的に集まった労働者が、雇われた兵士によって撃ち殺されたのです―虐殺というのが 最もよく使われた言葉でした。復讐する必要がある;しかし、どうやって?最もワイルドな案が提示されました。常に大胆な意見に賛同するモレは通りに出撃し、人々を鼓舞して武器をとらせることに賛成しました;彼らは宮殿を燃やし、暴君を処刑して国の自由を回復しようというのです。実際のところその提案の採用に特別な熱意が示されたわけではなかったのですが、年老いた用心深いゴドイはそれに強く反対しました。彼が提唱したのは非難と弾劾の穏やかで威厳のある態度でした。それは列国にアピールし、彼らの主張の正しさを立証することになるでしょう。他の人々が議論に割って入りました。法廷弁護士のレノスは自ら憲法の方法と呼ぶものを提唱しました。彼らは公安評議会をつくる必要があります;彼らは適切な国の官吏(もちろん司法長官を含む)を任命すべきです。そして国民の権利宣言の前文に含まれている基本原則に違反したとして大統領に退位を命じるのです。自ら発言をすることを切望していた数人のメンバーによって遮られるまで、彼は関係する法的要点について詳しい話を続けました。

いくつかの決議が可決されました。大統領は市民の信頼を失ったことが合意され、大統領はすぐに辞任して法廷に服従するよう求められました。軍が共和国の害悪であることも合意されました。人々に発砲した兵士を国内法において起訴することが決議され、死傷者あるいは殉教者と呼ばれた人々の身内には同情が集まりました。

この無力で無益の場面は何もないところから党派を立ち上げ、次から次へと成功を収め、ついに勝利を得たかと思われるところまで彼らを導いてきた、その注目すべき人物の入場によって終わりました。沈黙が会衆に降りかかりました;一部は敬意を表して立ち上がりました。彼は何と言うだろうか、と誰もが思いました。彼は降りかかった打ちひしぐような敗北にどう耐えるのでしょうか?運動に絶望するのでしょうか?怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも冷笑しているのでしょうか。なにより、彼はどういう方針をとるのでしょうか?

彼はメンバーが集まっている長いテーブルの端まで歩いて行き、ゆっくりと座りました。それからいつものように落ち着いた穏やかな顔で部屋を見回しました。その混乱と優柔不断の場面で彼は堂々としていました。彼の存在そのものがその追随者に自信を与えました。その高く広い額には、すべての質問に対する答えがあったようです;彼の決然とした落ち着きは運命の最大の打撃にも耐えることができそうでした。

すこし休止した後、沈黙に誘われて彼は立ち上がりました。その言葉は慎重で穏健でした。登録簿が削られていることに気付いて私は失望しました、と言いました。最終的な成功は延期されましたが、延期されただけでした。彼が遅くなったのは市庁舎に来る前に少しばかり計算をしていたせいでした。拙速なものには違いありませんが彼はそれがほぼ正確であると考えていました。大統領は来たる議会で過半数、圧倒的多数を獲得するでしょう、それは本当です;しかし選挙人が制限されているにもかかわらず、彼らは一定の議席を獲得することになるでしょう;300議席中約50議席です。もっと小さな少数派がより強力な政府を倒したこともあります。日々彼らは強くなっています;日々独裁者への憎しみが増しています。さらに憲法の手続き以外の選択肢があります―そしてこの言葉で会衆は歯を食いしばり、深い意味を込めてお互い見つめ合いました―しかし今のところ彼らは待たなければなりません;そして彼らは待つことができます、勝ちとるべき価値のある賞を。それは世界で最も価値ある財産―自由です。彼はより輝いた顔とより穏やかな心で着席しました。審議が再開されました。身内が虐殺されたことで貧困に陥った人々を党の一般財源から救済することが決定されました;それは労働者階級における彼らの人気を高め、外国の共感を勝ち取ることになるでしょう。大統領が自分たちの古来の登録簿を削除したことに対する市民の悲しみを表明し、選挙権の回復を懇願するために代表団を送らなければなりません。また国民に発砲した将校の処罰を要求し、大統領に市の恐慌と憤慨を知らせるべきです。サヴローラ、ゴドイ、レノスが代表団に指名され、そして改革委員会は静かに解散しました。

モレは最後まで居残ってサヴローラに近づきました。彼は自分が代表団のメンバーとして推薦されなかったことに驚いていました。友人があまりいない学者ぶった弁護士のレノスよりも彼は自分のリーダーをはるかによく知っていました;彼は最初から盲目的な熱意と献身でサヴローラに従っていました;そして今、このように無視されたことに傷ついていました。

「今日は僕らにとって悪い日だった」ためらいがちに彼は言いました;そしてサヴローラが返事をしなかったので、彼は続けました「まさか彼らが騙すなどと誰が思ったことだろう?」

「今日は君にとって非常に悪い日だった」とサヴローラは思慮深く答えました。

「僕にとって?なに、どういうこと?」

「君は40人の命に責任があるということが分からないのか?君のスピーチは役に立たなかった―あれに何か良いことがあっただろうか?彼らの血が流れたのは君のせいだ。人々もまた怯えている。多くの弊害があった;君の過ちだ。」

「僕のせいだ。僕は激怒した―彼は僕らを騙したのだ。僕には反乱しか考えられなかった。君がこのようにおとなしく座っているなんて夢にも思っていなかった。あの悪魔を今すぐ殺すべきだ―もっと悪いことが起こらないうちに。」

「見てくれ:モレ:僕も君と同じく若い;僕も同じく痛切に感じていて;僕も熱意でいっぱいなのだ。僕もまた賢く哲学的であろうとする以上にモララを憎んでいる;しかし屈服して何も得られないとき、僕は自分自身を封じ込めるのだ。今僕の言ったことをよく考えてくれ。君はそうするか、そうしないのであれば君の好きな道を行くしかない。なぜなら僕は君と相容れないからだ―政治的に―友人としては別だが。」

彼は腰を下ろして手紙を書き始めました、そして怒りと自責から来る屈辱に青ざめ、叱責の下で震えていたモレは急いで部屋を出ました。

サヴローラは残りました。その夜にやるべきことはたくさんありました;手紙を書いたり読んだりしなければならず、民主的新聞の社説の論調を明らかにし、他のたくさんの問題を解決しました。大きな党の組織、そしてさらに大きな謀議は念入りで絶え間ない心配りを必要としていました。終わったのは9時でした。

「じゃ、おやすみなさい、ゴドイ;」彼は市長に言いました。
「明日もまた忙しい一日になるでしょう。独裁者をびっくりさせるために工夫しなければなりません。彼がいつ話を聞くか教えてください。」

市庁舎の入り口で彼は貸馬車を呼びました。これは社交の季節の沈滞にも政治的な騒動にも通常の業務を妨げられることのない乗り物です。短いドライブの後、彼は小さいけれどもエレガントでなくはない家に到着しました。それは街の最もファッショナブルな地区にありました。彼は財力のある人だったのです。ノックすると年老いた女性が扉を開けました。彼女は彼を見て喜びました。

「ラ」彼女は言いました。「あなたがいなくて恐かったわ、その上この銃声と騒音でしょう。でも、もう午後には肌寒いのでコートを着ていくべきでしたね。明日あなたが風邪をひくのではないかと心配です。」

「大丈夫ですよ、ベティン」彼は優しく答えました。「胸の調子はいいです、ご心配ありがとう;でもとても疲れています。部屋にスープを持ってきてくれませんか;今夜は食事はしません。」

彼女が間に合わせの最良の夕食を作るため騒がしくしている間に彼は二階に上がりました。彼の住むアパートは2階にありました―寝室、浴室、そして書斎。それは小さいものでしたが、趣味と贅沢が考え出し、愛着と勤勉さによって維持されるすべてのものでいっぱいでした。一番いい場所を占めているのは幅広い執筆テーブルでした。手や頭に都合よく光が当たるように配置されていました。その中心には大きなブロンズ製のインクスタンドが置いてあり、その前に大量の簡易製造のブロッティング・ブック(*インク吸い取り紙を綴じたもの)が広がっていました。テーブルの残りの場所は書類ファイルが占めていました。十分な紙屑籠があるにもかかわらず、床には切り抜きが散らばっていました。それは公人の執筆テーブルでした。

部屋は携帯用傘つきランプの中の電灯で照らされていました。壁は棚で覆われ、読み込まれた本でいっぱいでした。その文献のパンテオン(*万神殿)にはそれらを読んで価値を高く評価しない限り誰も立ち入ることを許されないのでした。それは多彩な蔵書でした:ショーペンハウアーの哲学はカントとヘーゲルの間にあり、ヘーゲルは「サン・シモン回想録」と最新のフランスの小説を押しのけていました;「ラッセラス」と「ラキュレ」は並んでいました;おそらく「デカメロン」の豪華本はギボンの有名な歴史書の重厚な8巻を不当に延長してはいませんでした;「種の起源」はブラック・レター(*12~15世紀まで使われていた書体)の聖書の横にありました;「国家(*プラトン)」は「ヴァニティフェア」と「ヨーロッパの道徳の歴史」の間で均衡を保っていました。マコーリーのエッセイは執筆テーブルの上にあって;開かれていました。そしてそれによって一人の天才がもう一人の天才に不朽の名声を与えたあの荘厳な一節に鉛筆で印がつけられていました。そして歴史は激しさ、高さ、大胆さを戒めるために彼の多くの誤りを記録しているが、彼と同年代の著名人の間に、より潔白でより輝かしい名前を残した人を殊更に公言することは今もってない。(*ウイリアム・ピットについての記事より)

半分空のタバコの箱が低い革張りのアームチェアの近くの小さなテーブルの上に立っていました。その横には重い軍用リボルバーが置かれており、その銃身の周囲からは多くのタバコの灰が取り除かれていました。部屋の隅には小さいながらも優雅なカピトリーノのヴィーナスが立っていました。その色の冷たい純潔はその姿態の魅惑を咎めていました。それは哲学者の部屋でしたが、冷淡で観念的な隠者の部屋ではありませんでした;それはすべての地上の喜びを味わい、その本来の価値を値踏みし、楽しみ、軽蔑した人間、人間らしい人間の部屋でした。

テーブルの上には未開封の書類や電報がまだ残っていましたが、サヴローラは疲れていました;それは朝まで待つことが可能、あるいはいずれにせよ待つべきでした。彼は椅子に倒れこみました。そう、それは長い一日であり、憂鬱な一日でした。彼は32歳の青年でしたが、すでに責務と気苦労の影響を感じていました。その神経質な気質は彼が最近経験した躍動的な光景に興奮することは間違いなく、感情の抑圧は内向きの火を熱くするだけでした。それには価値があったのでしょうか?闘争、苦心、絶え間なく押し寄せる事件、人生を楽にしたり、快適にしたりする多くのものの犠牲―何のために?人々のために!彼が自分自身から隠すことができなかったのは自らの奮闘の理由というよりむしろその方向でした。野心が原動力であり、彼にはそれに抗う力がありませんでした。彼は芸術家の喜び、美しさの探求に捧げられた人生、またはスポーツの喜び、棘すら残さない最も強烈な喜びの価値を知っていました。人々の喧噪から遠く離れ、芸術と知性が勧めるあらゆる気晴らしとともに、夢のような静かで哲学的な静けさのある美しい庭園に住むことは、より心地よいことだろうと感じていました。しかし自分がそれに耐えられないことを知っていました。「激しく、高く、大胆に」がその心の形でした。彼が生きてきた人生は彼が今まで生きることができた唯一のものです;最後まで続けなければなりません。行動の中にだけ休息があり、危険の中にだけ満足があることを知り、混乱の中にだけ自らの唯一の平和を見出すように精神が鍛えられている、そのような人々はしばしば早逝します。

彼の考えはトレイを持った老婦人が入ってきたため中断されました。疲れていても礼儀は守らなければなりませんでした;彼は起き上がり、服を着替えて身仕舞をするために奥の部屋に入りました。戻ると食事の用意ができていました;彼が頼んだスープは家政婦の世話でより手の込んだ食事に拡充されていました。彼女は彼の給仕をし、しばらくの間質問を浴びせかけ、世話を焼くことを喜びながら彼の食欲を見ていました。彼女は彼の誕生の時から休むことのない献身と気配りで子守をしてくれていました。こうした女性の愛、それは不思議なものです。おそらくそれは世界で唯一の利害関係のない愛情です。母親は子供を愛します;それは肉体的なものです。若者は彼の恋人を愛します;それも説明できるでしょう。犬は主人を愛します;養ってくれるからです。人が友人を愛します;多分確信を持てない時に味方をしてくれたのでしょう。すべてには理由があります;しかし保母の世話におけるその愛は絶対的に不合理に見えます。それは様々な思想が束になっても説き明かすことができない、人間の本質が単なる功利主義よりも優れており、その運命は高い、ということの数少ない証拠の1つです。

軽く質素な夕食が終わり、老婦人が皿を持って立ち去り、そして彼は再び考えにふけりました。差し迫った未来のいくつかの困難な事件、その取扱いについて彼は確信を持っていませんでした。彼はそれらを心中から去らせることにしました;なぜ彼は常に事実の問題で抑圧されなければならないでしょうか?夜はどうなっている?彼は立ち上がって窓まで歩いて行き、カーテンを引いて外を見ました。通りはとても静かでしたが、遠くでパトロールの重い足音が聞こえたように思いました。すべての家は暗くて陰鬱でした;頭上に7は星が明るく輝いていました。それを見るには最適な夜でした。

彼は窓を閉め、ろうそくを持って部屋の片側にあるカーテン付きのドアまで歩きました;それを開けると平らな屋根に通じる狭いらせん階段がありました。ローラニアの家のほとんどは低く、トタン屋根に到達するとサヴローラは眠っている街を見下ろしていたのでした。ガス灯の列が通りと広場を示し、明るい点が港の船舶の位置を示していました。しかし彼はそれらを長くは見ていませんでした;今のところ人々とその責務にうんざりしていたのです。この空中のプラットフォームの一角に小さなガラスの天文台が立っていて、開口部から望遠鏡の先端が出ていました。ドアの鍵を開けて彼は中へ入りました。これは誰も見たことのないその人生の一面でした。彼は発見や名声に熱心な数学者ではありませんでしたが、その謎故に星を見るのが好きでした。いくつかの操作によって望遠鏡はこの時北天の高いところにあった美しい惑星、木星に向けられました。レンズは強力であり、周りに衛星を従えたその巨大な惑星は壮麗に輝いていました。地球は時間とともに回転するのですが、時計仕掛けのギアがそれを継続的な監視下に置くことを可能にしていました。彼は長い間それを見つめ、星を注視することが好奇心旺盛で探究心のある人々に働きかける魔力にどんどん憑りつかれていきました。

ついに彼は立ち上がりました、心はまだ地球から遠く離れていました。モララ、モレ、党、その日のエキサイティングなシーンはすべて霧がかかったように非現実的なものに思えました;別の世界、より美しい世界、無限の可能性の世界がその想像力を魅了しました。彼は木星の未来、冷却プロセスによってその表面に生命の存在が可能となる前に経過する途方もない時間、無情で動かすことのできない進化のゆっくりした着実な歩みについて考えました。胚の世界のまだ生まれぬ住人である彼らはどこに向かうのでしょうか?あるいは生命の本質のかすかな歪みに過ぎないものへ。あるいは彼の想像も及ばないものへ。すべての問題は解決され、すべての障害は克服されて;生命は完全な発展を遂げることでしょう。そして空間と時間を超えた空想はさらに遠い時代の物語に移りました。冷却プロセスは続き;生命の完全な発展は死によって終わりを迎え;全太陽系、全宇宙は、いつの日か燃え尽きた花火のように冷たくなって生命は消え去るでしょう。

それは悲しみをそそる結論でした。夜に見る夢が自分の考えと相反することを期待して、彼は天文台を閉め、階段を降りました。

 

 


第IV章
代表団

大統領は早起きするのが習慣でしたが、その前に必ず新聞で政府の政策を扱ったり、政府の行動を批判したりするような意見を読んでいました。今朝、彼の文献は非常に豊富でした。すべての新聞は選挙権の制限とその発表後の大暴動をトップ記事にしていました。彼は最初に正統派の凡庸な報道機関であるジ・アワーを開きました。これは通常、発生したニュースからその時その時に好ましいものを斟酌して政府を慎重に支援していました。1列半の記事の中でジ・アワーは大統領が選挙権を無傷で復活させることができなかったことに穏やかに遺憾を表明しました;このことは読者の大部分を満足させました。2列目ではそのような嘆かわしい結果をもたらした恥ずべき暴動に対する深刻な不承認―(無条件の非難という言葉が実際に使われました)―を表明しました;前夜に到着し、ロンドンの特派員から送られて来たものとして自分たちが一字一句をそのまま威風堂々印刷した英文原稿を大統領が差しまわしてくれたことに対して、この新聞はこのように恩返しをしたのでした。

上流階級の上品な朝刊紙であるザ・コーティアー(*宮廷人)はとても不穏当にもシーズンの初めに暴動が起こってしまったことを遺憾としました、そしてそれが7日に催されるナショナル・ボールの輝きを決して損なうことがないように、という希望を表明したのでした。そしてメニューが正式に追加された大統領主催の最初の閣僚ディナーの優れた記事がありました、そして内務省長官のセニョール・ルーヴェが病気でその行事に出席できないかもしれないことを懸念していました。膨大な数の発行部数を持つザ・ダイアーナル・ガッシャー(*昼間の感情家)は事実上コメントを控えましたが、虐殺の優れた記事を発表し、その悲惨な詳細に多くの豊かな感情と不健全な想像力を費やしていました。

これらは事実上、政府が支援を頼りにしていた報道機関でした。大統領はいつも最初にそれらを読んでいました。彼と政府、およびそのすべての仕事に急進的、通俗的、民主的報道機関のコラムが罵詈雑言で朝の挨拶をしてくることに対する防御を固めるためでした。強い言葉を常習的に使うことが招く最悪の結果は、特別な事態が実際に発生したときにそれを目立たせる方法がないということです。ザ・フェビアン(*民主社会主義者)、ザ・サンスポット(*太陽黒点)、およびザ・ライジング・タイド(*上げ潮)は他のそれほど重要ではない事件で自らの広範な語彙のすべての形容詞をすでに使い果たしていました。市民に容赦ない一斉射撃が行われ、古来の特権が攻撃された今、その感情の唯一の噴出にしては比較的穏健になってしまいました。彼らは国家元首をネロやイスカリオテと非常に頻繁かつ生々しく比較しました。これらの名士のとても好都合なところは彼らが今彼にどう対処しようとしているかが分からない、ということでした。それでも彼らはいくつかの未使用の表現を見つけ、彼の「人類の最も共通の本能の残忍な無視」の例として閣僚ディナーを強調しました。ザ・サンスポットは「大食いの汚れた乱行にふけり、血に染まった指を選りすぐりの料理に伸ばしている。その間、犠牲者の体は埋葬されておらず、復讐されていない。」と特別楽しそうに閣僚に言及していた、と読者たちは思いました。

熟読を終えた大統領は、最後の新聞をベッドから押し出し、眉をひそめました。彼は批判を全く気にしませんでしたが、マスコミの力を知っていて、それが世論を反映しているだけではなく影響を与えていることを知っていました。バランスが反対側に傾いていることは間違いありませんでした。

朝食時、彼は不機嫌に沈黙していました、そこでルシールは賢くも不自然な平凡な朝の会話で彼を苛立たせないことにしました。彼はいつも9時までに仕事を始めていましたが、今朝はいつもより早く始めました。モララが入ったとき、秘書はすでに自分のテーブルで忙しく書き物をしていました。彼は立ち上がってお辞儀をしました。これは正式なお辞儀であり、敬意を表すというよりは平等を主張しているように見えました。大統領はうなずきました、そして彼自身の注意を必要とする書状の当該部分がきちんと整理されている自分のテーブルへと向かいました。彼は座って読み始めました。そして時折、同意または不承認の叫び声を発し、しばしば決定と意見を書き込むために鉛筆を使いました。ミゲルは時折、彼がこのように対処した書類を集め、隣の部屋の下位の秘書の元へ運びました。その任務は「即刻拒否」「もちろん否」「戦争省へ」「何度も答弁した」「同意しない」「昨年の報告を見よ」などのフレーズを堂々たる華麗な公式用語へと推敲することでした。

ルシールにも読み書きする手紙がありました。それを終えた後、公園へドライブすることにしました。過去数週間、実際夏の別荘から戻って以来、ここ数年間続けてきた習慣をやめていました;しかし前日の情勢や暴動の後、自分が持っていなかった勇気を見せることが義務だと感じたのでした。彼女の美しさは美を愛する人々が一様に敬意を表するほどのものだったので、それが夫を助けることになるかもしれません。それは少なくとも害にはならず、さらに彼女は宮殿とその庭園にうんざりしていたのでした。こうした意図で馬車が仕立てられ、彼女がそれに乗り込もうとしたとき、ドアのところに若い男が到着しました。彼は重々しく挨拶をしました。

政治を私生活に持ち込んだり、私生活を政治に持ち込んだりしないのはローラニア共和国の市民の誇りでした。彼らがそれについてどこまでを正当化していたのかは後で分かることでしょう。現在の状況は間違いなくその原則を極限まで緊張させていましたが、政治的敵対者の間でも依然として礼儀は交わされていました。ルシールは内戦前に父の家を頻繁に訪れていた偉大な民主主義者を知っていて、ずっと公的な知己であったため、微笑んでお辞儀を返し、大統領に会いに来たのですか、と尋ねました。

「はい」と彼は答えました。「約束があります。」

「公的なご用事かしら?」彼女は仄かに微笑んで尋ねました。

「はい」彼はややぶっきらぼうに繰り返しました。

「あなた方はみんな、どんなにやっかいなことかしら」彼女はずけずけと言いました。「あなた方の公的用件とまじめくさった顔ったら。朝から晩まで私が耳にするのは国の事ばかりです。そして今、1時間リラックスするために宮殿を出ようとすると、まさにそのドアで私はあなた方に出会うのです。」

サヴローラは微笑みました。彼女の魅力に抵抗することは不可能でした。大統領との会見の準備のために精神は注意深くそして断固とした状態であったにもかかわらず、彼がいつも彼女の美しさとその機知に感じていた憧れが自己主張をしました。彼は若い男であって、憧れる惑星は木星だけではありませんでした。(*金星=ヴィーナス)「閣下」彼は言いました。「私の全ての意図に無罪宣告をしていただかなければなりません。(*決して故意にしたことではありません)」

「そうします。」彼女は笑いながら答えました。「そしてあなたをそれ以上罰しません。」

彼女は御者に合図して会釈し、馬車で走り去りました。

彼は宮殿に入り、青ともみ革色の共和国の制服を纏ってまばゆく輝く従僕に控えの間へと案内されました。前日に護衛を指揮していた親衛隊の若い将校である中尉が彼を迎えました。大統領は数分で手が空くでしょう。代表団の他のメンバーはまだ到着していませんでした;その間座るだろうか?中尉は怪訝そうに彼を見ました、見るだけなら害はない、しかし怒らせたときの力には驚くべき逸話をがある不思議な動物を見るように。彼は最も正確な連隊の理念で育てられていました:人々(彼は暴徒をこう表現しました)は「豚」でした;彼らのリーダーも同じで、その前に形容詞を付けていました;民主的制度や議会などはすべて「腐敗」していました:したがって彼とサヴローラには共通の話題がほとんどなさそうでした。しかしその美貌とマナーに加えて、若い兵士は他の技能を持っていました;部下は彼が「申し分なく」「抜け目がない」ことを知っていました。彼は親衛隊ポロチームの槍騎兵たちから最も有望な選手と見なされていたのです。

すべてを知ることを本分としているサヴローラは、最近ローラニア騎兵隊が議論したハーリンガムでの毎年恒例の大規模トーナメントに出場するためポロチームをイギリスに派遣する、というプロジェクトについて尋ねました。ティロ中尉(それが彼の名前でした)は喜んでそのテーマに飛びつきました。彼らは誰を「バック」にするべきかについて論争しました。市長とレノスが入って来るとようやく議論は中断し、中尉は大統領に代表団が待っていることを知らせるために出ていきました。

「すぐに会うことにしよう。」とモララは言いました。「ここに来させなさい。」

そこで代表団は階段を上って大統領の個室へ案内されました。彼は立ち上がり、礼儀正しく彼らを迎え入れました。ゴドイは市民の不満を述べました。彼は過去5年間の違憲政府に対する彼らの抗議と、ともに身分制議会を召集するという大統領の約束に対する彼らの喜びを撤回しました。彼は選挙権の制限に対する自分たちのひどい失望と、それが完全に回復されるべきであるという強い願望を述べました。彼は兵士が非武装の人々を撃ち殺した残酷さに憤慨し、ついに市長として大統領への忠誠心や彼の人格へ敬意を保証することはできないと宣言しました。レノスは同じ調子で話し、特に最近の大統領の行動の法的側面、後世への先例としてのその影響の重みについてくどくど話しました。

モララはかなり長い返答をしました。彼は国、特に首都の混乱した状態を指摘しました;彼は終戦の混乱とそれが人々の大衆に引き起こした苦しみに言及しました。国が求めていたのは強力で安定した政府でした。事態がより落ち着くにつれて選挙権は最終的に完全に元通りになるまで拡張されるでしょう。それについて、何が不満なのですか?法と秩序が維持されました;公共サービスは良く管理されていました;人々は平和と安全を享受しました。それ以上に力強い外交政策は国の名声を高く保ちました。あなた方は実例を見るべきです。

彼は振り返り、ミゲルにアフリカ紛争に関する英国の文書への返信を読むように命じました。秘書は立ち上がって、その柔らかく満足げな声がそこに含まれる侮辱を強調するのに非常に適していることを実証しつつ、件の紙を読み上げました。

「そしてそれは、紳士諸君」読み終わったとき大統領は述べました。「世界で最も偉大な陸軍力と海軍力を持つ国のうちの一つに宛てたものなのです。」

ゴドイとレノスは黙りました。その愛国心は奮い立たされました;そのプライドは満足しました。しかしサヴローラは挑発的に微笑みました。「ディスパッチ以上のものが必要でしょう。」彼は述べました。「イギリス人をアフリカの勢力圏から遠ざけておくため、あるいはローラニアの人々をあなたの支配と和解させるためには。」

「そして、より強力な手段が必要となれば」と大統領は言いました。「それを取るので安心してください。」

「昨日の出来事があった後でそのような保証が欲しいとは思いません。」

大統領は嘲りを無視しました。「私は英国政府を知っている」と彼は続けました;「彼らは武器に訴えることはない。」

「そして私は」サヴローラは言いました。「ローラニアの人々を知っています。(*武器に訴えるかどうか)私は確信が持てません。」

長い間がありました。二人の男は向かい合い、その目が合いました。それは闘う2人の剣士の姿であり、2人の憎い敵同士の姿でした;彼らは距離を測り、チャンスを伺っているようでした。そして微笑みを唇に残したままサヴローラは顔を背けました;しかし彼は大統領の心中を読んで、まるで地獄を見たような気がしました。

「それは意見の分かれるところです、サー。」とモララはついに言いました。

「まもなく歴史の分かれ目になるでしょう。」

「他の話を先にするべきでした。」大統領は言って、非常に形式的に続けました。「市長殿と紳士諸君、あなた方がある階級の人々の中に存在する不穏で危険な集団について知らせてくれたことを感謝します。あなた方は暴動を防ぐためのあらゆる予防措置を頼りにして良いのです。またこれからも情報を提供してください。では良い朝を。」

とるべき唯一のコースはドアのようでした、そしてサヴローラが大統領の謁見に感謝し、市民の敵対的意見を強く訴える機会があればまたいつでも必ず来ることを確認した後、代表団は退出しました。階段を降りる途中、ドライブから思いがけず早く帰ってきたルシールに出会いました。彼女は彼らの表情から白熱した議論が行われたことを知りました。彼女はゴドイとレノスを気に留めず通り過ぎましたが、自分は政治に興味がなく、人々がどうしてそんなに興奮していたのか理解できない、とサヴローラに伝えるかのように楽し気に微笑みかけました。笑顔は彼を裏切りませんでした;彼は彼女のセンスや天分をあまりにもよく知っていましたが、なおいっそう彼を憧れさせたのはそのしぐさでした。

彼は家へと歩きました。会見は完全に満足のいくものではありませんでした。決して大統領を説得できるなどと期待していたわけではありませんでした;それは確かにほとんどありえないことでした;しかし彼らは国民の意見を表明したのであり、ゴドイとレノスはすでに自分たちの発言の写しを新聞に送っていたので、党派はこうした危機におけるリーダーの怠慢に不満を言うことはできませんでした。彼はモララを怖がらせたと思いました。もし実際にそうした男を怖がらせることができるものであれば;とにかく彼を怒らせました。彼はこれに思い当たったとき、喜びを感じました。なぜ?彼はこれまでそのような非哲学的で無益な感情をできる限り抑圧してきましたが、どういうわけか今日、彼は大統領に対するその嫌悪感がより暗い色合いを帯びているように感じました。そして彼の心はルシールへと戻りました。彼女はなんと美しい女性だったことでしょう!すべての真のウィットの源である人間の感情のその自然の知識にどれほど満ちていることか!モララはそのような妻を持つ幸運な男でした。断固としてサヴローラはモララを個人的に嫌っていました、しかしそれは、もちろん彼の違憲行為のせいです。

彼が自分の部屋に着くとモレが待っていて、大いに興奮し、明らかに怒っていました。彼は自らのリーダーに彼とその党との一切の関係を断つという不変の決意を告げる何通もの長い手紙を書いたのですが;それらをすべて引き裂き、そして今や率直に話すことを心に決めていたのでした。

サヴローラは彼の表情を見ました。「あぁ、ルイ」彼は叫びました。「会えてうれしいよ。本当によく来てくれた。ちょうど大統領と話してきたところだ;彼は強情だよ;1インチも動かないだろう。君のアドバイスが欲しい。僕らはどうしたら良いのだろう?」

「どうだったの?」若い男は不機嫌に、しかし興味津々で尋ねました。

サヴローラは会見について生き生きと簡潔に話しました。モレは注意深く耳を傾け、それでもまだ大変不機嫌に「彼が理解できる議論は物質的な力だけなのだ。蜂起するしかない。」と言いました。

「おそらく君が正しいのだろう。」とサヴローラは思慮深く言いました。「僕は半ば君に同意しかけている。」

モレは自分の提案を力強くかつ真剣に主張しましたが、そのリーダーは彼が提案した暴力的措置にそれほど同意しているようには見えませんでした。30分間、彼らはその点について話し合いました。サヴローラはまだ納得していないようでした;彼は時計を見ました。「2時過ぎだ」彼は言いました。「ここで昼食をとって問題を徹底的に話し合おう。」

そうすることになりました。昼食会は素晴らしく、亭主の議論がどんどん説得力のあるものになりました。ついにモレはコーヒーを飲みながら、おそらく待ったほうがよいだろうということを認め、二人は心からの友情とともに別れました。

 

 


第V章
密談

「それは」大統領は代表団が退出して扉が閉まるやいなや腹心の秘書に言いました。「終わったが、これからもっとたくさんあるだろう。サヴローラは間違いなく中央選挙区で選出されるだろう。そうなったら上院で彼の話を聞くのを楽しむ羽目になる。」

「何かが」とミゲルは付け加えました。「起こらない限り。」

部下についてよく知っていた大統領はその言外の意味を理解しました。「いや、それは良くない;それはやってはいけない;50年前なら良かったかもしれない。今日人々はそのようなことに我慢できない;軍隊でさえ良心の呵責を感じるだろう。彼が法を犯さない限り、憲法を守りながらどうやって彼に手を下すことができるか私にはわからない。」

「彼は大きな力であり、大きな力;時には、私が思うにローラニアで最も大きな力です。日ごとに彼は力を増しています。やがて終わりが来るでしょう。」とモララの危険の、それと同じく行動のパートナーとして秘書はゆっくりと思慮深く言いました。彼にはなすべき主張がありました。「終わりが来ると思います。」と彼は続けました。「おそらくすぐに―しない限り―?」一度言葉を切りました。

「それはできないと言ったはずだ。いかなる出来事も私のせいにされるだろう。それはこの国における革命を意味し、すべての国外亡命の道を閉ざすだろう。」

「力、物理的な力以外にも他の方法があります。」

「どんな方法か、私には分からない、そして彼は強い男だ。」

「サムソンもそうでしたが、それでもペリシテ人は彼を役立たずにしました。」

「女性を通じてだったな。彼は恋をしたことがないと思う。」

「今後しない理由はありません。」

「デリラがいればな」と大統領は冷淡に言いました。「彼のデリラを探してくれるのかね。」

秘書の目は何気なく部屋の中をさまよい、ルシールの写真の上で一瞬止まりました。

「よくもそんなことを、サー!おまえは悪党だ!おまえには美徳のかけらもない!」

「私たちは以前からの付き合いです、将軍。」彼はこういう時にはいつも将軍と呼ぶのでした、それは彼らが戦争中に一緒に働いたときに起こった様々な小事件を大統領に思い出させました。「おそらくそのせいです。」

「お前は失礼だ。」

「私の利害も関係しているのです。私にも敵がいます。秘密警察に守られていなければ私の人生などなんの価値もないことをよくご存じでしょう。私は誰と一緒に、誰のためにああいうことをしたかを覚えているだけです。」

「たぶん私は短気なのだろう、ミゲル、しかし限度がある、たとえ―」友達と言おうとしましたが、ミゲルは共犯者、と口を挟みました。「では」モララは言いました。「何と呼んでも構わない。あなたの提案は何かね?」とモララは言いました。

「ペリシテ人は」とミゲルは答えました。「サムソンを役立たずにしましたが、デリラはまず彼の髪を切らなければなりませんでした。」

「彼に手を握ってもらうよう、彼女は懇願しなければならないということかね?」

「いいえ、それは無駄と思います。しかし彼が歩み寄った場合―」

「しかし彼女は、彼女は同意しないだろう。巻き込まれることになる。」

「必ずしも奥様がご存じである必要はありません。彼に近づく別の目的を伝えるのが良いでしょう。驚かせてはいけませんから。」

「おまえは悪党―地獄の悪党だ」と大統領は静かに言いました。

ミゲルは褒め言葉をもらって微笑みました。「この問題は」彼は言いました。「深刻すぎるため通常の礼儀と名誉の規定では対応できません。特殊な症例には特殊な治療が必要です。」

「彼女は決して私を許さないだろう。」

「あなたは許す方です。あなたは寛容なのでまだ犯されていない罪を許すことができるでしょう。あなたは嫉妬深い夫を演じ、後で自分の過ちを認めるだけです。」

「そして彼はどうなる?」

「大人気のリーダーを想像してみてください。愛国者、民主主義者、なんやかや、暴君の妻といちゃついているところを見つかった。なぜ?みだらであるというだけで多くの人が愛想をつかすでしょう。そしてさらに彼が慈悲を乞い、大統領の足元にひれ伏しているのを見る―いい眺めだ!彼は破滅するでしょう;嘲笑だけでも彼を殺すことができるでしょう。」

「そうかもしれない」とモララは言いました。その光景が気に入ったのでした。

「そうしなければなりません。私の見るところそれがたった一つのチャンスであり、あなたには何の負担もありません。すべての女性は、たとえそれが彼女の夫であったとしても、彼女が愛する男性の嫉妬を秘かに喜んでいるのです。」

「どうしてそんなことを知っているのかね?」モララは仲間の醜い縮み上がった姿とテカテカの髪を見て尋ねました。

「私は知っています」ミゲルは憎むべき自尊心でニヤリとしました。彼の欲望についての示唆はぞっとするようなものでした。大統領は嫌悪感を催しました。「秘書ミゲル氏」彼は決然とした態度で言いました。「二度とこの件について話さないよう頼む。それはあなたの上司よりもあなたの心のためにならないだろうと思う。」

「閣下の態度から、これ以上の言及が無用なことはわかります。」

「昨年の農業委員会の報告はあるかね?いいね―要約を作ってくれ;なんらかの事実が欲しい。首都を失っても国は守られるだろう;それは軍の望ましい役割を意味している。」

このようにこの問題は却下されました。それぞれがお互いを理解し、その背後では危険に拍車がかかっていました。

朝の仕事を終えた後、大統領は部屋を出るために立ち上がりましたが、その前にミゲルの方を向いて突然言いました:「上院が開会してから野党がどのような方向を目指しているかが分かるなら、私たちにはとても好都合だろう。違うかね?」

「その通りです。」

「どうすればそれをサヴローラに言わせることができるだろう?買収はできない。」

「別の方法があります。」

「物理的な力を考えるべきではない。」

「別の方法があります。」

「それについては」大統領は言いました。「二度と話さないよう指示したはずだ。」

「まさにその通りです。」と秘書は言って書きものを再開しました。

モララが歩み入った庭園は国内で最も美しく有名なものの1つであり、そこではすべての植物が華麗な外観を獲得していました。土壌は肥沃で、太陽は熱く、雨は豊富でした。それは魅力的な無秩序を呈していました。対称的な形の同数の小さな木を数学的なデザインで正確に配置したり、または箱状生垣と狭い通路で幾何学的図形を作成したりすることに美しさを見いだすあの独特の趣味にローラニア人は憧れていませんでした。彼らは頑迷な人々であり、その庭は幾何学や正確さに対する異例の軽蔑を見せていました。心地よいコントラストで配置された夥しい色は光であり、涼しい緑の木陰は彼らの田舎の風景の中の影でした。彼らのガーデニングの理想はすべての植物をできる限り自然が指図しているかのように自由に成長させ、そしてできる限り人の手で栽培されもののように高い完成度にすることでした。結果は芸術的でなくとも;少なくとも美しいものでした。

しかし大統領は花やその配置をほとんど気にしていませんでした;彼は、その言によれば、色、調和、線の美しさに関わり合うには忙しすぎる男でした。バラの色彩もジャスミンの香りも彼の中に自然で無意識な初歩的身体的愉快以上のものを呼び起こすことはありませんでした。彼は良い花畑を持っていることを好みました、それを持っていることは正しいことでした、なぜなら彼はそこに人を連れて行って個人的に政治問題について話すことができましたし、また午後のレセプションにも便利だったからです。しかし彼自身はそれに興味がありませんでした。家庭菜園の方がより魅力的でした;その実用的な魂は蘭よりも玉ねぎを喜んでいました。

彼はミゲルとの会話で頭がいっぱいになっていました、そして大きくせかせかしたストライドで噴水に通じる日陰の小道を下りました。事態は絶望的でした。それはミゲルが言ったように時間の問題でした―しない限り―サヴローラが始末されたり信用を失ったりしない限り。彼は自分の心を捉えた考えをきちんとまとめることを差し控えました。自ら権力闘争をしていた手荒い戦争の時代に彼は多くのことをしましたが、その記憶は快いものではありませんでした。彼は恐るべきライバルであった兄弟将校、新進の連隊の大佐のことを思い出しました;決定的な瞬間に彼は支援を差し控え、敵に自分の進路の障害を1つ取り除かせたのでした。それから別のことが心に浮かびましたが、それも快いものではなく、条約破り、休戦破りの話でした;合意に基づいて降伏した兵士たちを彼らが長い間保持していた砦の壁の前で撃ったのでした。また捕らえたスパイから情報を得るために使った方法を苛立ちながら思い出しました;成功と幸運の5年間の忙しい生活も、男の苦悶の表情の記憶を不鮮明にすることはありませんでした。しかしこの新しいアイデアはすべての中で最も憎むべきものでした。彼は悪辣でしたが歴史上、あるいは現代に生きる多くの人々と同様に不名誉な過去を片付けてしまいたいと思っていました。今後は、と権力を獲得したときに彼は言いました、そういった手段を使わない;それはもはや必要ないだろう;しかしここでもうそれが必要になったのでした。加えてルシールはとても美しく;そのためだけに彼は苦労しながらも彼女を愛したのでした;そして彼が憧憬し、純粋に公的立場からも評価するほど彼女は機転が利き、光り輝く配偶者でした。もし彼女が知ったなら決して彼を許さないでしょう。彼女は決して知ることはないでしょうが、それでも彼はそのアイデアを憎んでいました。

しかし他にどのような道が残っていたでしょうか?彼は前日の群衆の顔つきについて;サヴローラについて; 軍隊から彼に届いた話について;より暗く、より奇怪な類の別の話―革命と同じく殺人を示唆した奇妙な連盟と秘密結社の話について考えました。潮が満ちていました。手間取ることは危険でした。

そして、代案が浮かびました;脱出、退位、軽蔑され、侮辱され、疑われながらの外国でのわびしい暮らし;そして聞くところによると亡命者はみなたいそう長生きだったそうです。それについて彼は考えませんでした;むしろ死のうとしていました;彼を宮殿から引きずり出すことができるのは死だけであり、彼は最後まで戦うでしょう。彼の心は内省の出発点に戻りました。ここにはチャンスがありました、可能と思われる1つの解決策です;それは望ましいものではありませんでしたが、それしかありませんでした。彼が小道の終わりに到達し、角を曲がるとルシールが噴水のそばに座っていました。絵のように美しい姿でした。

彼女は彼の上の空の表情を見ました、そして立ち上がって彼を迎えました。「どうしたのです、アントニオ?心配そうですね。」

「事態は私たちにとって悪い方向に向かっています。私の愛する人よ。サヴローラ、代表団、新聞、そして何よりも私が受け取った、人々についての報告は不吉で憂慮すべきものです。」

「今朝ドライブしたとき、不穏さに気がつきました。危険があると思いますか?」

「はい」彼はその正確な公式の態度で「重大な危険があります。」と答えました。

「私にあなたをお助けすることができればいいのですが」と彼女は言いました。「私はただの女性です。私に何ができるでしょう?」彼は答えず、彼女は続けました。「セニョール・サヴローラは親切な人です。私は戦前彼のことをよく知っていました。」

「彼は私たちを滅ぼすでしょう。」

「そんなはずはありません。」

「私たちは国を去らなければならないでしょう。もし本当に彼らがそれを許すのであれば。」

彼女は青ざめました。「でも私は人々がどのように見ているか知っています;私と同じです;彼は狂信者ではありません。」

「彼の背後と足元には彼がほとんど知らず、制御することもできない、しかし彼が呼び起こした力があるのです。」

「あなたにはどうすることもできないのですか?」

「私には彼を逮捕することができません。彼は人気がありすぎて、その上法律に違反していないのです。彼はさらに前進してくるでしょう。2週間後に選挙があります;私がとった予防措置をものともせず戻ってくるでしょう;そしてトラブルが始まるのです。」彼は言葉を切り、独り言のように続けました。「彼が何をしようとしているか分かるなら、おそらく打ち負かすことができるのだが。」

「私がお手伝いできませんか?」素早く彼女は尋ねました。「私は彼を知っています;彼は私のことを好きだと思います。他の人に言わないことを私にささやくかもしれません。」過去の数多くの勝利を思い出していました。

「私の最愛の人よ」とモララは言いました。「なぜあなたは政治の暗い面に首を突っ込んで自分の人生を台無しにしようとするのですか?あなたに頼みたいとは思いません。」

「でもやりたいのです。お役に立てるのならやってみるつもりです。」

「とても役に立つでしょう。」

「わかりました、私はあなたのために探ります;2週間以内にお知らせできるでしょう。彼はナショナル・ボールに来るはずです。そこで彼に会おうと思います。」

「あなたにああいう男と話をさせるのは気が進みませんが、あなたの機知を知っています、そして必要は大きいです。しかし彼は来るでしょうか?」

「招待状と一緒にメモを送ります。」と彼女は言いました。「政治を笑い飛ばし、少なくとも私生活をそれから解放するよう忠告します。彼は来ると思います。来なかったら別の方法で会います。」

モララは感心して彼女を見ました。彼女が自分にとってどれほど有用であるかを知ったこのときほど彼女を愛したことはありませんでした。「それではあなたに任せます。失敗するのではないかと心配ですが、もしあなたにそれができるなら、あなたは国家を救うことになるかもしれません。もしできなかったとしても、なんの害もありません。」

「私はきっと成功します。」と彼女は自信を持って答え、立ち上がって宮殿に向かって歩き出しました。夫の態度から彼が一人になりたがっていることに気づいていたのでした。

彼は長い間そこに座ったまま、太くて怠惰な金魚が穏やかに泳いでいる水を見つめていました。その顔はなにか嫌なものを飲み込んだ人のような表情をしていました。

 

 


第VI章
憲法に基づいて

ローラニア共和国の賢明な創設者たちは党派に関係なく、国の公人たちの間で社交の実践を維持し促進することの大切さを知っていました。そこで大統領が秋のシーズン中にいくつかの公式の催しを行うことは長い間の習慣であり、両方の側のすべての著名な人物がそれに招待され、出席することがエチケットとされていました。今年は感情が非常に高ぶっており、関係が非常に緊張していたため、サヴローラは受け入れないことを決め、すでに正式に招待を断っていました;そこで2回目のカードを受け取ったときに彼は少なからず驚きました。さらにそれに付いてきたルシールのメモを読んでなおさら驚きました。

彼は彼女がそれを承知の上ですげなく断られようとするのを見て、なぜそういうことしたのかを不思議に思いました。もちろん彼女は自分の魅力を頼んでいました。不可能ではないにしても、美しい女性を冷たくあしらうのは難しいことです;彼女らは美しいままであり、叱責は跳ね返されます。実際、こうした危機的な時に届いた招待状を握りつぶすことで彼は政治的資本を築くことになるでしょう;しかし彼は彼女の好意を感じ、少なくとも彼女は危機と関係がないのだと思いました。これは喜ばしいことでした。行けないのは残念でした。しかし決心して辞退の手紙を書くために座りました。手紙の途中で手が止まりました;もしかして彼女は自分の助けを必要としているのかもしれない、という考えが浮かびました。手紙をもう一度読みました。そしてメモから、それを保証する言葉などなかったのですが、アピールを見つけたと思いました。そして考えを変える理由を探し始めました:古い確立された習慣; 差し当たり自分は憲法運動だけに賛成しているということを追随者に示す必要性;計画の成功に対する自信を示す機会;実際、彼の決意に反するすべての論点が並べ立てられました、本当の一つの論点以外は。

はい、行きます;党派は反対するかもしれませんが、気にしません。彼らはそれに関係がない、そして彼はその不満に十分立ち向かえるほど強いのです。この考え事はモレが入ってきたことで中断されました。その顔は熱狂で輝いていました。

「中央選挙区委員会が満場一致で君を選挙の候補者に指名してくれたよ。独裁者の人形、トランタはヤジで参っていた。木曜の夜に君が演説するための集会を手配したよ。僕らはいま波に乗っているぞ!」

「首都!」 サヴローラは言いました。「指名を期待していたんだよ;首都での僕らの力は絶大だからね。話す機会があることはうれしい;しばらく集会に出ていなかったから、今は話すことがたくさんあるのだ。君が手配してくれたのは何日だっけ?」

「木曜夜8時、市民会館」モレは言いました。彼は楽観的な人物でしたがテキパキとしていないわけではありませんでした。

「木曜日?」

「うん、予定はないだろう。」

「うーん」サヴローラはゆっくりと話し、考えながらものを言っているようでした。「木曜はナショナル・ボールの夜だね。」

「わかってるよ。」モレは言いました。「だからこそ僕はそのように手配したのさ。彼らは火山の上で踊っているように感じることだろう。宮殿からわずか1マイルのところに人々が集まって、合意して、決意するのだからね。モララは夜を思いのままに楽しむことができず;ルーヴェは行かず;ソレントは必要に応じて虐殺の手配をするだろう。祝祭は台なし;彼らは皆、壁に書かれた文字を見ることになるのさ。(*凶事の前兆:バビロン王ネブカドネザルが宴会の最中に不思議な手が壁に文字を書くのを見たことに因む)」

「木曜はだめだ、モレ。」

「だめ!どうして?」

「舞踏会に行く。」サヴローラはゆっくりと言いました。

モレははっと息を飲みました。「なに」叫びました。「きさま!」

「絶対に行くよ。昔からの国の慣習を無視してはいけない。行くことは僕の義務だ;僕らは憲法のために戦っている、そして僕らはその理念を重んじなければならない。」

「君はモララのもてなしを受ける―奴の宮殿に入って―奴が出すものを食べるということか?」

「違う」サヴローラは言いました。「僕は国から出されたものを食べるのだ。君も知っている通り、これら公共の費用は国民全体が支払うのだから。」

「君は奴と話をするのか?」

「するよ、向こうは楽しまないだろうがね。」

「じゃあ奴を侮辱するのか?」

「親愛なるモレ、なぜ君はそんなことを考えるのかな?僕はとても礼儀正しくする。それが奴を一番怖れさせることだろう;何が差し迫っているのかが分からないのだから。」

「行ってはいけない」モレは断固として言いました。

「必ず行く。」

「労働組合が何と言うか考えてみてくれよ。」

「僕はすべてを考えた上で決心したのだ。」サヴローラは言いました。「彼らは好きなことを言うかもしれない。しかしそれが僕はまだずっと憲法の理念を捨てるつもりがない、ということを彼らに教えることになるだろう。時にはこうした人々の熱を冷やすことが必要だ;彼らは人生を真剣に受け止めて過ぎているからね。」

「彼らは君が運動を裏切ったと非難するだろう。」

「愚かな人たちがお決まりのことを言うのは間違いない。しかし僕の友だちは誰一人それを繰り返して僕をうんざりさせることはない、と信じている。」

「ストレリッツが何と言うだろう?そんなことをした仲間と一緒にすぐにも国境を越えて来そうだけどね。彼は僕らが手ぬるいと思っていて、毎週ますます焦れているのに。」

「僕らの支援の準備ができる前に来てしまったら、軍隊は彼と烏合の衆をさっさと片付けてしまうだろう。しかし彼は僕の命令を受けているし、それに従うだろう。そう期待している。」

「君は間違ったことをしている、わかっているだろう。」モレは厳しくそして荒々しく言いました;「敵にへつらうなど、情けなくて恥ずかしいことなのは言うまでもない。」

サヴローラは自分の追随者の怒りに微笑みました。「いや」彼は言いました。「僕はへつらったりはしない。どうかな、僕のそんな姿を見たことないだろう。」そして仲間の腕に手を置きました。「不思議なことに、ルイ」彼は続けました。「僕らには多くの点で違いがある、でも僕が困難と迷いの中にいるとき、真っ先に相談するのは君なんだ。僕らは些細なことで争っている。しかし、それが大きな問題だったとしたら僕は君の判断に従うはずだ、分かるだろう。」

モレは降参しました。彼がそのように話したとき、彼はいつもサヴローラに屈服するのでした。「じゃあ」彼は言いました。「いつがいいのかな?」

「いつでもいいよ」

「じゃあ金曜日、早ければ早いほど良い」

「よーし;手配してくれ;話すことを用意しておく。」

「行かなきゃいいのに」とモレは元の異議に戻りました。「僕なら絶対行かない。」

「モレ」と見慣れない真剣さでサヴローラは言いました。「もうその話は終わったでしょう;ほかにも話すことがある。心配なことがあるんだ。運動には底流がある。僕には測り知れない力が。僕は党のリーダーをしているが、僕に制御できない力の作用に気づくことがある。彼らがリーグと呼んでいる秘密結社が未知の要因になっているのだ。僕はその仲間、ドイツ人の仲間、ナンバーワンを自称しているクロイツェが嫌いだ。僕が党内で受けるすべての反対の出どころは彼であり;労働党代議員たちはすべて彼の影響下にあるようだ。確かに君や僕やゴドイ、そして古来の憲法のために戦っているすべての人が、どこへ行くとも知らず流れている社会的潮流の政治的な波であると思う瞬間がある。おそらく僕は間違っているのだろうが、僕はずっと目を開けて見続けていて、それらの証拠が僕を考えこませるのだ。未来がぞっとするようなものであるということ以外は分からない;君は僕の味方になってくれなければいけない。抑制と制御ができなくなったなら、僕はもう先頭に立つことはできない。」

「リーグは大したことないんじゃないかな」とモレは言いました。「今のところ、僕らと運命を共にしている小さなアナキストグループに過ぎない。君は党のなくてはならないリーダーです:君が運動を創り出したのです。それを鼓舞したり鎮めたりできるのは君だけです。未知の力などありません;君が原動力なのです。」

サヴローラは窓へと歩きました。「街を見渡してみてくれ。」彼は言いました。「大変な数の建物だ;30万人が住んでいるのだ。その大きさを考えてみよう;その中にある潜在的な可能性を考えてから、この小さな部屋を見てくれ。僕がその人たちの心をすべて変えたから、または僕が彼らの思いを最もよく言い表したから、今の僕があるのだと思うか?僕は彼らの主人または彼らの奴隷だろうか?僕を信じてくれ、僕は幻想を持たないし、君にも持って欲しくないのだ。」

彼の態度はその追随者を感動させました。彼は街を見てサヴローラの真剣な言葉を聞いたとき、多くの、かすかな、抑制された、しかし雷のように激しい、風が海に向かって吹いているときの岩がちの海岸の砕け波の咆哮を聞いたように思いました。彼は返事をしませんでした。その高度に鍛えられた興奮しやすい気性はあらゆる気分と情熱を誇張するのでした;彼はいつも“最上級”で生きていました。健全な皮肉で釣り合いをとったりはしません。今や彼は非常にいかめしくなり、サヴローラに良い朝を、と告げて極度に刺激された強力な想像力の振動に揺られながらゆっくりと階段を降りて行きました。

サヴローラは椅子に横になりました。まず笑い声を上げそうになりました、しかし彼はその愉快さの全てがモレをやりこめたせいではないことに気づきました。彼は自分をもだまそうとしましたが、精妙な脳のその部分同士はあまりにも密接に関連していて、互いに隠し事ができないのでした。それでも彼はそれらが心変わりの本当の理由を公認することを許しませんでした。そうじゃない、彼は何度も自分に言い聞かせました。そしてそれがそうであったとしても、それは重要なことではなく、何も意味しない。彼はケースからタバコを取り出して火をつけ、煙の渦巻く輪を眺めました。

彼が言ったことのどれだけをモレは実際に考えていたのでしょうか?彼はモレの真剣な顔について考えました;それは彼だけのせいではありませんでした。若い革命家も何かに気づいていたのですが、その印象を言葉にすることを恐れたか、しそびれたか、控えていたのでした。今や底流がありました;行く手には多くの危険がありました。いや、彼は気にしません;自分の力に自信を持っていました。困難が生じたときには立ち向かう。危険に脅かされたなら打ち勝つ。騎兵、歩兵、大砲、なんでも来い、彼は男であり、完全な存在でした。どんな環境、どんな状況でも、自らが重視するべきファクターを知っていました;ゲームが何であれ、自分の利益のためではなかったとしても、自分の楽しみのために彼はプレイすることでしょう。

タバコの煙は頭の周りに渦を巻いて漂っていました。人生―いかに真実でなく、いかに不毛でありながら、いかに魅力的なものだろうか!自分を哲学者と呼ぶ愚か者たちは苦い事実を人々に切々と訴えかけようとしました。その哲学はもっともらしい詐欺に向いていました―痛みは重要でなく、喜びが重要であると;生を喜ばしいもの、死を偶発的なものと彼に教えたのでした。ゼノは逆境に立ち向かう方法を説き、エピクロスは喜びを楽しむ方法を説きました。彼は幸運の微笑みに浴し、悲運の渋面に肩をすくめました。彼の生活、あるいはこれまでの生活は心地よいものでした。覚えているかぎりのすべては生きる価値がありました。もし来世があるなら、ゲームが他の場所で始まるなら、また参加したいと思っていました。彼は不死を望んでいました、しかし静かに消え去ることをも望んでいました。一方、生きるということは興味深い問題でした。彼のスピーチ―彼は多くのことを成し遂げましたが、努力なしに何も良いものを得られないことを知っていました。雄弁における即興の芸当があるなどと思っているのは聴衆の側だけでした;修辞の花は温室で育てられる植物なのです。

何か言うべきことがあったでしょうか?タバコは続けざまに機械的に消費されていました。煙の中に彼は聴衆の心に深く食い入るような演説の結びを探していました;最も無学な人にも理解でき、最も単純な人にもアピールする当を得た言い回しで表現された、高い思想、見事な比喩。生活の物質的な関心から彼らの心を持ち上げて感情を呼び起こす何か。彼のアイデアは言葉の形を取り始め、自ずと群れて文章になり始めました。彼は独り言を言いました;自分の言葉のリズムが彼を揺さぶりました。思わず頭韻を踏んでいました。小川が素早く流れ、その水面の光が変化するようにアイデアは次々と浮かびました。彼は一枚の紙を取って急いで鉛筆でメモを始めました。それがポイントでした;同語反復は強調効果を上げているでしょうか?彼は大まかな文章を書き留め、それを削り取り、磨いてから、もう一度書きました。音は聴衆の耳を喜ばせ、感覚は彼らの知性を改善し刺激します。なんというゲームだったことでしょう。彼のプレイするカードはその脳内にあり、彼がプレイする賭けは世の中にあるのでした。

働いているうちに時間が過ぎて行きました。昼食を持って入ったベティンは彼が静かに忙しくしていることに気づきました;彼女は以前にも彼のこうした姿を見たことがあり、邪魔をしようとはしませんでした。時計の針がゆっくり回って整然と時の歩みを刻むにつれ、手をつけられていない食事がテーブルの上で冷たくなっていました。やがて彼は立ち上がって、完全に自分の考えと言葉に酔い、低い声で、そして非常に強い語調で自分自身に語りかけ、短く速いストライドで部屋を歩き始めました。突然彼は立ち止まり、その手が見慣れない激しさでテーブルに振り下ろされました。スピーチは終わりました。

騒音が彼に日常生活を思い起こさせました。お腹が空いて疲れていました、そして自分の熱中ぶりを笑いながらテーブルに座り、無視されていた昼食を摂り始めました。

フレーズ、事実、数字が書き込まれた十数枚のメモ用紙が朝の仕事の結果でした。テーブルの上にピンでひとまとめに留められた;何でもない、取るに足りない紙片;しかしローラニア共和国大統領アントニオ・モララはそれを砲弾よりも恐れたことでしょう。もし彼が愚か者でも臆病者でもなかったとすれば。

 

 


第VII章
ナショナル・ボール(*国の舞踏会)

ローラニアの宮殿は国の社交セレモニーに見事に適していました。憲法の慣習に奨励された公共の式典への贅沢な支出が、共和国のホスピタリティを最も壮大な規模で拡大することを可能にしていました。シーズン最初のナショナル・ボールは多くの点でこうした催しの中で最も重要なものでした。両党派の名士たちが夏の暑さの後、秋の会合の前に初めて会うのがこの行事であり、首都の輝かしい社交界が田舎や山の別荘に出かけて留守にした後の再会でした。興趣、優雅さ、そして豪華さが万遍なく発揮されていました。最高の音楽、最高のシャンパン、最も多様でありながら厳選された人々の集まりがこの夜の魅力の1つでした。広々とした宮殿の中庭は巨大な日よけで完全に覆われていました。輝く鉄の銃剣を携えてアプローチに並んだ親衛隊の歩兵の列がその行事の壮観さと安全性を高めていました。日の差している表通りは好奇心旺盛な民衆でにぎわっていました。宮殿の大広間は常に印象的で壮大ですが、派手に着飾った来客でいっぱいになるとさらに大きな華やかさを見せました。

階段の最上部に大統領とその妻が立っていました、彼は勲章とメダルで、彼女はその比類のない美しさでまばゆく輝いていました。ゲストが登って行くと深紅色と金色を纏ったゴージャスな副官が彼らの名前と肩書を尋ね、発表するのでした。多くのさまざまな来客がありました;ヨーロッパのすべての首都、世界のすべての国を代表していました。

今夜の目を引くゲストはエチオピア王で、沢山の絹と宝石が黒いけれども快活な顔の額縁になっていました。彼は早く来ました―それは賢明ではありませんでした、もっと遅く来ていたなら、もっと多くの観衆がその到着を見たことでしょう;しかしこれはおそらく彼の純朴な心にとって重要な問題ではありませんでした。

外交団が長々と続きました。次から次へと馬車がエントランスに乗りつけて洗練された辣腕の積み荷を吐き出しました。彼らは金と考え得る限りの色の組み合わせを装っていました。階段の一番上に到着したロシア大使は白髪交じりでしたが、婦人に親切であり、立ち止まって品位ある丁重さでお辞儀をし、ルシールが伸ばした手にキスしました。

「このシーンは比類のないダイヤモンドにふさわしい舞台です」と彼はつぶやきました。

「冬宮殿でも同じように明るく輝けるでしょうか?」ルシールは軽やかに尋ねました。

「確かに、ロシアの凍るような夜はその輝きを強めるでしょう。」

「他のたくさんの輝きの中に埋もれてしまうのでしょうね。」

「他に並ぶ人はなく、あなたお一人でしょう。」

「あら」と彼女は言いました。「私は注目されるのが嫌いです。同じくらい孤独が嫌いです、冷ややかな孤独なんて、考えただけで震えてしまいますわ。」

彼女は笑いました。外交官は彼女に賞賛の眼差しを投げかけ、すでに階段の最上部をふさいでいた群衆の中に足を踏み入れて自分の多くの友人たちのお祝いを受け、返しました。

「トランタ夫人」と副官が告げました。

「お会いできてとてもうれしいです」とルシールは言いました。「娘さんが来られなかったなんて残念です;みんながっかりしていましたよ。」

これに醜い老婦人は顔を輝かせて挨拶を返し、階段を上って行くとバルコニーの大理石の手摺へと向かいました。彼女は後に到着する客たちを見てはその服装と振る舞いについて知人に勝手気ままにコメントしていました;またそれぞれについてちょっとした情報をつけ加えるのでしたが、それは嘘ではなかったにしても意地悪なものでした;彼女は友人に多くのことを話しましたが、自分を舞踏会に招待しないなら大統領の党を離れるとトランタに手紙を書かせて脅迫しなければならなかったこと、そしてそれでも娘の招待状を貰えなかったことについては言いませんでした。家族に似ている上に顔色の悪い不幸な少女でした。

次にルーヴェが、踊り場から見つめている群衆の顔を心配そうに見て、一段一段を爆弾と短剣を想像しながら上って来ました。彼はおずおずとルシールを見ました。しかし彼女の笑顔が勇気を与えたようでした、そして彼は群衆に混ざり合いました。

そしてその評判とは対照的に、にこやかで元気な顔に天真爛漫さが出ている英国大使のリチャード・シャルグローブ卿が挨拶にやって来ました。ローラニアとイギリスの間の緊張した関係はその包括的な挨拶で消え去ったように見えました。ルシールは彼と会話を交わしました。彼女はなにも、あるいはまったく知らない顔をしていました。「そしていつ」彼女は明るく尋ねました、「私たちは宣戦布告するのですか?」

「私が3度ワルツを踊る前でないことを願っています」と大使は言いました。

「困りましたわ!ぜひご一緒に踊らせていただきたいと思っておりましたのに。」

「ではどうでしょう?」彼は大いに関心を示して尋ねました。

「ワルツのために私が2つの国に戦争をさせてもいいのでしょうか?」

「こちらから誘ったのであれば躊躇されることはないでしょう」と彼は婦人に対する丁寧さで答えました。

「敵意を持たれるような何を!私たちが何をしたというのです?どうしてそんなにも戦いたいのですか?」

「戦いの方ではなく―踊る方です」とリチャード卿は少し怯んで言いました。

「実際、あなたは外交官にしては率直な方です。とてもご機嫌のようですが何があったのか教えてくださいませんか;危険があるのでしょうか?」

「危険?いえ―なんのことでしょう?」彼は決まり文句を選びました:「伝統的に友好的な政権の間ではすべての紛争は調停で解決されます。」

「まったく」彼女は真剣にそしてまったく態度を変えて言いました。「私たちはこういうところでさえ政治的立場を考えなければなりませんね?強力なディスパッチが政府の立場を良くするでしょう。」

「ずっとそうですが」大使は断固としていいました。「危険などありませんでした。」しかしHM戦艦アグレッサー(排水量12,000トン14,000馬力、4門の11インチ砲で武装)が時速18ノットでローラニア共和国のアフリカの港に向けて航行していること、あるいは彼自身が午後の間ずっと船、備品、軍事行動関連の暗号電報で忙しかったことについては言いませんでした。その純粋に専門的な詳細は彼女を退屈させるだけだろうと思ったのです。

この会話の間にも人々の流れはとめどなく階段を上っていき、ホールの全周を巡っている広いバルコニーには群衆が密集していました。ガヤガヤいう会話が素晴らしいバンドをほとんどかき消していました;ボール・ルームの完璧なフロアにいたのは恋に心を奪われて他のすべてに関心をなくした数組の若いカップルだけでした。期待感が会場に広がっていました;サヴローラが来るという噂がローラニア全体に広まっていたのです。

突然みんなが静まり返り、バンドの演奏超しに遠くで叫び声が聞こえました。それはどんどん大きく膨らみ、まさにその門まで素早く近づいて来ました;そして叫び声は消え、ホール全体が沈黙する中を音楽だけが流れていました。彼はヤジられた、あるいは歓呼されたのでしょうか?その音は奇妙に曖昧に聞こえました;男たちは賭けの準備が整っていました;彼の顔を見れば答えが分かるでしょう。

スイングドアが開き、サヴローラが入ってきました。すべての目が彼に向けられましたが、その表情からはなにも読み取ることができず、賭けの結果は分かりませんでした。彼が悠々と階段を上っていくあいだ、その目は混雑した歩廊とそこに並ぶ華麗な群衆をぐるりと興味深げに眺めました。彼は無地の夜会服を着ていましたが、それを際立たせる綬も勲章も星もありませんでした。その色とりどりの、一様にゴージャスな群衆の中ではくすんで見えました;しかし、パリのアイアン・デューク(*ワーテルローの戦いに勝ったウェリントン卿)のように彼は穏やかで、自信を持って、落ち着いている、全員のリーダーのように見えました。

大統領はその著名なゲストに会うために数歩歩きました。互いにまじめな重々しさでお辞儀をしました。

「来てくれてうれしいです、サー」とモララは言いました。「これは国の伝統にかなったことです。」

「なすべきことでもあり、したいことでもあったのです。」サヴローラは皮肉っぽい笑顔で答えました。

「外の人たちとは問題なかったのですか?」大統領は刺々しく指摘しました。

「ああ、問題はありません、ただ彼らはちょっと政治を真剣に受け止めてすぎているのです;私が宮殿に来ることを許しませんでした。」

「あなたが来られたのは正しいことです。」とモララは言いました。「今、国家の問題に取り組んでいる私たちはこれがいかに価値あることなのかを知っています;世の人々は公務に興奮することはなく、紳士は棍棒で殴り合うことはありません。」

「剣がいいですね」反射的にサヴローラは言いました。彼が階段の最上部に達すると、その前にルシールが立っていました。なんと彼女が女王のように見えたことでしょう、すべての女性たちの中で飛び抜けていて、比類がありませんでした!彼女が着けていた素晴らしいティアラは主権を連想させ、彼は民主主義者であったため、ただそれだけのために頭を下げました。彼女は手を差し出し;彼はその手を敬意と礼儀とともに取りました、しかしこの接触は彼をゾクゾクさせました。

大統領はローラニアの貴族の中から太ってはいるが有名な女性を選び、先頭に立ってボール・ルームへ行きました。サヴローラは踊りませんでした;彼の哲学はいくつかの娯楽を軽蔑していました。ルシールはロシア大使に捕まっており、彼はただ見つめているだけでした。

彼がこのように一人でいるのを見て、ティロ中尉は先週中断したポロチームの「バック」についての議論を終わらせようと近づいてきました。サヴローラは笑顔で彼を迎えました;実際誰もがそうであるように、彼も若い兵士が好きでした。ティロには言い分がたくさんありました;ゲーム中に強力な重量級のプレーヤーがバックに控えていて危険を冒さないことに賛成でした。国際コンテストに出るローラニア軍チームを適切に選ぶことの重要性を言っていたサヴローラは、軽量級のプレーヤーがすぐにフォワードのところまで上がって来られて、いつでも自分でボールを奪う準備ができていることに賛成でした。活発な議論になりました。

「どこでプレーされていたのですか?」彼の知識に驚いた中尉は尋ねました。

「ゲームをしたことはないのです。」とサヴローラは答えました。「しかし、それが軍の将校にとって良い訓練だとずっと思っていました。」(*チャーチル自身は騎兵隊時代ポロの名手でした)

テーマが変わりました。

「教えてくれませんか。あのさまざまな勲章は一体何ですか。英国大使のリチャード卿が着けている青いものは何ですか?」と偉大な民主主義者は言いました。

「あれはガーターです」と中尉は答えました。「イギリスで最も名誉ある勲章です。」

「そう、君がつけているのは何ですか?」

「私!ああ、それはアフリカのメダルです。私は86年と87年にそこにいました、お分かりでしょう。」サヴローラが予想した通り、彼は尋ねられたことをとても喜びました。

「こんなにも若い君にとって、それは未知の経験だったことでしょう。」

「とんでもなく面白かったです。」中尉は決然と言いました。「私はランギタルにいました。私の戦隊は5マイルの追撃戦をしました。槍は美しい武器です。インドのイギリス人はイノシシ追いと呼ばれるスポーツをするそうです;試したことはありませんが、私のほうがよく知っていると思います。」

「そう、またすぐにチャンスがあるかもしれません。わが国は英国政府との間の問題に直面しているようです。」

「戦争の可能性があると思いますか?」少年は意気込んで尋ねました。

「もちろん」とサヴローラは言いました。「戦争は国内の運動と改革の動きから人々の注意をそらすでしょう。大統領は賢い人です。戦争があるかもしれません。私は予言したいわけではありません;しかし君はそれを望みますか?」

「確かに望んでいます;それが自分の職業です。この宮殿の愛玩犬でいることにうんざりしています。野営と鞍が懐かしいのです。さらにイギリスなら相手に不足はありません;彼らは確かに全速力で駆けてくるでしょう 。ランギタルで私はイギリス将校と、中尉でしたが、一緒になりました、彼は冒険を求める観戦者として来ていました。」

「彼に何が起こったのです?」

「はい、ええと、私たちは敵を丘まで追いかけ、さんざんにやっつけました。私たちが疾走していたとき、彼は森に向かって大勢が逃げていくのを見て切り捨てようと思ったのです。私は時間がないと言い;彼はあると言って6:4で賭けたので私は部隊を送りました―ええと、その日は私が戦隊の指揮を執っていたのです―彼は彼らと一緒に行って十分にまっすぐ先導したのですが―退屈ですか ?」

「とんでもない、とても面白いです;それでどうしたのです?」

「彼は間違っていました。敵は先に森に着いて開けた場所にいる彼を狙い撃ったのです。彼は大腿動脈を撃ち抜かれ、仲間に連れ戻されました;そうなったらもう長くないですよね。言い残したことはたったこれだけでした:「ああ、君の勝ちだ、しかしどうやって負け分を払ったらいいのか、わからない。兄弟に言ってくれ―王立槍騎兵隊にいる。」

「それから?」サヴローラは尋ねました。

「ええ、私は圧迫するべき動脈を見つけられませんでした、医者は全くいませんでした。そして死んだのです―勇敢な仲間が!」

中尉はためらい、その軍事的冒険について多くを話したことをむしろ恥じていました。サヴローラはあたかも新しい世界、燃えるような、無謀な、好戦的な若者の世界を覗き込んだかのように感じました。彼自身も確かな嫉妬を感じるほど若かったのです。この少年は彼が見たことのないものを見ていたのでした;サヴローラが学んだことのない教訓を与えてくれる経験を持っていたのでした。彼らの人生は異なっていました;しかし、おそらく彼はいつかこの不思議な戦争の本を開き、身の危険の鮮やかな光の下でそこに書かれた教訓を読むことでしょう。

その間にもダンスは続き、夜は更けていきました。エチオピア王はベールをかぶっていない女性の胸を広く露出したドレスに恐怖を感じ、不愉快な白人と一緒に食事をすることを恐れて出発しました。大統領はサヴローラに近づき、妻をディナーの席にエスコートするよう頼みました;行列ができました。彼はルシールに腕を差し出し、彼らは階段を降りました。ディナーは素晴らしいものでした:シャンパンはドライで、ウズラは太っていました。たくさんの珍しく美しい蘭がテーブルを覆っていました;サヴローラの周りは居心地がよく、彼はローラニアで最も美しい女性、彼はそれと知らなかったものの、彼を魅了しようと努力している女性、の隣に座っていました。最初、彼らは楽しく浅薄な話をしていました。洗練されたマナーを身につけている大統領は気持良い仲間であり、話し手でもあることが分かりました。サヴローラ、きらめく会話を喜んだ彼は自分が遵守することを決心した純粋に公式な訪問者の本分を守るのが難しいことに気づきました。機知、ワイン、そして美しさの力が組み合わさって、彼の慎みを打ち破りました;彼はそれに気づく前に、疑わしいがゆえに尋ねられ、尋ねられることによってさらにその疑わしさを増すという、ある時代の特徴である、半分皮肉で半分真面目な議論に参加していました。

ロシア大使は美を崇拝していると述べ、自分のパートナーである若いフェロル伯爵夫人に、彼女をディナーにエスコートすることを宗教的儀式と見なしている、と語りました。

「それはご自分が退屈されているということではありませんか」と彼女は答えました。

「断じて違います;私の宗教では儀式は決して退屈なものではありません;これは私がこの主張をするときの主な長所の1つです。」

「他の長所などあるのでしょうか」モララは言いました。「あなたはあなた自身が作り出した偶像を熱愛しているのです。あなたが美を崇拝するならば、あなたの女神は人間の気まぐれという不確かな台座の上に立っているに過ぎないのではないでしょうか。どうでしょう、プリンセス?」

大統領の右側に座っていたタレンタムの王女は、そうした土台でさえ他の多くの信念の土台よりも確かなものでしょう、と答えました。

「あなたご自身の場合、人間の気まぐれでさえ十分に不変だということですか?それでしたらよく分かります。」

「いいえ」と彼女は言いました;「私が言いたいのは美への愛はすべての人間に共通しているということだけです。」

「すべての生物に」とサヴローラは訂正しました。「花を生み出すのは植物の愛です。」

「うーん」大統領はいいました。「しかし、美への愛が不変であったとしても、美自体は変わるかもしれません。すべてはいかに変化することでしょう;ある時代の美は次の時代の美ではありません;ヨーロッパでは恐ろしいことがアフリカでは賞賛されます。それはすべて見解、地域的見解の問題です。ムッシュ、あなたの女神はプロテウスと同じくらい多くの形をとることでしょう。」

「私は変化を好みます」大使は言いました。「私は外観の多様性を女神の決定的な長所と考えています。すべてが美しい限り、どれだけ多くの形があっても構いません。」

「しかし」ルシールが口をはさみました「あなたは美しいものと、私たちが美しいと思うものを区別されていません。」

「区別は要らないでしょう」と大統領は言いました。

「大統領夫人閣下の場合、区別は要りません」と大使は丁寧に口を挟みました。

「美しさとは何でしょう」モララは言いました。「いったい私たちは何を賞賛の対象に選ぶのでしょうか?」

「私たちが選ぶ?私たちにそんな力があるのでしょうか?」サヴローラは尋ねました。

「確かに」大統領は答えました。「そして毎年私たちは判断を変えます;毎年ファッションは変わります。女性に聞いてみてください。30年前のファッションを考えてみてください;そのときはそれがふさわしいと思われていたのです。次々に移り変わってきたさまざまなスタイルの絵画や詩、音楽をよく考えてみてください。その上、ムッシュ・ド・ストラノフの女神は彼にとって美しくとも他人にとってはそうではないかもしれません。」

「それもまた本当の長所だと思います;あなた方(*女性陣)は一瞬ごとに私をこの宗教にさらに夢中にさせて下さいます。私は売名のために自分の理想を崇拝しているわけではありません」大使は笑顔で言いました。

「あなたは問題をmaterial(*物質的、肉体的)な観点から見られているように思います。」

「moral(*道徳的、精神的)というよりはmaterialですね」とフェロル夫人は言いました。

「しかし私の女神崇拝においてimmorality(*不道徳)はimmaterial(*重要ではない)のです。さらにあなたが私たちの好みは常に変化していると言うのであれば、私の宗教の本質は不変であるように思えます。」

「そのパラドックスを説明して欲しいものです。」とモララは言いました。

「ええ、あなたは私が毎日変わると仰います、そして私の女神も変わります。今日私はある基準の美を、明日は別の基準の美を賞賛します、しかし明日になったら私はもはや同じ人間ではありません。私の脳の分子構造が変化し;考えが変化し;古い自分は消え去って、自らの理想を愛する;新しい自我が始まるのです、新しい人間として。それが死ぬまでずっと続くのです。」

「あなたは変化の連続を不変と仰ろうとしているのではありませんか?それなら停止の連続を動きと言うこともできるでしょう。」

「私はその時間の空想に賛成です。」

「あなたは私の意見を別の言葉で言って下さいました。美は人間の気まぐれに依存し、時代とともに変化するのです。」

「その像を見てください」とサヴローラが突然言って、部屋の真ん中にシダに囲まれて立っているダイアナの壮大な大理石の像を指しました。「人がそれを美しいもの呼んでから2000年以上が経っています。今それを私たちは否定するでしょうか?」答えはなく、彼は続けました。「それは線と形の真の美しさであり、永遠のものです。あなたがたが仰っていた他のこと、ファッション、スタイル、空想はそれに辿りつくために私たちが行って失敗した試みにすぎません。それに辿りつこうとする試みを人は芸術と呼ぶのです。芸術は美の、名誉は正直の人工的な同素体です。紳士は芸術と名誉を備えているべきであり;人には美と正直だけで十分です。」

ちょっとした間がありました。まぎれもなく民主主義者の口調でした;その真剣さが一同に印象を与えました。モララは気まずい様子をしていました。大使が助け船を出しました。

「しかし、私は美の女神を崇拝し続けます。彼女が変わろうと変わらなかろうと」―彼は伯爵夫人を向きました;「そして帰依の証に、私はその神聖な神殿であるボール・ルームでワルツを捧げます。」

彼は椅子を後ろに押し、身をかがめて、床に落ちたパートナーの手袋を手に取りました。みんなが立ち上がり、会は散開しました。サヴローラはルシールと一緒にホールに戻る途中、庭に通じる開いたドアに通りかかりました。たくさんの小さな灯りが花壇を照明し、木々から花綱飾りにぶら下がっていました。道には赤い布が敷かれていました。涼しいそよ風が頬を撫でました。ルシールは立ち止まりました。

「素敵な夜です。」

明らかな誘いでした。結局、彼女はそのとき彼と話したかったのです。彼がここへ来ることはなんと正しいことだったでしょう―憲法に基づいて。

「外に出ますか?」と彼は言いました。

彼女は同意し、二人はテラスに足を踏み入れました。

 

 


第VIII章
「星明かりの下で」

とても静かな夜でした。やわらかな風は周りを取り囲んでいる細い棕櫚の葉を揺らすことすらありませんでした。その上の星空を棕櫚の葉の輪郭が縁どっていました。宮殿は高台にあり、庭の西側は海に向かって傾斜していました。テラスの末端には石の腰掛がありました。

「ここに座りましょう」とルシールは言いました。

二人は座りました。遠くからワルツの夢のような音楽が彼らの思惑の伴奏のように漂っていました。宮殿の窓には光が赤々と輝き、きらめき、まぶしさ、そして熱さを思わせました;庭ではすべてが静かで清涼でした。

「なぜあなたは名誉をばかにするのですか?」中断された会話を思い出してルシールは尋ねました。

「それには真の土台がなく、超人的な制裁もないからです。その規範は時と場所によって絶えず変化しています。不当に扱ってしまった人に償いをするよりもあるときは殺す方が;肉屋に支払いをするよりもある時は賭け屋にする方が名誉であるとされています。芸術のようにそれは人間の気まぐれによって変化し、芸術のようにそれは富裕と贅沢から来るものです。」

「しかし、あなたはなぜ美と正直さの起原をより高いものと仰るのです?」

「なぜなら私が見る限り、全てのものは永遠の適合性の基準に当てはまっており、正は邪に、真実は虚偽に、美は醜に勝利しているからです。 適合性というのは大雑把な表現です!この基準で判断したとき芸術と名誉にはほとんど価値がありません。」

「しかし本当にそうなのでしょうか?」彼女は驚いて尋ねました。「きっと例外があるのでしょうね?」

「自然は決して個々について考えることはありません;種の平均的な適合性を見るだけです。死亡率の統計を考えてみてください。それがどれほど正確なことでしょう:それは人々の余命の期待値を与えます;しかし一個人については何も語りません。善人が常に悪人に勝つとは言えません;しかし進化論者は躊躇なく最も高い理想を持った国が成功することを断言するでしょう。」

「そうでなければ」ルシールは言いました。「理想が低く武力が強い他の国が干渉することでしょう。」

「しかし、それも適合性の一つの形かもしれません。低い形とは思いますが、それでも物理的な力には人間の進歩の要素が含まれています。これはほんの一例です;私たちは広い視野を持たなければなりません。自然は個々の種を考えません。私たちがいま主張したいのは、道徳的適合性を備えた生命体は最終的には物理的長所をもつ生命体の上に立つであろう、ということです。道徳的な力が物理的な力の圧政から逃れ始める社会の状態を私は文明と呼ぶことにしますが、それは何度進歩のはしごを登っては引きずり下ろされてきたことでしょうか?おそらくこの世界だけで何百回も繰り返されてきたことでしょう。しかし原動力、上昇傾向は常にありました。進化論は「常に」とは言わず「究極的に」と言います。そして究極的に文明は野蛮の手の届かないところまで登ってきました。高い理想は優れた浮力によって表面に到達したのです。

「なぜこの勝利が永続的なものだと思うのですか?他のすべてがそうであったように、それが逆転されないことがどうしてわかるのですか?」

「私たちは道徳的優位と同じだけの力を持ったからです。」

「おそらく権力の頂点にいたローマ人もそう思ったことでしょうね?」

「大いにありそうなことですが、道理はありません。結局彼らが最後に頼ることができるのは剣だけでした;そして彼らが軟弱になったとき、もはやそれを振るうことはできなくなってしまいました。」

「では現代文明は?」

「ええ、私たちは他の武器を持っています。私たちが衰退したとき、私たちは最終的に衰退する定めなので、私たちが本来の優位性を失ったとき、そして自然の法則に従って他の種族が私たちにとって代わるために前進してきたとき、私たちはこれらの武器に頼ります。私たちのmoral(*士気、教訓、道徳)は失われますが、私たちのMaxims(*マキシム機関銃、格言)は残ります。衰退し震え慄くヨーロッパ人が科学的な機械によって襲ってくる勇敢な野蛮人を地上から一掃するのです。」

「それはmoralの優位性の勝利なのでしょうか?」

「まずはそういうことになるでしょう、文明の美徳は野蛮の美徳より高い種類のものだからです。優しさは勇気よりも優れており、慈愛は力よりも優れています。しかし究極的に支配的民族は退化し、とって代わる者がいなくなるため退化が続くでしょう。それは活力と衰退、気力と怠惰の間の昔ながらの戦いであり;常に沈黙で終わる戦いです。結局のところ人類の発達が恒常的なものであることは期待できません。(*こうしたことを繰り返しているうちに)惑星の表面が生命の生存に適さなくなるのは時間の問題です。」

「しかしあなたは適合性が究極的に勝利するはず、と仰いました。」

「相対的な不適合性を超えて、そうなります。しかし衰退はすべての勝者と敗者を巻き込みます。生命の火は消え、活力ある精神は消滅します。」

「おそらくこの世界で」

「すべての世界で。すべての宇宙は冷えつつ―死につつあります―そしてそれが冷えるにつれ、しばらくの間その球体の表面で生命の存在が可能になり、奇妙な道化を演じます。そして終わりが来ます;宇宙は死に、そして究極の無の冷たい暗闇の中に埋葬されるのです。」

「それでは私たちが努力していること全ては何の目的のためなのでしょう?」

「神はご存じでしょう」サヴローラは皮肉っぽく言いました。「しかし、このドラマは見ていて面白くないものではないと想像します。」

「それでもあなたは人知を超えた土台、美しさや美徳などの永遠の理想を信じておられます。」

「相対的不適合性に対する適合性の優位は、物事の大きな法則であると私は信じています。私はあらゆる種類の適合性について言っているのです―道徳的、物理学的、数学的。」

「数学的!」

「間違いなく;言葉は正確な数学的原理に従うことによってのみ存在するのです。これは数学が発見されたものであり、発明されたものではないということの素晴らしい証拠です。(*元から存在したものであって人間が作り出したものではない)惑星は規則的な運行に際して太陽からの距離を守ります。進化論はそうした原理を守らなかったものが衝突によって破壊され、他のものと融合したことを示唆しています。それは最も普遍的な適者の生存です。」彼女は黙っていました。彼は続けました。「最初に2つの因子が存在したとしましょう。生きる意志によって動かされるものと、永遠の理想によって動かされるものです;偉大な作家と偉大な批評家です。すべての発展、生命のすべての形はこの二つの相互作用と反作用に帰せられます。生きる意志の表れが永遠の適合性の標準に近づけば近づくほど、それは成功します。

「3番目をつけくわえてもいいですか」と彼女は言いました。「理想に到達したいという願いをあらゆる形の命に植え付け;どうやって成功するかを彼らに教える偉大な存在。」

「私たちの勝利に賛成し、私たちの闘いを応援し、私たちの道を照らしてくれるそうした存在を考えるのは楽しいことですが;お話しした2つの因子の他にもう1つの因子を仮定することが科学的、論理的に即効性の効果を持つとは思いません。」と彼は答えました。

「間違いなくそのような人知を超えた理想が存在するという知識は外から与えられたに違いありません。」

「いいえ;私たちが良心と呼ぶその本能は、他のすべての知識と同じように経験から導き出されたものです。」

「どのようにです?」

「私はこのように考えています。人類がその原初の闇から現れ、半獣半人の生物が地上を闊歩していたとき、正義、正直、または美徳の考えはなく、「生きる意志」と呼ぶべき原動力しかなかったのです。人類の初期の祖先にはお互いを守るために2人や3人で行動を共にするという、ちょっとした特性があったのかもしれません。最初の同盟が結ばれ;孤立した個人が没落する一方、同盟は繁栄しました。同盟する能力は適合性の要素のようです。自然淘汰よって同盟だけが生き残りました。こうして人間は社会的な動物になりました。小さな社会は徐々により大きなものになりました。家族から部族へ、そして部族から国へと人類は進歩し、同盟をすればするほど成功することを発見しました。さて、この同盟システムは何に頼っていたのでしょうか?それは、メンバー同士の信頼、正直、正義、そしてその他の美徳の実践に頼っていたのです。こうした能力を持つ存在だけが同盟することができ、こうして比較的正直な人々だけが生き残ることができました。このプロセスは計り知れない時代の間に数限りなく繰り返されました。人類はこれまでの全ての段階を通過し、そしてそのすべての段階においてその原因の認識が強くなりました。正直さと正義は私たちの成り立ちに結びついており、私たちの性質の不可分の一部になっています。そんな厄介な性癖を抑えるのは難しいことです。」

「それではあなたは神を信じないのですか?」

「決してそんなことは言っていません」サヴローラは言いました。「私は私たちの存在の問題を、理性という一つの立場から論じているに過ぎません。理性と信仰、科学と宗教は永遠に分離されるべきで、一方を認めるならば他方を否定しなければならないと多くの人は考えています。私たちがその線は平行で決して交わることがないと思っているのは、おそらく私たちがあまりにも短いスパンで見ているからではないでしょうか。私は未来の展望において、人間の憧れのすべての線が究極的に交わる消尽点(*透視図法で平行線が収束する点)がどこかにあるのではないか、という希望をいつも大切にしています。」

「そしてあなたはご自分が仰ったこのすべてのことを信じていらっしゃるということですね?」

「いいえ」彼は答えました。「詩人が何を言おうと、不信仰を信仰することはありません。存在の問題を解決する前に、そもそも私たちが存在するという事実を確かに認めなければなりません。(*造物主を信じないわけにはいかない)それは不思議な謎ではないでしょうか? 」

「その答えは死んだときに分かることでしょう。」

「そう思ったなら」サヴローラは言いました。「好奇心を抑えきれなくなって今夜私は自殺してしまうことでしょう。」

彼は立ち止まり、頭上にとても明るく輝く星を見上げました。彼女は彼の視線を追いました。「星がお好きなのですか?」彼女は尋ねました。

「大好きです」と彼は答えました。「非常に美しいです。」

「きっとあなたの運命がそこに書かれています。」

「私はずっと呆れてきたのです。人間はどれだけ厚かましいのでしょうか。至高の存在が自分のちっぽけな未来の詳細を空に貼り出し、自分の結婚、不幸、罪を無限の空間を背景に太陽の文字で書くと考えるなんて。私たちは結局原子にすぎないのです。」

「私たちは重要なものではない、と思うのですか?」

「人生はとても取るに足りないものです。自然はその価値について大げさな考えを持っていません。私は取るに足らないものであることを自覚しています。しかし私は哲学的な微生物であり、その方が楽しいのです。取るに足りないものであろうとなかろうと、私は生きることが好きですし、未来について考えるのは良いことです。」

「あぁ!」ルシールは性急に言いました。「どのような未来へとあなたは急いでいるのですか―革命?」

「おそらく」サヴローラは静かに答えました。

「国を内戦に突入させる覚悟があるのですか?」

「まぁ、そういう極端なことにならないように願っています。おそらく、市街戦があり、死者も出るでしょう、しかし―」

「しかし、なぜあなたは彼らをそのように駆り立てるのです?」

「私は軍の専制政治を打破することで人類への義務を果たすのです。銃剣だけが支持する政府を見たくないのです;時代錯誤です。」

「政府は公正で堅固です;法と秩序を守っています。ご自分と意見が一致しないというだけの理由でなぜ攻撃するのですか?」

「私の意見!」サヴローラは言いました。「それはこの宮殿を守るライフルに装弾した兵隊のことですか、それとも1週間前に広場の人々を突き刺した槍騎兵のことですか?」

彼の声は見たこともないほど激しくなり、その態度に彼女は身震いしました。「私たちを破滅させるつもりなのですね」彼女は弱々しく言いました。

「いいえ」彼は威信にかけて答えました。「あなた方は決して破滅することはありません。あなたの輝きと美しさは常にあなたを最も幸運な女性にし、あなたの夫を最も幸運な男性にするからです。」

彼の偉大な魂は僭越さを微塵も感じさせませんでした。彼女は彼を見上げ、素早く微笑んで性急に手を差し出しました。「私たちは敵同士ですが、戦時国際法の下で戦いましょう。私たちは友達であり続けましょう。たとえ―」

「公式には敵であっても」とサヴローラは言葉を引き取り、手を握ってお辞儀をし、キスしました。その後二人はとても言葉少なになり、テラス沿いを歩いて再び宮殿に入りました。ゲストのほとんどはもう帰っていて、サヴローラは階段を上らず、スイングドアを通って出て行きました。数組の疲れを知らない若いカップルがまだクルクル踊っているボール・ルームへとルシールは上って行きました。モララに会いました。「私の愛する人」と彼は言いました。「ずっとどこにいたのです?」

「庭に」と彼女は答えました。

「サヴローラと?」

「ええ。」

大統領は喜びを噛み殺して「何か言っていましたか?」と尋ねました。

「いいえ、何も」と彼女は答えてから初めて面談の目的を思い出しました。「また彼に会わなくてはなりません。」

「これからも彼の政治目的を探ってくれるのですか?」心配そうにモララが尋ねました。

「また彼に会います」と彼女は答えました。

「あなたの機知を頼りにしています」と大統領は言いました。「それをできる人がいるとすれば、それはあなたしかいません、私の最愛の人。」

最後のダンスが終わって最後のゲストが帰りました。非常に疲れて物思いに耽ったルシールは自分の部屋に戻りました。頭はサヴローラとの会話でいっぱいになり;彼の真剣さ、熱意、希望、信念、不信感までも、すべての回想が彼女の前を再び通り過ぎました。彼はなんて偉大な人だったのでしょう。人々が彼に従ったのは素晴らしいことだったのでしょうか?彼女は明日彼が話すのを聞きたくなりました。

メイドが彼女が服を脱ぐのを手伝いにやって来ました。彼女は上の階のバルコニーから見ており、サヴローラを見ていました。「あの方が」と興味津々で女主人に尋ねました。「すごい扇動家なのですか?」彼女の兄は明日彼の演説を聞きに行こうとしていたのでした。

「彼は明日スピーチをするのですか?」ルシールは尋ねました。

「兄がそう申しておりました」とメイドは言いました;「彼らが決してそれを忘れないよう、彼は厳しく叱りつけるつもりだそうです。」メイドは兄の言葉に細心の注意を払っていました。二人はとても心を通わせており;実は聞こえが良いので兄と呼んでいるだけでした。

ルシールはベッドの上の夕刊紙を取り上げました。1ページ目に明日夜8時に市民会館で大会が開催されることが書かれていました。彼女はメイドを退出させて窓の外に出ました。目の前には静寂に包まれた街が広がっていました;自分と話していた男が明日街を興奮で激しく揺さぶることでしょう。彼女は話を聞きに行くことにしました;女性もこうした会合に行くのです;彼女もしっかりベールをかぶって行けばいいのではないでしょうか?とにかくそれで彼の性格について何らかを知ることができるでしょうし、それによって夫をより良く助けることができます。こうした考えに非常に慰められて彼女はベッドに入りました。

大統領が二階に上がるとミゲルがいました。「まだ仕事があるのかね?」彼はうんざりして尋ねました。

「いいえ」と秘書は言いました。「順調そのものです。」

モララは苛立って彼を睨みました;しかしミゲルは無表情だったので、ただ「じゃよかった。」とだけ答えて立ち去りました。

 

 


第IX章
提督

サヴローラのステートボールに行くという決意に対してモレが表明した不支持は、その結果を見る限り十分妥当なものでした。党組織が実際に管理しているものを除いて、すべての新聞は彼の行動について厳しく、あるいは軽蔑的にコメントしていました。ジ・アワーは彼を迎えたときの群衆の罵声に言及し、大衆に対する彼の影響力の衰退と革命党の分裂を仄めかしていました。また読者に社会的な名声は常に扇動家の最高の野望であると注意し、大統領の招待を受け入れることでサヴローラの「卑しい個人的な目的」が明らかになった、と言い放ちました。他の政府機関はさらに攻撃的態度で同様の意見を表明しました。「このような扇動者たちは」とザ・コーティアーは書きました。「世界の歴史の中で常に称号や名誉を欲しており、上流や流行の人たちと交わりたいという思いには厳格で不屈な民衆の息子でさえ抵抗できないことが再び証明された」この傲慢な俗悪さは不快なものでしたが民主派の雑誌に掲載されていた重大で深刻な警告や抗議より危険ではありませんでした。このようなことが続くならば大衆党は「権力に媚びず 流行に迎合しようとしない」別のリーダーを探さなければならないだろう、とザ・ライジング・タイドは明快に述べていました。

サヴローラはこれらの批判を軽蔑しながら読みました。彼はそれと知りながら、わざと自分をそういう批判にさらしたのでした。行くのが賢明ではなかったことは知っていました;最初から分かっていたことです;しかしどういうわけか彼は自分の過ちを後悔していませんでした。結局のところ、なぜ自分の私生活をどのように律すべきかを党に指示されなければならないのでしょうか?彼は自分が行きたいところに行く権利を決して放棄しないでしょう。この場合、彼は自分の気持ちに従いました、そして投げかけられた非難は覚悟していたものでした。庭での会話を思えば悪い取引をしたとは感じませんでした。ただしダメージは回復しなければなりません。彼は再びスピーチのメモを見て、文章を磨き、ポイントを熟考し、議論をまとめ、人心の変化に対して適切と思われるいくらかの追加をしました。

こうした仕事で朝が過ぎました。モレが昼食にやってきました。「だから言っただろう。」と実際に言うのは差し控えていましたが、その様子から今後に対する自分の考えが揺るぎないものであると感じていることが伺えました。彼は簡単に高揚したり落ち込んだりする性格でした。今や運動がもう失敗してしまったと考え、悲観して落胆していました。残ったのは寄る辺ない希望だけでした;サヴローラが会議で後悔を表明し、自分の以前の奉仕を思い出すよう人々に訴えるしかないでしょう。彼が提案するとリーダーはその考えを明るく笑い飛ばしました。「愛するルイ」彼は言いました。「僕はそのようなことはしない。自分の自主性を決して放棄しない。僕はいつでも好きな場所に行き、好きなことをする。それが嫌なら公的な仕事は他の人にしてもらえばいい。」モレは身震いしました。サヴローラは続けました。「僕は実際にそう言うわけじゃない。しかし僕がモララの敵意と同様、彼らの非難をも恐れないことがその態度で分かるだろう。」

「おそらく彼らは耳を貸さないと思う;敵対行為があるだろうという報告を聞いている。」

「あぁ、僕は彼らに耳を傾けさせてみせる。最初はヤジられるかもしれないけど、大した苦もなく彼らのトーンを変えられるだろう。」

彼の自信には伝染性がありました。それと素晴らしいクラレット(*ボルドーの赤ワイン)のボトルの力がモレの気力を回復させました。ナポレオン3世のようにすべてがまだ取り戻せるかもしれない、と感じたのでした。

そのころ大統領は計画の最初の結果に非常に満足していました。彼はサヴローラがボールへの招待を受け入れることでこれほど不評を買うとは予想していませんでした。彼自身にとって名誉なことではありませんでしたが予想外の利益でした。それにミゲルが言ったようにすべてが他の方向へ向かって非常にうまくいっていたのでした。彼は心を固くし、良心の呵責を捨てました;厳しい、苦い必要が彼を不愉快なコースに追いやったのでしたが、今や一度始めた以上は続ける決心をしたのでした。その間、事態は四方八方から押し寄せていました。英国政府はアフリカ問題に関して屈しない態度を見せました。彼の乱暴なディスパッチは彼が望み、そして予想さえした通り、問題を解決しませんでした;言葉を行動で補うことが必要になりました。アフリカの港を無防備のままにしておいてはならず;艦隊はすぐにそこに行かなければなりません。多くの不満分子を威圧している港の5隻の軍艦なしでも十分余裕がある時期ではありませんでした;しかし積極的な外交政策は人気を呼ぶだろう、あるいは少なくとも国内の扇動から国民の関心を遠ざけるには十分だろうと思ったのでした。彼はまた海外での失敗が国内で革命を引き起こすことを知っていました。細心の注意が必要でした。彼はイギリスの力と資源を知っていました;比べればローラニアは弱いということについて幻想を持っていませんでした。そこに確かに彼らの唯一の強みがあります。英国政府は非常に小さな国家との戦い(いじめ、と洗練されたヨーロッパは呼びます)を避けるために全力を尽くします。それはブラフのゲームでした;先へ行けば行くほど国内の状況は良くなりますが、一歩行き過ぎればそれは破滅を意味します。それは繊細さを要するゲームであり、強く有能な人物のエネルギーと才能に最も重い負担をかけるものでした。

「提督がお見えになりました、閣下」とミゲルが部屋に入ると、すぐ後に続いて背の低い赤ら顔の海軍の制服姿の男が入ってきました。

「おはよう、親愛なるデ・メロ」と大統領は叫んで立ち上がり、新来者と真心を込めて握手しました。「ついにあなたに船出の命令を出すことになりました。」

「ええ」デ・メロは無遠慮に言いました。「扇動者が蜂起するのを待っているのにはうんざりです。」

「あなたには困難で刺激的な仕事があるのです。暗号電報の翻訳はどこにあるのかね、ミゲル?ああ、ありがとう―ここを見てください、提督。」

船乗りはその紙を読み、意味ありげに口笛を吹きました。「今回は、モララ、あなたの望み通り行かないかもしれません」とざっくばらんに言いました。

「この問題をあなたに任せます;あなたはこの状況を救うことができるでしょう、これまで何度も救ってくれたのですから。」

「これはどこから来たものですか?」デ・メロは尋ねました。

「フランスの情報源から。」

「これは強力な船、アグレッサーです―最新のデザイン、最新の砲、実際、すべての近代的改良が施されています;10分以内に沈められなかった船はありません;さらにその上、数隻の砲艦があります。」

「難しい状況であることは知っています」大統領は言いました。「だからあなたにそれを任せるのです!聞いてください;何があろうと私は戦いを望みません;惨事に終わるだけです;そしてここでいう惨事が何を意味するかは分かるでしょう。あなたはあらゆる点で主張し、交渉し、そして抗議しなければならず、できるだけ引き延ばさなければなりません。毎回電信で私に相談し、イギリスの提督と仲良くなろうと努めてください;それが戦いの半分です。砲撃の問題が生じたときには私たちは屈服し、再び抗議します。今夜、あなたへの指示を書面で送ります。今夜蒸気機関で出航したほうがいいです。ゲームを理解しましたか?」

「はい」とデ・メロは言いました。「私はプレイしたことがあります。」彼は握手をしてドアへと歩きました。

大統領は彼について行きました。「ありうることとして」と彼は真剣に言いました。「うんと遠くに行く前にここに戻ってもらうかもしれません;街には多くの問題の兆候があり、結局ストレリッツは国境でまだチャンスを伺っています。命令したときには戻ってくれますか?」その口調はほとんど哀願の色を帯びていました。

「戻る?」提督は言いました。「もちろん、私は戻ります―蒸気を使って全力で。先月、大砲で国会議事堂を狙う訓練をしました。いつか撃ち倒すつもりです。どうぞ、艦隊をあてにして下さい。」

「ありがたい。疑ったことなどありません。」と大統領は感情を込めて言いました。そしてデ・メロと暖かい握手をし、執筆テーブルに戻りました。提督は政府に完全に忠実であると感じていました。

巨大な機械の中で生活しているこうした人々は機械そのものの一部になります。デ・メロは軍艦の中で生きていて他のことは何も知らず、気にもかけていませんでした。彼は最高の専門家として陸の人々と文官を見下していました。世界の海に接する部分は、さまざまなタイプの標的になりうると考えていましたが;それ以外のものには全く注意を払っていませんでした。自由のために闘う愛国者、敵対する砦の外国の敵、自分の故郷の町に砲弾を炸裂させることは彼にとってなんの違いもありませんでした。砲撃の権限が適切な経路を通じて届く限り彼は満足しており;その後、純粋に専門的な観点から問題を検討するのでした。

大統領がオフィスの様々な仕事を終える前に、午後はかなり過ぎていました。「今夜は大きな会合があるのだったかな」彼はミゲルに尋ねました。

「はい。市民会館で;サヴローラが話をします」秘書は言いました。

「妨害の手配はしたのかね?」

「秘密警察がちょっとしたことをすると思います。ソレント大佐が手配しました。しかし、セニョール・サヴローラの党は、彼にそれなりに不満を持っているようです。」

「ああ」モララは言いました。「私は彼の力を知っている;彼は言葉で彼らの心を引き裂きくのだ。その力は恐るべきものだ;私たちはあらゆる予防策を講じなければならない。軍は武装するよう命じられていると思うが?彼は群衆をどのようにでもできるのだ―畜生!」

「大佐は今朝ここに来られました。手配している最中だと仰っていました。」

「良いことだ」と大統領は言いました。「自分の安全にも関わることだと彼は知っている。私は今夜どこで食事をするのかね?」

「セニョール・ルーヴェと内務省で、公式のディナーです。」

「なんと忌まわしい!しかし彼のところには普通のコックがいるし、今夜会う価値があるだろう。サヴローラが彼のことをばかげていると言い立てると、彼は恐れおののくのだ。臆病者は嫌いだが、彼らのおかげで世界はより楽しいものになる。」

彼は秘書におやすみを言って部屋を出ました。外で彼はルシールに会いました。「最愛の人」と彼は言いました。「私は今夜、外で食事をします。ルーヴェとの公式ディナーです。迷惑なことですが行かねばなりません。おそらく遅くまで戻ってこないでしょう。放ったらかしにしてすみません。でもこのごろは忙しくて、ほとんど自分の魂が自分のものと言えないくらいです。」

「気にしないで、アントニオ」と彼女は答えました。「あなたがどんなに仕事に追われているかは知っています。英国との件はどうなったのですか?」

「まったく好ましい状況とはいえません」モララは言いました。「向こうでは主戦論が力を持っており、こちらの文書への回答として船を送ってきました。最も不幸なことです。今、艦隊を送らなければなりません―このようなときに。」不機嫌そうにうめきました。

「私はリチャード卿に話したのです、私たちは国内の状況を考えなければならないのです、ディスパッチは国内向けのものです、と。」とルシールは言いました。

「思うに」大統領は言いました。「英国政府も有権者を楽しませ続ける必要があるのでしょう。保守党内閣です;国民の心を先進的な法案からそらすために海外での活動を続けなければならないのです。なに、まだ何か、ミゲル? 」

「はい、サー。このバッグは到着したばかりですが、すぐに注意が必要ないくつかの重要ディスパッチがあります。」

大統領はミゲルにディスパッチといっしょに地獄へ行ってしまえ、とでも言いたげに一瞬見つめました。しかし彼はその気持ちを抑えました。「よし、行こう。明日の朝食で会いましょう。親愛なる人。それまでお別れです」と彼女に疲れた笑顔を向けて立ち去りました。

このように偉大な男はその命を危険にさらして力を行使し、しばしばそのために死ぬのです。

ルシールは一人残されました、彼女が構ってもらったり共感してもらったりしたかったのは初めてではありませんでした。存在全般に関する満たされない想いを自覚しました。それは人生における賞と罰が等しく陳腐で空しいものに思える瞬間でした。彼女は興奮の中に避難場所を探しました。前夜に思いついた計画が心の中で実際の形をとり始めました;そう、彼女は彼の話を聞きに行こうとしていたのでした。自室に戻ってベルを鳴らしました。メイドはすぐに来ました。「今夜の会合は何時ですか?」

「8時です、閣下」と少女は言いました。

「チケットはありますか?」

「はい、兄が― 」

「では、私にそれをくれませんか;この人が話すのを聞きたいのです。彼は政府を攻撃するでしょう;大統領に報告するために私はそこにいなければなりません。」

メイドはびっくりしたようでしたが、おとなしくチケットをあきらめました。彼女は6年間ルシールのメイドをしており、若く美しい女主人に献身していました。「閣下は何をお召しになりますか?」とただ一言言っただけでした。

「黒っぽくて分厚いベールがあるかしら」ルシールは言いました。「このことは誰にも言ってはいけませんよ。」

「決して、閣―」

「お兄様にも。」

「決して、閣下。」

「私は頭痛で寝たことにして下さい。あなたは自分の部屋にいるのです。」

メイドは急いでドレスとボンネットを取りに行きました。ルシールは自分の決意が引き起こした神経の興奮に満たされているのを感じていました。それは冒険であり、それは経験になることでしょう、しかしそれ以上に、彼女は彼に会いたかったのでした。群衆は―彼らのことを考えると少し怖く感じましたが、女性もよくこれらのデモに参加し、そこには秩序を守るためのたくさんの警察がいることを覚えていました。彼女はメイドが持ってきた服を急いで着て、階段を下り、庭に入りました。すでに夕暮れでしたがルシールは苦もなく壁にある小さなプライベート・ゲートを見つけて鍵を開けました。

彼女は通りに足を踏み入れました。すべてはとても静かでした。長く二列に点ったガス灯は遠景ではほとんど一列になっていました。数人が市民会館の方向へと急いでいました。彼女はその後をついていきました。

 

 


第X章
魔術師の杖

市民会館は巨大な集会所であり、長年にわたってローラニア人のすべての公開討論が行われてきた場所でした。その石造りのファサードは見栄えがして仰々しいものでしたが、建物には大ホールといくつかの小部屋と事務所があるだけでした。ホールは7000人近くを収容することができ;漆喰の天井は鉄の大梁で支えられ、ガス灯で十分に照らされており、なにをてらうこともなくその目的を十分に果たしていました。

ルシールは入場する人の流れに巻き込まれて中へと運ばれて行きました。席に座ることを期待していましたが、大勢の人が集まったため大部分の椅子はホールから片付けられており、残っていたのは立ち見の場所だけでした。彼女は自分が人間の固体の中の原子であることに気づきました。移動することは困難でした。戻るのはほとんど不可能です。

印象的な光景でした。旗が掲げられているホールに人々が溢れかえり;三方を囲む長いギャラリーには天井まで群がっていました。ガス灯の炎が何千もの顔に黄色い光を放っていました。聴衆のほとんどは男性でしたが、女性が何人かいることに気づいてルシールは安心しました。ホールの遠端にある舞台には一般的なテーブルとよくあるグラスの水が見えました。舞台の前には記者が長く2列になっていて、メモ用紙と鉛筆を構えていました―一種のオーケストラです。後ろと上にも椅子の列が並んでおり、それぞれの団体のバッジと肩帯で区別された様々な政治クラブや組織の多数の代議員、役員、書記が埋めていました。モレは党派の最大の力を結集し、ローラニアが見たこともないような最大のデモンストレーションを組織することに成功していました。政府に敵対するすべての政治勢力が参加していました。

そこは大きな話し声でざわめいていており、それを歓声と愛国歌の合唱が時折中断しました。突然、建物の塔の時計が時を告げました。同時に、舞台の右側の出入り口から、サヴローラが入り、続いてゴドイ、モレ、レノス、その他の運動の著名なリーダーたちが入りました。座って静かに彼を見ている椅子の列に沿って、彼はテーブルの右側へと進みました。そこにあったのは不協和音の嵐でした、誰一人として同じ意見を持ってはいないようでした。ある瞬間には全員が応援しているように聞こえ;別の瞬間にはブーイングと不満のうなり声が優勢になっていました。実際、会議はほとんど真っ二つに分かれていました。改革派の過激部門はサヴローラの舞踏会への出席を最も重大な背信行為とみなして怒りの声を上げ;より穏健な人々は騒乱の時にすがりつくには最も安全な人物として彼に喝采しました。舞台の椅子に座った代議員と常任役員はその十全性を信じられずに説明を待つ人のようにむっつりと沈黙していました。

ようやく叫び声は収まりました。議長を務めていたゴドイは立ち上がって短いスピーチをし、サヴローラへのいかなる論争的な言及をも巧みに回避し、司会の進行だけをしました。彼は良い声ではっきりと話したのでしたが、誰も彼の話など聞きたがっていませんでした。そして彼が「私たちのリーダー」であるサヴローラに出席者に挨拶するよう呼びかけると全員が安堵しました。サヴローラは自分の右側の代議員の一人と何食わぬ顔で話していましたが、すぐに聴衆の方に向きを変え、立ち上がりました。すると同じような青いスーツを着た小さなグループのうちの一人が「裏切り者!ゴマすり!」と叫び;この叫び声に何百もの声が続き;ブーイングとうなり声が爆発し;歓声は及び腰でした。望ましい反応ではありませんでした。モレはまったく絶望して周りを見ました。

暑さと圧迫感にもかかわらず、ルシールはサヴローラから目を離すことができませんでした。彼が抑えられた興奮で小刻みに震えているのが分かりました。彼はただ単に落ち着いているだけだろうと思われていましたが;群衆が彼の血をかき立て、そして彼が立ち上がったとき、もはや仮面をつけていることはできませんでした。不満の噴出に直面しながら待っている間、その青白い、真剣な顔の全てのシワに書き込まれた反発心と毅然とした姿が彼をほとんど恐ろしく見せたと言ってもいいほどでした。そして彼は話し始めました、しかし、最初彼の言葉は青い服の男とその仲間のしつこい叫び声のせいで聞き取ることができませんでした。5分間の激しい混乱の後、とうとう聴衆の好奇心が他のすべての感情に打ち勝ち、リーダーの言うことに耳を傾けるため概ね静かになりました。

サヴローラは再開しました。彼はとても静かにゆっくりと話しましたが、その言葉はホールの一番遠くの端まで届きました。最初彼は緊張したのでしょうか、おそらくわざとでしょうが、文章のあちこちで言葉を探すかのように小休止しました。彼はこの反応には驚いた、と言いました。最終目的がほぼ達成された今、ローラニアの人々が考えを変えるとは思っていなかった、と言いました。青い服の男が不愉快な叫び声でヤジを飛ばしました。ブーイングの声も上がりました;しかし今や聴衆の大多数は聞くことを望んでいたため、すぐに沈黙が戻りました。サヴローラは続けました。彼は昨年の出来事を簡単に振り返りました;党派を結成するための苦心;凄まじい妨害に遭遇して耐えたこと;武器を取るという脅しに成功したこと;大統領の自由な議会の約束;仕掛けられたトリック;群衆に向かって兵士が発砲したこと。その真剣で思慮に富んだ言葉に同意のざわめきが巻き起こりました。これは観衆が参加するイベントであって、思い出を甦らせることが喜ばれるのでした。

それから彼は代表団と大統領が市民の代表と見なすにふさわしいと考えた人々への軽蔑について話を進めました。「裏切り者!ゴマすり!」青服の男が大声で叫びました;しかし反応はありませんでした。「そして」とサヴローラは言いました。「さらにこの問題に注目していただきたいと思います。報道機関を窒息させ、人々を撃ち殺し、憲法を覆してもまだ飽き足りず、私たちが国の問題を議論し、公共の政策を決定する疑いの余地のない権利に従ってここに集まっているときでさえ、私たちの審議は政府に雇われた機関に中断されてしまうのです。」―彼が青服の男に目を向けると怒りのざわめきが巻き起こりました―「あの口汚い叫びは自由なローラニア人である私自身だけではなく、意見を表明させるために私を招いてくれた、ここにお集まりの市民の皆さんをも侮辱しているのです。」 ここで聴衆から突然憤慨の拍手と同意の声が沸き上がりました;「恥を知れ!」という声が上がり、妨害者の方向に激しい視線が向けられましたが、妨害者は目立たないように群衆の中に散らばっていたのでした。「そのような戦術にもかかわらず、」サヴローラは続けました。「そして賄賂であれ弾丸であれ、雇われた刺客であれ、容赦ない傭兵であれ、すべての妨害に直面してなお、私たちが今ここで支持している偉大な運動は続いてきました。そして私たちの古来の自由を取り戻し、私たちからそれを奪った人たちが罰せられるまで、これからも続いて行くのです。」会場のあちこちから大声援が上がりました。彼の声の調子は変わらず、大きくはありませんでしたが、その言葉は不屈の決意を印象づけました。

そして聴衆を掴んだ彼は大統領とその同僚に毒舌を弄しました。彼が挙げたポイントはすべて歓声と笑いで迎えられました。彼はルーヴェ、その勇気、その人々に対する信用について話しました。おそらく内務省にいるのは「食いしん坊」で、ホーム・オフィス(*内務省の別の呼び方)にいるのは同国人の中で夜間に外出することを恐れる「ステイ・アット・ホーム」であると言っても間違いではないだろう、と言いました。ルーヴェは確かに毒舌の良い標的でした;人々は彼を嫌っていました、その臆病さを軽蔑し、いつも嘲笑していたのでした。サヴローラは続けました。大統領は自分や他人にどんな犠牲を強いることになろうとも職に固執している、と言いました。国内における自らの横暴な振舞いと専制政治から国民の注意を逸らすため、彼は国外の複雑な事態に国民を巻き込もうとして成功したのです。彼らは今、紛争に巻き込まれたのです、何も得るものがなく、すべてを失うことになりかねない大国との紛争に。艦隊と軍隊が国費で派遣されることになります;彼らの所有物が危険にさらされるのです;おそらく兵士と船員の命が犠牲になるでしょう。いったい何のためでしょうか?アントニオ・モララが宣言したとおりに行動し、国家元首のままで死ぬために。それは悪い冗談でした。しかし彼に警告するべきです;冗談の中に多くの真実が語られていました。再び激しいざわめきが起こりました。

ルシールは魔法にかかったように聞いていました。彼が大群衆の低い不満の声とシューッという声の中に出てきたとき、彼女は同情し、その命さえ危ぶんだのでしたが、彼がこのような聴衆を説得するという一見不可能と思われる課題に挑戦した不思議な勇気に驚いていました。彼が話を進めて力と承認を得始めたとき、彼女は喜びを感じました;すべての歓声が喜びでした。彼女は群衆がソレントの警察官たちに対して露わにした怒りに静かに加わっていました。彼は今、彼女の夫を攻撃していました;それにもかかわらずほとんど敵対感情が起こらなかったのでした。

彼は聴衆の熱心な同意と民意の満ち潮の中で、軽蔑の念を込めて閣僚の話題を終わりにしました。今やより高度な問題を扱わなければならない、と言いました。自分たちが目指した理想について考えるよう促したのでした。彼らの気持ちをかき立てた後、徒にその怒りと熱狂を爆発させることを抑えたのでした。最も不幸な人間にさえ幸せの希望をもつ権利がある、と彼が語ったとき、沈黙が支配するホールに響いていたのは誰の心にも訴えかけるその重厚で音楽的な声だけでした。彼は4分の3時間以上、社会的および財政的改革について論じました。健全な実用的常識が多くの喜ばしい実例が多くの機知に富んだアナロジー(*類推)、多くの高遠かつ明快な思想で表現されていました。

「私たちのものであり、かつて私たちの父のものであったこの美しい国、青い海と雪をかぶった山々、心地よい村と裕福な都市、銀色の小川と金色のトウモロコシ畑を見るとき、軍事独裁政治という暗い前途にまともに直面しているという運命の皮肉に私は驚きます。」

混みあったホールから再び重大な決意の声が上がりました。時計を見ると彼らの熱意は1時間もの間抑えられていたのでした。ずっと湯気が上がっていました。全員が心の中で自分の気持ちを解放し、一人一人の決意を表明するための何ものかを求めていました。ホール全体が一つになっていました。彼の情熱、感情、魂そのものがその言葉を聞いている7000の人々にはっきりと伝わっており;そして彼らはお互いを鼓舞し合っていました。

そしてついにそれが解き放たれました。彼は初めて声を上げ、鳴り響く、力強い、突き刺さるような、聴衆の心を揺さぶるようなトーンでスピーチの結論部分を始めました。その態度の変化には電気的な効果がありました。短い一文が終わるたび、大歓声が沸き起こりました。聴衆の興奮は言葉で言い表せないほどのものになりました。誰もが我を忘れていました。その強烈な熱狂の奔流に抵抗することなく、ルシールは一緒に流されて行きました;自分の興味、目的、野心、夫、すべてを忘れていました。一文が長くなり、うねり、響き渡るようになりました。ついにオサの上にペリオンを積む(*オサとペリオンはギリシャの2つの山。面倒に面倒を積み重ねること)ように積み重ねられた議論は結びに達しました。すべてが不可避の結論を指し示していました。人々がその到来を見、最後の言葉が振り下ろされたとき、雷のような賛同の声が巻き起こりました。

そして彼は座って水を飲み、手を頭に押し付けました。緊張は凄まじいものでした。彼は自分の感情に身悶えしていました;全身の血管が脈打ち、すべての神経が震え;彼は汗を流し、息を切らしていました。5分もの間、誰もが激しく歓呼していました;舞台の代議員たちは椅子の上に立って腕を振っていました。もし彼がそう言ったなら大群衆は通りに出て宮殿へと行進したでしょう;そして彼らに生命のしがない物質性を再認識させるため、ソレントがとても注意深く配置した兵士たちは数多くの弾丸を要したことでしょう。

モレとゴドイが提出した決議案は歓呼とともに可決されました。サヴローラは前者に目を向けました。「ほらルイ、言った通りだろう。どうだったかな?最後の言葉を気に入ってるんだ。今までで最高のスピーチだったと思っている。」

モレは神を見るように彼を見ました。「すごかった!」 彼は言いました。「君はすべてを救ってくれた。」

そして今や会合は解散し始めました。サヴローラは横のドアへと歩いて行き、小さな待合室ですべての主な支持者と友人たちの祝福を受けました。ルシールは混雑の中を急いでいました。今のところ渋滞していました。彼女の前に立つ二人の外国人風の男が低い声で話していました。

「勇敢な言葉でしたね、カール」一人が言いました。

「ああ」もう一人言いました。「私たちは行動しなければならない。今のところ彼は良い道具だが;もっと鋭いものを必要とする時が来るだろう。」

「彼の力は大変なものです。」

「その通り、しかし彼は私たちの味方ではない。彼は私たちの運動に賛成ではない。財産の共有にどんな関心を払っていたかね?」

「私の方では」先の男が醜く笑って言いました。「いつも妻の共有の理念の方により惹かれてきました。」

「まぁ、それも偉大な社会計画の一部ではある。」

「それを分配する時には、カール、私を大統領の妻の共同所有者にして下さい。」

彼は粗野な含み笑いをしました。ルシールは身震いしました。彼女の夫が話していた、偉大な民主主義者の背後と足元の勢力がここにあったのでした。

人の流れがまた動き始めました。ルシールが乗った脇道の流れはサヴローラがホールから出て行く玄関口に向かっていました。明るいガス灯ですべてがはっきりと見えていました。ようやく彼は階段の一番上に現れ、その足元にはすでに彼の乗る馬車が停まっていました。狭い通りは群衆でいっぱいで;大変な圧力でした。

「ルイ、一緒に行こう」サヴローラはモレに言いました。「僕が降りた後、そのまま馬車に乗って行くといい。」多くの非常に高度に鍛えられた精神と同じように、彼はそのような瞬間に共感と賞賛を切望しており;そしてモレがそれをたくさんくれることを知っていました。

彼の姿を見て群衆が波のように押し寄せました。ルシールは足を取られ、目の前の黒っぽい頑丈な男に押しつけられました。沸き立つ民主主義の特性の中に騎士道の婦人に対する親切さは存在しません。男は周りを見回すこともなく後ろを肘で突き、それが彼女の胸に当たりました。痛みは強烈で;思わず彼女は悲鳴を上げました。

「紳士諸君」サヴローラが叫びました。「女性が怪我をしたようです;声が聞こえたのです。場所を空けてください!」彼は階段を駆け下りました。群衆は道を開けました。恐怖で動けなくなったルシールを助けようと熱心でおせっかいな十数本の手が伸びてきました。彼女の正体はバレてしまうでしょう;その結果は想像もつかないほど恐ろしいものでした。

「ここに入ってもらいましょう」サヴローラは言いました。「モレ、手伝ってくれ」彼は半分を担ぎ、半分は彼女が小さな待合室への階段を上るのを支えました。ゴドイ、レノス、そしてスピーチについて話し合っていた半ダースの民主派のリーダーが物珍しそうに彼女の周りに集まりました。彼は彼女を背もたれのある椅子に座らせました。「コップに水を入れて」彼は素早く言いました。誰かがそれを彼に手渡し、彼はそれを彼女に手渡すため振り返りました。しゃべることも動くこともできないルシールに逃げ道はありませんでした。彼が彼女に気づかないはずはありません。嘲笑、罵倒、危険、すべてが彼女には明白でした。彼女が手で弱々しく水を断ろうとしたとき、サヴローラは厚いベールを通してじっと彼女を見つめました。突然、彼は差し出していた水をこぼし始めました。気づかれた!そのときが来た―恐ろしい暴露のときが!

「どうしたの、ミレ」彼は叫びました。「僕の可愛い姪!どうやって夜中にこんな人の多いところに一人で来られたの?僕のスピーチを聞くため?ゴドイ、レノス、本当にうれしいことです!僕にとってどんな歓声より意味があります。姉の娘が人込みの危険を顧みず話を聞きに来てくれたのです。しかし、お母さんが」とルシールを振り向きました。「こんなことを許すはずがありません;女の子が一人で来るところではないのです。僕が連れて帰らなければいけません。怪我をしてない?言ってくれたら、席をとっておいたのに。馬車は来ている?よし、すぐに帰ろう;お母さんがとても心配しているよ。おやすみなさい、紳士諸君。おいで、かわいい娘。」彼は彼女に腕を差し出し、彼女を連れて階段を降りました。上を向いた顔がガス灯の中で青白く見える人々が、通りを埋め尽くして激しい歓声を上げていました。彼は彼女を馬車に乗せました。「行って下さい、御者さん」彼は言いました。

「どこへ、サー?」彼は尋ねました。

モレが馬車にやって来ました。「御者台に乗って行く」と言いました。「君が降りた後、客車に乗って行くよ。」そしてサヴローラがなにも言わないうちに彼は御者の横の席に上りました。

「どこへ、サー?」御者は繰り返しました。

「家」サヴローラはやけになって言いました。

馬車は出発し、歓声を上げる群衆の間を通り抜け、街のあまり人通りの多くない場所に出ました。

 

 


第XI章
夜更けに

ルシールは強烈な安堵感とともにブローガム(*二人乗りの客席密閉タイプの馬車)のクッションに落ち着きました。彼が彼女を救ってくれたのでした。感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、衝動的に彼女は彼の手を取って握りしめました。二人が再び交際を始めてから手と手が触れたのは3回目でしたが、そのたびに意味が違っていました。

サヴローラは微笑みました。「あのような群衆の中に足を踏み入れることは閣下にとって軽率極まりないことでした。幸いことに私が手段を講じるのに間に合いました。人込みの中でお怪我はありませんでしたか?」

「いいえ」とルシールは言いました。「男の人に肘打ちされて叫んでしまったのです。私は決して来るべきではなかったのです。」

「危険でした。」

「私がしたかったのは―」彼女は口ごもりました。

「私の話を聞くこと、ですね」と付け加えて彼は文を完成させました。

「はい;あなたがご自分の力を使うのを見たかったのです。」

「あなたが私に関心を持って下さるなんてうれしいことです。」

「いえ、純粋に政治的な理由からです。」

彼女の顔にはかすかな笑みが浮かんでいました。彼は素早く彼女を見ました。彼女は何が言いたかったのでしょう?なぜそう言う必要があったのでしょう?その時、彼女の心は別の理由をじっと見つめていました。

「退屈されませんでしたか」彼は言いました。

「あんな力をもっているなんて恐るべきことです。」と彼女は本心で答えました;そして少し間をおきました。「どこに行くのですか?」

「宮殿にお送りするべきでした。」サヴローラは言いました。「しかし御者台にいる私たちの純真な若い友人のせいでこの茶番をもう少し長く続けなければならないのです。彼を片付けなければなりません。今はまだ私の姪のままでいるのがいいでしょう。」

彼女は楽しそうな笑顔で彼を見上げ、そして真剣に言いました:「こんなことを思つくなんてお見事でしたし、それを実行して下さったのも立派なことでした。私は決して忘れません:あなたが素晴らしい手助けをして下さったことを。」

「さあ着きましたよ」ようやくブローガムが彼の家の入り口に着いたときサヴローラは言いました。彼は馬車のドアを開け;モレは御者台から飛び降りてベルを鳴らしました。少しの間があって、年老いた家政婦がドアを開けました。サヴローラは彼女に呼びかけました。「ああ、ベティン、起きてくれてありがとう。こちらは私の姪で、私の話を聞きに会合に来て群衆に押されてしまったのです。今夜は一人で家に帰らせられません。寝室を用意できますか?」

「1階に予備の部屋がありますけど」と老婦人は答えました。「残念ながら使えないと思います。」

「どうして?」 サヴローラは素早く尋ねました。

「大きなベッドのシーツが準備できていないし、煙突を掃除してからは火を使ってないのです。」

「あぁ、じゃあ、できるだけのことをやってください。おやすみ、モレ。家に帰ったらすぐに馬車をここに戻してしてくれないか?明日の朝の記事のことでザ・ライジング・タイドのオフィスにメモを送らなきゃいけないんだ。忘れないで―できるだけ早くして欲しい、へとへとに疲れてるんだ。」

「おやすみ」モレは言いました。「君は人生最高のスピーチをしてくれました。君が先頭に立ってくれるのなら、何ものも僕らを止めることはできません。」

彼は馬車に乗り込んで立ち去りました。サヴローラとルシールは階段を上って居間に行き、家政婦はシーツと枕カバーを用意するためにせわしく立ち去りました。興味と好奇心を抱いてルシールは部屋を見回しました。「今私は敵陣の真ん中(*heart)にいるのですね」と彼女は言いました。

「あなたは生涯多くの人の心(*heart)の中にいることでしょう。あなたが女王であり続けるかどうかに関らず」とサヴローラは言いました。

「あなたはまだ私たちを追い出す決意をしているのですか?」

「今夜私が言ったことを聞いたでしょう。」

「私はあなたを憎むべきなのでしょう」ルシールは言いました。「しかし敵同士だとは感じていません。」

「私たちは反対陣営にいるのです。」と彼は答えました。

「私たちの間に入ってくるのは政治だけです。」

「政治と人々。」彼はありふれたフレーズを使って意味ありげにつけ加えました。

彼女は驚いた目で彼を見ました。何を言いたいのでしょうか?彼は彼女自身が勇気を持って覗き込んだよりも深く彼女の心を読んでいたのでしょうか?「そのドアはどこに通じているのですか?」彼女は関係のないことを尋ねました。

「それ?それが通じているのは屋根―私の天文台です。」

「そう!見ていいですか」彼女は叫びました。「星を見るのですか?」

「よく見ています。好きなのです;それは示唆と着想に満ちています。」

彼はドアの鍵を開け、狭く曲がりくねった階段を上ってプラットフォームに向かいました。いつものような心地よいローラニアの夜でした。ルシールは手摺まで歩いて行って見渡しました;下には町のすべての灯りが、上には星が瞬いていました。

突然、はるか遠くの港で幅の広い白い光線が放たれました;軍艦のサーチライトでした。しばらくの間それは軍の突堤の上を通って、水路の入り口の砲台の上に停まりました。艦隊は港を出て、困難な航路を注意深く進もうとしていたのでした。

サヴローラは提督の出発が近づいていることを知り、その意味をたちまち理解しました。「これは」彼は言いました。「事態を早めることになるかもしれない。」

「船がいなくなったら、もう立ち上がることを恐れないというのですか?」

「恐れません;しかしふさわしい時を待った方が良いです。」

「そして、その時は?」

「おそらく差し迫っています。あなたには首都を離れていただきたいのです。数日後には女性の居る場所はなくなります。あなたのご主人はそれをご存じです;なぜ彼はあなたを地方に送り出さなかったのですか?」

「なぜなら」彼女は答えました。「私たちはこの反乱を鎮圧し、それを引き起こした人々を罰するからです」

「幻想を抱いてはいけません」サヴローラは言いました。「私の計算は間違っていません。軍隊は信頼できません;艦隊は行ってしまいました;人々は決意を固めています。あなたがここにいることは安全ではありません。」

「私は追い出されるつもりはありません」彼女は憤然と答えました。「決して逃げたりはしません。夫と一緒に死にます。」

「いえ、私たちが考えているのはずっとありきたりのことです」彼は言いました。「私たちは大統領にとても気前良く年金を支払います、そして彼は美しい妻を連れてどこか陽気で平和な都市に引退し、そこで他人の自由を奪うことなく人生を楽しむことができるのです。」

「ご自分は何でもできると思っているのですか?」彼女は叫びました。「あなたの力は大衆を蜂起させることができます;しかし引き止めることはできるのですか?」そしてその夜群衆の中で聞いた言葉を言いました。「あなたは強大な力を弄んでいるのではありませんか?」

「はい、その通りです」彼は言いました。「だからこそ、事態がどちらかに落ち着くまでの数日間、地方に行くようお願いするのです。私かあなたの夫のどちらかが倒れるかもしれません。もちろん私たちが勝った場合、私は彼を助けるつもりです;しかし、あなたが仰ったように制御できないかもしれない別の力があります;そして彼が優位に立ったなら―」

「ええ?」

「私は射殺されるでしょう。」

「恐ろしいことを!」彼女は言いました。「なぜそれでも続けるのですか?」

「ええ、掛け金が上がってきた今このとき、私にもゲームの面白さが分かりかけてきたところです。それに死はそれほど恐ろしいものではありません。」

「これからそうなるかもしれません。」

「そうは思いません。人生は、続けるためには、幸福のバランスが取れていなければなりません。私が確信していること;未来について言えるであろうことはただこれだけです―『あるなら、それに越したことはない。』」

「ご自分の世界についての知識を他のすべてのものに当てはめるのですね。」

「いけないことでしょうか?」 彼は言いました。「なぜ同じ法則が宇宙全体で、そして可能であればそれを超えて有効であってはいけないのでしょう?他の太陽(*恒星)が私たちの太陽と同じ元素を含んでいることは光のスペクトルから分かっています。」

「あなたは星を信じているのですね。」彼女は疑わしそうに言いました。「そして、あなたは認めないでしょうけれど、星がすべてを教えてくれると思っているのです。」

「星が私たちの関心事に興味を持っていると思ったことはありません;しかし、もしそうでないなら不思議な話をしてくれるかもしれません。たとえばもし私たちの心を読むことができるとしたら?」

彼女がちらっと眼を上げると彼と目が合いました。お互いをじっと見つめました。彼女ははっと息を飲みました;星が何を知っていようとも、彼らはお互いの秘密を読み合っていました。

誰かが階段を駆け上がる音がしました。家政婦でした。

「馬車が戻って来たようです」サヴローラは静かな声で言いました。「宮殿に戻れます。」

老婦人が登りに息を切らしながら屋根に足を踏み入れました。「シーツの準備ができました。」その声ははしゃいでいました。「火は赤々と燃えています。お嬢様にはスープの用意ができています、もし召し上がるなら冷めないうちにいらっしゃって下さい。」

割り込んできたのがとても平和なことだったのでルシールとサヴローラは笑いました。気まずい瞬間からの幸せな脱出でした。「あなたはいつもどうにかして、ベティン」彼は言いました。「みんなを快適にしようとしてくれますね;でも寝室は要らなくなってしまいました。僕の姪は母親が彼女がいないことで不安にならないかと心配しているのです、馬車が戻ってきたらすぐに彼女を送り返すことにします。」

かわいそうな老人はひどくがっかりしたようでした。暖かいシーツ、心地よい暖炉、温かいスープは、彼女が他人のために用意するのが大好きだった快適さであり、いわば代理人によってそれを楽しんでいたのでした。彼女は背を向けて狭い階段を悲しげに降り、そして彼らは再び後に残されました。

そこで二人は座って話しましたが、それまでと違って自分たちの心が通い合っていることが良く分かっていました、その間、月は空高く昇り、そよ風が足下の庭のヤシの木の葉をかき混ぜていました。あまり先のことを考えることもなく、戻ってくる御者の遅れを責めることもありませんでした。

とうとう石畳の通りの車輪の音が夜の静けさと二人の会話を破りました。

「ついに」サヴローラは気負いもなく言いました。ルシールは立ち上がり、手摺から見下ろしました。馬車がほとんど全速力で近づいていました。それはドアの前で急に止まり、男が急いで飛び出しました。ドアベルが大きな音で鳴りました。

サヴローラは彼女の両手を取りました。「お別れしなければなりません」彼は言いました;「またいつか会えますか―ルシール?」

彼女は答えず、月明かりはその顔に浮かんだ表情を明らかにしませんでした。サヴローラが先に階段を下りました。居間に入ると男が反対のドアを慌ただしく開け、サヴローラを見て素早く足を止め、帽子を取って敬意を表しました。モレの使用人でした。

サヴローラは大変な冷静さで自分の背後のドアを閉め、ルシールを階段の暗闇の中に残しました。彼女は驚いて待っていました;薄いドアでした「私の主人が、サー」客の声は言いました。「全速力でこれを持って行って、あなたの手に直接渡すように、と申しました。」その後、紙を裂く音、小休止、感嘆が続き、サヴローラは落ち着いた、制御された激しい感情を隠せない落ち着いた声で答えました「どうもありがとう;僕はここで待っていると言って下さい。馬車に乗って行かないで;歩いて帰って下さい―ちょっと待って、僕が外まで送ります。」

彼女はもう一方のドアが開き、彼らの足音が階段を降りて行くのを聞きました;そして彼女はハンドルを回して部屋に入りました。何かが起こった、何か突然の、予期しない、重大なことが。彼の声―不思議なことに彼女はそれをよく分かるようになり始めたていたのです!―がそう告げていました。封筒が床に落ちていました。テーブル―つまりタバコの箱とリボルバーが並んでいるテーブル―の上には手紙があり、まるで必死で秘密を守ろうとするかのように半ば巻き上がっていました。

微妙で、多様で、複雑なのが人間の行動の源泉です。彼女は紙の方から自分に触れてきたように感じました;それが彼の利害に関係していることは分かっていました。二人の利益は相反していました;それでも彼女が野生の好奇心に駆り立てられたのは彼のためなのか彼女自身のためなのか分かりませんでした。手紙の折り目を伸ばしました。それは手短で急いで書かれたものでしたが要を得ていました:受け取ったばかりの暗号電文によれば、ストレリッツが今朝2000人の兵士と国境を越え、トゥルガとロレンツォ経由でこちらへ行軍中、とのこと。時が来ました。ゴドイとレノスにも伝えました、すぐに連れて行きます。どこまでも君と一緒のモレより。

ルシールは血が心臓に流れるのを感じました;もう小銃射撃の音を想像していました。その時が来たというのは本当でした。運命的な手紙に魂を奪われて;彼女はそれから目を離すことができませんでした。突然ドアが開いてサヴローラが入ってきました。物音、動揺、そして何よりも発覚した、という意識が彼女から低い、短い、びくっとした悲鳴を絞り出しました。彼はすぐに状況を把握して「青ひげ(*フランスの民話:夫の留守中に妻は入ってはいけない部屋に入って見てはいけないものを見てしまう)」と皮肉っぽく言いました。

「反逆罪」猛烈な怒りの中に逃げ込んで彼女は反論しました。「そう、あなたたちは夜中に蜂起して私たちを殺そうというのね―共謀者!」

サヴローラは物柔らかに微笑みました;その落ち着きはまたしても完璧でした。「伝令は歩いて帰らせました、馬車をお使いになれます。ずいぶん長くお話しました;もう3時です;閣下はこれ以上宮殿へのお帰りを遅らせるべきではありません。それは最も軽率なことです;それに、ご存知のとおり来客を待っているのです。」

その落ち着きは彼女を激怒させました。「はい」と返答しました。「大統領はあなたにその―警察を送ります。」

「彼はまだ侵入のことを知らないでしょう。」

「私が話します。」と彼女は答えました。

サヴローラはそっと笑って「おやおや」と言いました。「それはフェアではないでしょう。」

「すべてはフェアです、愛と戦争においては。」

「ではこれは―」

「両方」と彼女は言って、そして泣き崩れました。

そして二人は階段を下りました。サヴローラは彼女が馬車に乗るのを手伝いました。「おやすみなさい」と彼は言いましたが、もう朝でした「そしてさようなら。」

しかしルシールは何を言い、何を考え、何をなすべきかが分からず、慰めようもないほどに泣きじゃくっていました。そして馬車は走り去りました。サヴローラはドアを閉めて自分の部屋に戻りました。自分の秘密が危険にさらされているとは全く思っていませんでした。

 

 


第XII章
戦争評議会

サヴローラがほとんどタバコを吸う暇もなく革命派のリーダーたちが到着し始めました。モレが最初でした;彼は乱暴にベルを鳴らし、返事があるまで玄関先を踏み鳴らし、階段を3段ずつ二階へと駆け上がり、興奮に震えながら部屋に勢いよく飛び込んできました。「ああ」彼は叫びました。「時が来た―言葉ではなく、今や行動の時だ。僕らは正当な理由で剣を抜く。僕は鞘を投げ捨てる;幸運は僕らの味方だ。」

「よーし」サヴローラは言いました。「ウイスキーとソーダ水を飲もう―そこのサイドボードにある。剣を抜くには良い飲み物だ―実に最高だよ。」

モレは少し照れて向きを変え、テーブルに向かって歩いてソーダ水の瓶を開けました。ウイスキーを注ぐとき、グラスと瓶のチャリンという音がして彼の動揺が露呈しました。サヴローラはそっと笑いました。素早く振り返った彼の衝動的な追随者は、新たな感情の噴出で動揺を隠そうとしました。「ずっと言ってただろう。」彼はグラスを高く掲げて言いました。「唯一の解決策は力だって。それがやって来たんだ、予想通りだ。僕はそれを飲む―戦争、内戦、戦い、殺人、そして突然の死―こういう手段で自由を取り戻すのさ!」

「このタバコにはすばらしい鎮静効果がある。アヘンは入っていない―ソフトで新鮮なエジプト製だ。毎週カイロから取り寄せているのだ。3年前にそこで会った小柄な老人が作っている―アブドラ・ラチュアンという人だ。」

彼は箱を差し出しました。モレは1本取って;それに火をつける仕事が彼を落ち着かせ;彼は座って猛烈に吸い始めました。サヴローラは夢のように落ち着いたまま彼を見て、その周りに浮かぶ煙の輪をよく見ていました。やがて彼は話しました。「それで君は戦争があって人々が殺されることをうれしく思うのかね?」

「この専制政治が終わることを嬉しく思うね。」

「僕らはこの世界で僕らが持っているすべての喜びとすべての勝利を賭けなければならないことを忘れないでくれ」

「僕はチャンスを逃すつもりはない。」

「僕は信じる、確信を持って言うことができれば嬉しいのだが、僕は祈る、君に多くのことが降りかからないように。しかしそれでも僕らが賭け金を払わなければならないことは事実であり、そして人生のすべての良いことのために人は前払いするのだ。そこには健全な財務の原則が適用される。」

「どういう意味?」 モレは尋ねました。

「君は一体出世したいのか?他の人が遊んでいる間、働かなければならない。君は勇敢だという評判が欲しいのか?では自分の命を危険にさらさなければならない。君は精神的または肉体的に強くありたいのか?では誘惑に抵抗しなければならない。これはすべて前払いなのだ;そして未来の財務なのだ。事態の反対側を考えてみよう;悪いことが後で払い戻される。」

「いつもじゃない。」

「いや、いつもだ、土曜の夜に放蕩すれば日曜の朝頭痛がするのと同じように、若い時に怠けていれば年を取ってから貧しくなるのと同じように、食いしん坊の食欲が見苦しい太鼓腹を作るのと同じように。」

「では、君は僕がこの興奮と熱意に対して支払いをしなければならないと言うのか?君は僕がこれまでに何も支払っていないと思うのか?」

「君は危険を冒さなければならないだろう、それは支払っている。運命はしばしば二倍を払い戻すか、全く払い戻しをしない。しかし人はこうした危険に軽率に乗り出すべきではない。紳士は常に清算の日を考えるものだ。」

モレは黙りました。勇敢で衝動的な人物でしたが、会話が彼を冷静にしました。彼の勇気はストイックなものではありませんでした;とてつもないショックをしっかりと見つめるよう自分自身を鍛えていませんでした。彼はこの世の戦いと希望について、絶壁の端に輝く花や草に駆り立てられ、それを見つめる人のような考えしか持っていなかったのです。

ゴドイとレノスが同時に到着するまで二人はしばらく黙っていました。

4人の人物はそれぞれ、その性質に応じて、自分たちにとって非常に意味のあるニュースを受け取っていました。サヴローラは自らの哲学の鎧を身に着けて遠い距離から世界を見つめていました。モレは興奮に身悶えしていました。他の2人は危険が近くにあり、接近していることに対して落ち着いても意気が上がってもいませんでしたが、彼らが動乱のときの人物ではないことが見てとれました。

サヴローラは彼らに親しく挨拶し、全員が座りました。レノスは押しつぶされていました。行動の重いハンマーが落ちてきて、彼が常に信頼してきた判例と専門用語のデリケートな構造体をペチャンコにしてしまったのでした。危機が到来した今、法律、彼の大盾と円盾は、まず最初に捨てられました。「なぜ彼はこんなことをしたのですか?」彼は尋ねました。「どういう権限があって彼は来たのですか?彼は私たち全員を巻き込んだのです。私たちに何ができるでしょうか?」

ゴドイもショックを受けて怯えていました。彼は危険を恐れ、危険に縮み上がりますが、それでも危険があると知っている進路に慎重に乗り出す人々のうちの一人でした。彼は長い間反乱を予見していましたが、それを続けていました。それは今、彼の上にあり、彼を身震いさせていましたが;それでもどうにか威厳を保とうとしていました。

「どうすべきだろうか、サヴローラ?」彼は本能的により大きな魂とより強い心を振り向いて尋ねました。

「ええ」とリーダーは言いました。「彼らは私が命令するまで来るべきではありませんでした;レノスが言った通り、私たちの計画がいくつかの点で不完全であるにもかかわらず、彼らは私たちを巻き込んだのです。ストレリッツは私の言うことをひどく無視しています;彼とは後で話をつけます。差し当たり、非難の応酬は無益です;私たちは状況に対処しなければなりません。朝には大統領が侵攻を知ることになるでしょう;ここにいる部隊の一部は戦場にいる政府軍に加勢するよう命じられるでしょう。多分親衛隊も派遣されるでしょう。他の者は行軍を拒否すると思いますが;彼らは完全に大統領の側についています。そうであれば我々は攻撃しなければなりません。すでに手配したように。モレ、君は民衆に武装を呼びかけるのです。宣言書を印刷し、ライフルを配備し、革命を宣言しなければならなりません。代議員全員に知らせなければならなりません。兵士たちが友好的であればすべてうまくいきますが;そうでなければ、君たちは戦わなければなりません―私は強い抵抗があると思いません―宮殿を襲撃し、モララを捕虜にするのです。」

「そうこなくっちゃ」とモレは言いました。

「その間」とサヴローラは続けました。「私たちは市庁舎で臨時政府を宣言します。それから私は君に命令を送ります;君は私に報告を送らなければなりません。これはすべて明後日に起こることです。」

ゴドイはぶるぶる震えましたが、同意しました。「はい」と彼は言いました。「それが唯一のコースでしょう、逃亡と破滅を以外の。」

「結構です;では詳細に入ります。まずは宣言です。今夜私がそれを書きます。モレ、君はそれを印刷するのです;明朝6時に君に渡します。それから人々を集めて武装させるために僕らが考えた手筈を準備してください;僕が君に書面で命令するまで彼らに行動させるのは待ってください。レノス、あなたは臨時政府のメンバーに会わなければなりません。公安評議会の設置のビラを印刷してください、そして明日夜にそれを回覧する準備をしてください;しかし、もう一度私が言うまでは待っていてください。多くは軍隊の態度にかかっています;しかしすべては本当によく準備できています。私たちは結果を恐れる必要はないと思います。」

陰謀の複雑な詳細を、陰謀というのはそういうものですが、反乱のリーダーはよく知っていました。数ヶ月の間、彼らは自分たちが嫌悪する政府を終わらせることのできる唯一の手段は武力であると見ていました。サヴローラはあらゆる予防策を講じることなく、そのような企てに専念する人物ではありませんでした。手抜かりはありませんでした。あとは革命のマシンを発動するだけでした。策謀は精巧なものでその規模が大きかったにもかかわらず、大統領と警察は確かなことを何も知りませんでした。彼らは蜂起が差し迫っていることを恐れていました;数ヶ月前から危険に気づいていました。しかし、どこで政治的動揺が終わり、公然たる扇動が始まったかを知ることは不可能でした。高い社会的地位とほとんどヨーロッパ中の主要リーダーの世評が特定の証拠なしに彼らを逮捕することをとても難しくしていました。大統領は行政の側から何らかの力を行使することによってそれに拍車をかけない限り人々は立ち上がらないと信じており、彼らを刺激することを恐れていました。そうでなければ既に国立刑務所の独房はサヴローラ、モレ、その他の人々でいっぱいだったことでしょう;実際、彼らの命は救われたのですから、もっと感謝してよかったはずです。

しかしサヴローラは自分の立場を理解し、完璧なタクトと技量で自分のゲームをプレイしていました。彼の政治的扇動で行なわれた大規模なパレードは大統領がその下の計画的暴力の策謀を見抜くことを妨げていました。ついに準備は完了に近づいていました。あとは日にちだけの問題でした;ストレリッツの衝動的な行動が情勢を促進しました。大きな花火の一角が尚早に点火されてしまいました;効果が損なわれないよう、残りを発射する必要があります。

彼は間違いがないことを確認するため、1時間近く計画の詳細の点検を続けました。ついにすべてが終わり、初期の公安評議会のメンバーは出て行きました。サヴローラは年老いた保母を起こしたくなかったので彼らを自分で送って行きました。かわいそうに、どうして彼女が野心的な男たちの闘争に振り回される必要があるでしょうか?

モレは熱意に満ちて立ち去り;他の二人は陰鬱で上の空でした。彼らの偉大なリーダーはドアを閉め、その夜もう一度自分の部屋への階段を上りました。

部屋に入ると、朝の最初の光が窓の分けられたカーテンの間から入ってきました。灰色の光の中に半分空のグラスと満タンの灰皿のある部屋は、もはや若くはない女性のように見え、けばけばしい色どりの無情な夜明けと前夜の虚飾が彼を驚かせました。寝るには遅すぎました;それでも彼は疲れていて、眠気を感じなくなったときに人が感じるあの乾いた疲労を感じていました。彼は苛立ちと憂鬱の感覚に襲われていました。人生が物足りなく感じられました;何かが欠けていました。野心、義務、興奮、名声を差し引いたとき、後には純粋な空虚が残っていました。すべては何のためなのでしょうか?彼は静かな通りについて考えました;あと数時間で銃声がそこにこだますることでしょう。かわいそうな怪我人が血を流して家に運び込まれ、怯えた女性が恐怖に駆られて容赦なくそのドアを閉じるでしょう。他の人々は確かな現実の地上から未知の不確かな抽象へ、人間の理解の外へはじき飛ばされ、敷石の上でぐったりと恨みがましく横たわるでしょう。そして何のために?その問いの答えを彼は見つけることができませんでした。彼自身の行動に対する弁明は、自然が人類の存在のためにしなければならないはるかに大きな弁明に溶け込んでいるのでした。ええ、彼は殺されるかもしれません。そしてそれに思い至ったとき、その突然の変化と恐らくその大きな啓示への不思議な好奇心が湧きました。内省は人間の野心の浅瀬に対する彼の不満を和らげました。生命の音色がずれているとき、人は死の音叉でそれを修正しなければなりません。そのはっきりした脅威の音色が聞こえたとき、人間の心の中で生命への愛が最も明敏になるのです。

現実の難しい問題はすべての人をそのような気分と内省から地上に呼び戻します。彼は自分が書かなければならない宣言文を思い出し、立ち上がって生者の仕事のおびただしい詳細に突入し、こうして人生の不毛さを忘れました。そして彼は座って書き、その間に夜明けの淡いきらめきは日の出の透き通った光へ、そして日中の暖かい色合いへと輝きを増しました。

 

 


第XIII章
エグゼクティブの行動

大統領官邸のプライベートな朝食ルームは小さいながらも天井の高い部屋でした。壁にはタペストリーが掛けられていました;ドアの上には古代のタイプの武器と歴史が複雑なパターンで図案化されていました。大きなフランス窓が壁に深く設置され、重い深紅のカーテンが朝の明るい光を和らげていました。宮殿の他の部分と同様、それは公式の側面を帯びていました。窓は石造りのテラスに面していて、そこを通り抜けた人々は宮殿の渋い壮麗さが庭の美しい混乱に変わることに安堵感を覚えました。そこでは木々の広がりと細い棕櫚の葉の間に港のきらめく水が目に入るのです。

2人掛けのテーブルは適度に小さく、よく整えられていました。長い間ローラニア共和国が最高行政官に授けることを原則としていた気前のよい収入によって大統領は優雅で贅沢なスタイルで生活し、良質の銀器、切り花、優れたコックの魅力を楽しむことができるのでした。しかしちょうど先述したばかりの出来事の翌朝の食事でモララが妻に会ったときその眉は曇っていました。

「悪い知らせ―またうんざりするような知らせです」と彼は言って、座ってテーブルに一握りの書類を置き、使用人に部屋を出るように合図しました。

ルシールは強い安堵感を味わいました。結局自分の秘密を彼に話す必要はないのでしょう。「始まった(*startした)のですか?」彼女は軽率にも尋ねました。

「はい、昨夜ですが;彼を止めることは可能です。」

「それは良かったです!」

モララは驚いて彼女を見ました。

「どういう意味ですか?提督と艦隊が私の命令を実行できなくなったことがなぜうれしいのです?」

「艦隊!」

「いやはや!どういう意味だと思ったのですか?」彼は急き込んで尋ねました。

逃げ道が思い浮かびました。彼女は彼の質問を無視しました。「艦隊が行ってしまわないのはうれしいことです。それが必要だと思います。だって今は都市が非常に不安定ですから。」

「ああ」と大統領はまもなく言いました―疑われている、と彼女は思いました。自分の退却を援護するために彼女は質問しました。「なぜ彼らは止められたのですか?」

モララは紙束の中から報道頼信紙を引き出しました。

「サイード港、9月9日午前6時」と彼は読み上げました;「英国の石炭蒸気船モード、1,400トンは今朝運河に座礁し、その結果交通が遮断された。水路をクリアにするためあらゆる努力が払われている。事故は昨夜通過したHBMSアグレッサーの極端な喫水によって引き起こされた水路の沈泥が原因と考えられている。」そして付け加えました:「これがやつらのやり方だ、英国の豚の。」

「わざとやったことなのでしょうか?」

「もちろん。」

「しかし、艦隊はまだそこにいません。」

「明日の夜にはいるでしょう。」

「しかし、なぜ彼らは今運河をブロックする必要があるのです―なぜ待ってはいけないのでしょう?」

「特有のcoups de théâtre(*劇的な変化)への嫌悪感のためだと私は思います。フランス人なら私たちが運河の入り口に着くまで待ってから、私たちの目の前できちんとドアを閉めていたことでしょう。しかし英国外交は見た目の効果を目指していません;さらに、この方がより自然に見えます。」

「なんていまいましい!」

「そして聞いてください」大統領は鋭い苛立ちに身を委ね、紙束から別の紙を引っ掴んで読み始めました。「大使より」彼は言いました;「女王陛下の政府は紅海の南にあるさまざまな英国の石炭基地を指揮する将校に、ローラニア艦隊にあらゆる支援を提供し、地元の市場価格で石炭を供給するように指示いたしました。」

「侮辱ですわ」と彼女は言いました。

「ネズミで遊ぶ猫です」彼は苦々しく答えました。

「どうするおつもりですか?」

「どうする?不機嫌になって、抗議しますが―諦めるしかありません。他に何ができるでしょう?彼らの船はその場にあり;私たちの船は遮断されているのです。」

会話は途切れました。モララは紙束を読み、朝食を続けました。ルシールの決意が戻ってきました。彼女は彼に言います;しかし条件があります。どんな犠牲を払ってもサヴローラは守られなければなりません。「アントニオ」彼女はびくびくしながら言いました。

ひどく機嫌が悪かった大統領はしばらく読み続けた後、急に見上げました。「はい?」

「あなたに言わなければならないことがあります。」

「はい、なんでしょう?」

「大きな危険が私たちを脅かしています。」

「知っています」彼はぶっきら棒に言いました。

「サヴローラ―――」彼女はあやふやで決心がつかず口ごもりました。

「彼がなにか?」モララは突然興味を持って言いました。

「もし彼が陰謀や革命の計画で有罪になったとしたら、あなたはどうしますか?」

「私は世界中で一番喜んで彼を撃つでしょう。」

「なんてこと、裁判なしで?」

「とんでもない、戒厳令下の裁判があって彼は出廷を求められます。彼がどうしたのです?」

悪しき瞬間でした。彼女は別の逃げ道を探し回りました。

「彼は―彼は昨夜スピーチをしました」と彼女は言いました。

「しましたね」大統領はいら立ちながら答えました。

「ええと、それは非常に扇動的だったに違いないと思います、通りで一晩中群衆の歓声が聞こえていましたから。」

モララは深い嫌悪感とともに彼女を見ました。「私の愛する人、あなたは今朝どうかしていますよ」と彼は言って紙束に戻りました。

その後の長い沈黙はミゲルが開封された電報を持って急いで入ってきたことによって破られました。彼はまっすぐ大統領のところへ歩いて行き、無言でそれを手渡しました;しかしルシールには彼が焦燥、興奮、あるいは恐怖に震えていることが分かりました。

モララは折りたたまれた紙を悠然と開き、テーブルの上で折り目を伸ばし、そして読むなり椅子から飛び上がりました。「なんてことだ!これはいつ来たのかね?」

「たった今です。」

「艦隊」と彼は叫びました。「艦隊、ミゲル―、一瞬も遅れてはならない!提督を呼び戻せ!彼らをすぐに帰って来させなければならない。私が自分で電報を書く」彼はくしゃくしゃにしたメッセージを手に部屋から急いで出て、ミゲルが後に続きました。ドアで彼は控えている使用人を見つけました。「ソレント大佐に使いを出せ―すぐにここに来るようにと。行け!早く!走れ!」男が儀式的な遅さで出発したとき、彼は叫びました。

ルシールは彼らが廊下を慌ただしく行って遠くのドアを閉めるのを聞きました;そして、すべてが再び静かになりました。その電報に何が書かれていたのかを彼女は知っていました。突然の悲劇が彼ら全員を襲い;彼女のすぐそばを悲劇のクライマックスが襲ったのでした;しかし彼女は自分が夫に話すつもりだったことを嬉しく思い―そして結局話さなかったことをさらに嬉しく思いました。皮肉屋はサヴローラの自分の秘密の安全に対する自信に十分な根拠があったことに気づいたことでしょう。

彼女は居間に戻りました。近い将来の不確かさに恐れを感じていました。反乱が成功した場合、彼女と夫が生き残るためには逃亡しなければならないでしょう;それが封じられた場合、結果はより恐ろしいものでした。一つのことがはっきりしていました;大統領はすぐに彼女を首都から安全な場所へと送るでしょう。どこへ?これらすべての疑念と相反する感情の中で支配的だったのは一つの願望でした―サヴローラに再び会って、彼に別れを告げ、彼女は彼を裏切らなかった、と言うこと。それは不可能でした。多くの不安の餌食となり、恐れていた展開を待ちつつ、彼女は目的もなく部屋をあちこち歩き回りました。

その間に大統領と秘書はプライベート・オフィスに到着していました。ミゲルはドアを閉めました。双方がお互いを見ました。

「ついに来た」モララは息を切らして言いました。

「不幸なことに」秘書は答えました。

「勝つぞ、ミゲル。私の星への信頼、私の運―私はこれを見届ける。彼らを粉砕するのだ;しかしやるべきことが沢山ある。今この電報をサイド港(*スエズ運河の北端)の我々のエージェントに打たねばならない;暗号で送る、回線をクリア(*電信のオペレーターへの指示);高速の通報艦を一隻チャーターして8日の深夜にサイド港へ向かったメロ提督に直接会うべし。停止。急いでここで戻ってくるよう私の名前で命令せよ。費用を惜しむな。では打ってくれ。運が良ければ船は明日の夜ここに戻ってくるだろう。」

ミゲルは腰を下ろしてメッセージを暗号化し始めました。大統領は興奮して部屋を歩き回った。そして彼はベルを鳴らし;使用人が入って来ました。

「ソレント大佐はもう来たのかね?」

「まだです、閣下。」

「使いを出して彼にすぐに来るように言うのだ。」

「もう出しました、閣下。」

「もう一度出せ。」

その男は立ち去りました。

モララはもう一度ベルを鳴らしました。ドアに使用人が現れました。

「馬に乗った伝令はいるかね?」

「はい、閣下。」

「終わったかね、ミゲル?」

「このとおり」と秘書は立ち上がって驚いている従者にメッセージを渡しました。「急いで。」

「行け」と大統領は平手でテーブルを叩いて叫び、男は部屋から退散しました。疾走する馬の音がモララの焦りを幾分和らげました。

「やつは昨夜9時に国境を越えた、ミゲル;夜明けにはトゥルガに着いたはずだ。そこには小さな駐屯地があるが、前進を遅らせるには十分だ。なぜニュースがないのだろうか?この電報はパリから来たものだ、外務長官から。私たちは聞いていなければならなかったはずだ―誰が駐屯地を指揮していたのかね?」

「存じません、閣下。大佐がすぐにここへ来るでしょう;しかし音信不通は危険の兆候です。」

大統領は歯を食いしばりました。「軍隊は信頼できない。彼らは皆不満を持っている。ひどいゲームだ;しかし私は勝つ、私は勝ってみせる!」彼は自分自身に対して確信というよりも活力を込めて何度かその文言を繰り返しました、あたかも自分の心を強化しようとしているかのようでした。

ドアが開きました。「ソレント大佐がお着きです。」案内係が告げました。

「見て下さい、親父さん」モララは親しげに語りかけました―部下よりも友人が欲しいと感じていたのです―「ストレリッツが侵入してきたのです。彼は昨夜2000人と数丁のマキシム機関銃とともに国境を越え、トゥルガとロレンツォを行軍してここへ来ようとしているのです。トゥルガの司令官が何も言ってこないのですが;誰ですか?」

ソレントは珍しいタイプではなく、独自に責任を取ることを躊躇う兵士の1人でした。彼は戦場と政府で長年大統領に仕えてきました。ニュースが届いたときに一人だったとしたら、彼は雷に撃たれたようになったことでしょう;今は軍人の正確さを守って従うべきリーダーがいました。驚いた様子をみせることもなく、少し考えてから彼は返答しました「デ・ロック少佐です。4個中隊を率いています―良い将校です。信頼されて結構です、サー。」

「しかし軍隊は?」

「それはまったく別の問題です。私が何度かお知らせしたように、サー、軍全体が混乱しています。信頼できるのは親衛隊、そしてもちろん将校だけです。」

「まあ、見てみよう」大統領は力強く言いました。「ミゲル、地図を取ってくれ。この国のことはご存じですね、ソレント。トゥルガとロレンツォの間のブラック・ゴルジュを守らなければなりません。ここです。」彼は秘書が広げた地図を指さしました。「ここで彼らを止めるか、何としても時間を稼がねばなりません、艦隊が戻ってくるまで。ロレンツォの戦力は?」

「1個大隊と機関銃2丁です」戦争長官は答えました。

大統領は部屋の中をぐるぐると歩き回りました。すぐに決断することには慣れていました。「1個旅団なら間違いないだろう」と彼は言いました。そして反対側を向きました。「親衛隊の2個大隊を直ちに汽車でロレンツォに行かせるように。」ソレントは手帳を取り出して書き始めました。「2個野戦砲兵隊」と大統領は言いました。「どの2隊が良いでしょう、大佐?」

「第1と第2がいいでしょう」とソレントは答えました。

「そして親衛隊の槍騎兵隊。」

「すべて?」

「はい、すべてです、伝令部隊を除いて。」

「ではあなたには信頼できる1個大隊しか残りません。」

「わかっています。」と大統領は言いました。「大胆なコースですが、唯一のコースです。では市内の正規連隊はどうですか?一番悪いのはどれでしょうか?」

「第3、第5、第11が最も不安です。」

「よろしい;彼らを去らせよう。今日彼らをロレンツォへと行軍させ、支援旅団として街から10マイル離れたところに留まらせるのです。さて、誰に指揮させましょうか?」

「ロロが年長です、サー」

「愚か者、化石、そして時代遅れだ」大統領は叫びました。

「愚かですが着実です」ソレントは言いました。「彼は輝かしいことを何もしようとしない、という計算ができます。彼は言われたことをするだけで、それ以上は何もしません。」

モララはこの途方もない軍事的美徳を再考しました。「よろしい;彼に支援旅団を与えましょう;彼らが戦うことはないでしょう。しかし他の仕事においては;また違います。ブリエンツには戦ってもらわなければならないでしょう。」

「ドロガンではいけないのでしょうか?」戦争長官は提案しました。

「彼の妻に我慢がならないのだ」と大統領は言いました。

「彼は優れた音楽家です、サー」とミゲルが口を挟みました。

「ギター―とてもメロディアス。」彼は惚れ惚れと首を振りました。

「それにすばらしい料理人を持っています」ソレントは付け加えました。

「いいえ」モララは言いました。「これは生死のかかった問題です。私やあなた方の偏見に溺れてはいけません;彼は良い人物ではありません。」

「良いスタッフが彼をきちんと動かしてくれるでしょう、サー。彼はとても穏やかでよく言うことを聞きます。そして私の親友です;多くの人がおいしいディナー―」

「いえ、大佐、それは良くありません;私にはできません。私の評判、人生のチャンス、実際には人生そのものが危険にさらされているとき、私や他の誰かがそういった理由で重要な命令を出すことができるでしょうか。もし資格において互角であったなら、私はあなたの願いを聞き入れたことでしょう;ブリエンツはより良い人物であり、それを与えられるべきです。さらに」とつけ加えました「彼の妻は不愉快ではない。」ソレントはひどくがっかりしたように見えましたが、もう何も言いませんでした。「では、すべて決まりました。詳細はすべてあなたに任せます。スタッフ、その他すべてをあなたが任命してよいことにします;しかし軍隊は正午までに出発しなければなりません。私が駅で彼らに話をします。」

戦争長官は大統領が彼に任せてくれた下位の任命権に慰められました、そしてお辞儀をして退出しました。

モララは秘書を怪訝そうに見ました。「何か他にやるべきことがあるだろうか?市内の革命家は誰も動いていないようだが、どうだろう?」

「何の兆候も見せていません、サー。彼らに罪を負わせられるようなものは何もありません。」

「これが彼らを驚かせた可能性がある;彼らの計画は準備ができていない。最初の表立った暴力または扇動行為で私は彼らを逮捕する。しかし私は自分の満足のためではなく、国のために証拠を掴まなければなければならない。」

「これは決定的な瞬間です」秘書は言いました。「扇動のリーダーたちの信用を失墜させることができれば、彼らがばかげているか、言行不一致に見えるようにできれば、それは世論に大きな影響を与えるでしょう。」

「私は思っていた」モララは言いました。「彼らの計画について知ることを望むようになるかもしれないと。」

「夫人閣下がセニョール・サヴローラにこれについての情報を求めることに同意された、と仰ったことがありましたね?」

「私は彼らの間のいかなる親密さをも嫌悪する;それは危険かもしれない。」

「それは彼にとって最も危険なものになるかもしれません。」

「どのように?」

「私がすでに申し上げたようにです、将軍。」

「あなたに提案することを禁じたあの方法のことを言っているのかね、サー?」

「もちろん。」

「そしてこれがその瞬間なのか?」

「今しかありません。」

沈黙があり、その後彼らは朝の仕事を再開しました。1時間半の間、両方とも忙しく働きました。それからモララは話しました。「やっぱりそれはやりたくない;汚い仕事だ。」

「必要なことは必要なのです」秘書は説教口調で言いました。大統領が返事をしようとしたとき事務官が解読された電報を持って部屋に入って来ました。ミゲルはそれを受け取って、読み、自らの長にそれを渡すとき悲し気に言いました:「おそらくこれで決心されることでしょう。」

大統領はメッセージを読み、そして読むにつれて表情は硬くそして残酷になりました。それはトゥルガの警察物資配給所からのもので、簡潔ですが恐るべきものでした;兵士たちは最初に将校を撃って侵略者に寝返ったのでした。

「よくわかった。」ついにモララは言いました。「重要な任務のため、あなたに今夜私に同行することを命じる。副官も連れて行く。」

「はい」秘書は言いました。「目撃者が必要です。」

「私は武装していく。」

「それは望ましいことですが、ただ脅すだけ、ただ脅すだけです」と秘書は真剣に言いました。「彼に暴力を使うのはまずいです;人々はたちまち蜂起するでしょう。」

「分かっているとも」大統領は素っ気なく答えました、そしてそれから彼は野蛮な激しさで付け加えました:「しかしそれを使うことに困難はないだろう」。

「何もありません」とミゲルは言って書き物を続けました。

モララは立ち上がってルシールを探しに行きました。抵抗感と嫌悪感をぐっとこらえました。今や決心がつきました;それは権力闘争において彼に力を与えるかもしれません、そしてその上、それには復讐の要素がありました。彼は誇り高きサヴローラがひれ伏して足元で慈悲を請うのを見たいと思っていました。自分に言い聞かせました、単なる政治家たちはすべて肉体的な臆病者だった;死の恐怖がライバルを無力にするだろう。

夫が入ってきたときルシールはまだ自分の居間にいました。彼女は心配そうな顔つきで彼に会いました。「何があったのです、アントニオ?」

「大勢の革命家が侵入してきたのです、最愛の人。トゥルガの守備隊は敵に寝返って自分たちの将校を殺しました。いよいよ終わりが見えてきました。」

「ひどい」と彼女は言いました。

「ルシール」と彼はいつにない優しさで言いました。「チャンスが1つ残っています。この街の扇動のリーダーたちが何をしようとしているのかを知ることができれば、サヴローラに手の内を晒させることができれば、私たちは今の地位を守り、敵に打ち勝つことができるかもしれません。できますか―これをする気がありますか?」

ルシールの心は跳ね上がりました。彼が言った通り、それはチャンスでした。彼女は陰謀を打ち負かし、そして同時にサヴローラのために条件を設け;まだローラニアを支配することができるかもしれません、そして彼女はこの考えを押し殺していましたが、自分が愛する人を救うことになるかもしれません。彼女のとるべき道は明らかでした。情報を手に入れ、サヴローラの命と自由と引き換えに夫に売ること。「やってみます」彼女は言いました。

「あなたが私を見捨てることはないと信じていました、最愛の人」モララは言いました。「しかし時間がありません;今夜彼の部屋に行って彼に会って下さい。彼は必ずあなたに言うでしょう。あなたは男たちを支配する力を持っています、きっと成功します。」

ルシールは思案しました。彼女は自分自身に「私は国を救い、夫に仕えます;」と言いました。すると彼女自身は答えました「あなたは彼に再び会うのです。」そして声に出して言いました。「今夜行きます。」

「私の愛する人、私はいつもあなたを信頼していました」と大統領は言いました。「あなたの献身を決して忘れません。」

そして彼は急いで立ち去り、後悔と―恥ずかしさに身悶えしました。彼は確かに屈辱を忍んで勝とうとしていたのでした(*stooped to conquer)。

 

 


第XIV章
軍の忠誠心

ローラニア共和国の軍事力はその領土を侵略から保護し、その領土内の法と秩序を維持する義務に見合ったものでした、しかし古の賢者たちによって外国征服の遠大な計画や近隣の公国の問題に対する積極的干渉を奨励しない範囲に制限されていました軍隊は。騎兵4個連隊、歩兵20個大隊、および8個野戦砲兵隊で構成されていました。これらに加えて槍騎兵連隊とベテラン歩兵の強力な3個大隊で構成された共和国親衛隊があり、その規律で国の権威を、その壮麗さで国の威厳を支えていました。

富、人口、不穏さにおいて地方の町の総計を超える偉大な首都には守備隊として親衛隊と全軍の半分が配備されていました。残りの軍隊は小さな田舎の駐屯地と辺境に散らばっていました。

兵士の善意をつなぎとめようとした大統領のすべての苦労は無駄だったことが明らかになりました。革命運動は軍の兵士の中で急速に拡大し、彼らは今では完全に不満を抱いていました、そして将校たちは自らの命令は彼らが同意する範囲でしか実行されない、と感じていました。親衛隊では違っていました。すべて、あるいはほとんどが前回の内戦で自らの役割を担い、大統領を将軍として勝利に向かって進んだのでした。彼らは前司令官を称え、信頼し、代わりに彼から尊敬され、信頼されていました;確かに彼が彼らに示した好意はその他を疎外することになった原因の一つだったのかもしれません。

窮地に追い込まれたモララは侵略者に対してこの親衛隊の大部分を送ろうとしていたのでした。都市全体が蜂起した場合に信頼できる唯一の軍隊が自分の元にいない危険性はよく分かっていました;しかし前進してくる敵軍は万難を排して止めなければならず、その仕事が可能で、する意思があるのは親衛隊だけでした。自分を忌み嫌う大衆の中で、自分が非常に厳しく支配していた都市で彼はほとんど一人になり、防御者は反抗的な兵士たちだけでした。それは望ましい見通しではありませんでしたが、それでも成功の可能性はありました。たとえハッタリであったとしても、それは動揺する者を決心させ敵に嫌気を起こさせるための自信を示すことになるでしょう;そしてそれは最も差し迫った緊急事態への対処であり、結局のところエグゼクティブの第一の義務でした。自分が派遣した軍隊が国境を越えてきたガラクタを全滅まではさせないにしても、追い散らす力を持っていることを彼は疑いませんでした。この行動によって少なくともその危険は取り除かれます。2日間で艦隊は戻ってきます、そしてその砲火の下で彼の政府はまだ継続し、恐れられ、そして尊敬されるでしょう。その間は危機、彼がある程度を自らの人格の力によって、そしてある程度を恐るべきライバルを嘲笑と軽蔑の的へと突き落とすことで無事に乗り切ろうとしていた危機でした。

彼は陸軍の将軍として正装するために11時にプライベート・オフィスを離れました。自分も兵士であり、多くの戦争を経験した人物であることをパレードで軍隊に思い出させるためでした。

ドアのところにティロ中尉がいました。とても動揺していました。「サー」と彼は言いました。「戦隊とともに前線に行くことをお許しいただけますか?私がここですることは何もないと思います。」

「それどころか」と大統領は答えました。「ここでは君にかなり沢山のことをしてもらうことになる。君には居てもらわなければならない。」

ティロは青ざめました。「お願いします、サー、行かせてください」彼は真剣に言いました。

「駄目だ―ここに居てもらうことにする。」

「でも、サー―」

「ああ、わかっている」とモララは苛立って言いました;「君は撃たれに行きたいのだろう。ここに居なさい、君がこれまで聞いたことがあるよりも沢山の弾丸の音が聞けることを保証する。」彼は背を向けましたが、若い将校の顔に浮かんだ苦い失望の表情に立ち止まらせました。「それに加えて」と彼は偉大な人物であれば皆身につけている魅力的な態度で付け加えました。「私は困難で極度に危険な任務のために君を必要としている。君は特別に選ばれたのだ。」

中尉はもう何も言いませんでしたが、半分しか慰められませんでした。彼は緑豊かな土地、きらめく槍、ライフルの発射音、そして戦争のすべての面白さと喜びについて悲し気に考えました。彼はすべてを逃してしまうでしょう;友人はそこにいるでしょうが、自分は彼らと危険を共にしないのです。彼らは数日後にその冒険について話し、自分はその議論に加わることができないのです。彼は宮殿を飾るためだけの副官、「飼いならされた猫」として笑われることさえありました。そして嘆き悲しんでいると、遠くのトランペットの音が鞭で打つように彼の心を刺しました。それは“ブーツと鞍”―親衛隊の槍騎兵隊の出動でした。大統領は盛装を急ぎ、ティロは馬を用意するため階段を降りました。

モララはすぐに準備を整え、宮殿の階段で副官と合流しました。小さな護衛隊に付き添われて彼らは鉄道の駅へと騎行しました、途中で横柄に見つめる不機嫌そうな、憎しみと怒りで地面に唾を吐きさえした市民グループの間を通り抜けて。

砲兵隊はすでに派遣されていましたが、大統領が到着した時点で残りの部隊はまだ列車に乗っておらず、ターミナル前の広場に彼ら(騎兵の一団、クオーター・コラム(*間隔を詰めるフォーメーション)で並んだ歩兵隊)が整列していました。部隊を指揮するブリエンツ大佐が騎馬で先頭に立っていました。彼は前進して敬礼しました;楽隊は共和国賛歌の演奏を始め、歩兵はガシャガシャという音を揃えた捧げ銃をしました。大統領はこれらの挨拶に折り目正しく感謝しました;そしてライフルが肩にかけられたそのとき、彼は騎馬で兵士の方へと向かいました。

「貴下は素晴らしい力を持っています、ブリエンツ大佐」と彼は大佐に話しかけましたが、軍隊に聞こえるほど大声で話しました。「貴下の手腕と彼らの勇気に共和国はその安全を委ねます、確信を持ってそれを委ねるのです。」それから彼は軍隊に向き直りました。「兵士諸君、私が諸君の国と名誉のために偉大な奮闘をするよう求めた日を覚えている人もいるでしょう;私の訴えに応えてくれた諸君の勝利はソラトの名を歴史に刻みました。それ以来、我々は諸君の銃剣が戴く月桂冠によって保護され、平和と安全に憩ってきました。今や年が経つにつれ、この戦利品が挑戦を受けています、諸君がいつも散々追い散らしてきた下層階級に挑戦されているのです。古い月桂冠を脱いでください、親衛隊の兵士諸君、そして剣を抜いて新しいそれを勝ち取って下さい。もう一度、素晴らしいことをして下さい、そしてこの横列を見るとき私は諸君がそれをやり遂げてくれることを疑いません。お別れです、我が心は諸君と一緒に行きます;私が諸君のリーダーだったらよかった!」

彼は軍隊の上げる大きな歓声の中でブリエンツと上級将校と握手を交わし、その中には横列を飛び出して彼の周りに押し寄せた者もいれば、好戦的熱狂でヘルメットを銃剣で突き上げた者もいました。しかし叫び声が止まるとそれまで騒音に埋もれていた、見守る群衆の長く耳障りな嘲りのうなり声が聞こえました―悪しき世評でした!

一方町の反対側では予備旅団の動員に際して、親衛隊の忠誠心と規律と、正規連隊の離反との間の極端な対照が明らかになっていました。

不気味な沈黙が兵舎全体を支配していました。兵士たちは不機嫌にそしてむっつりと歩き回り;行軍が差し迫っているのに全然装備を詰めようとしていませんでした。閲兵場や、宿舎の周りの列柱の下をグループでうろついている者もいました;他の者は自らの簡易ベッドにふくれっ面で座っていました。いつも守ってきた規律を破るのは難しいことですが、ここにそれを破ると決心した人々がいたのでした。

閲兵の時間を不安な宙ぶらりん状態で待っていた将校がこうした兆候に気づかないはずがありませんでした。

「彼らを刺激しないように」とソレントは大佐たちに言いました。「とても穏やかに扱うように;」そして大佐たちは自らの命に懸けて部下は忠実である、とそれぞれ返答しました。しかしいずれかの大隊に命令の効果を試してみることが賢明であると考えられ、そして最初に第11連隊に出動命令が出されました。

軍隊ラッパが小気味よく元気に吹き鳴らされ、将校たちは剣を吊り下げて手袋をはめ、それぞれの中隊へと急ぎました。兵士たちは招集に従うでしょうか?一触即発でした。彼らは案じながら待っていました。それから兵士たちが2人3人と足を引き摺りながら出てきて横列をつくり始めました。ついに中隊が完成しました、言うなれば十分に完成しました、つまり多くの欠席者がいたのです。将校は彼らの部隊を検査しました。嘆かわしい閲兵でした;身に着ける装備品は汚れていて、制服は無造作に着られており、兵士の全体的な外観は非常にだらしないものでした。しかしこれらのことについて何の注意も払われることはなく、下士官たちは横列沿いに歩いて多くの部下の兵士たちに友好的なからかい口調で何かを言いました。しかし彼らを迎えたのは近寄りがたい沈黙、規律や敬意によるものではない沈黙でした。今やラッパが鳴らされ、各中隊は全体の閲兵場に移動し、すぐに大隊の全てが兵舎広場の真ん中に整列しました。

大佐は馬に乗って申し分なく盛装しており、副官が付き添っていました。彼は目の前の横列全体を穏やかに見渡しました、そしてその態度にはその心を満たし、その神経を捉えていた恐るべき懸念を窺わせるものは何もありませんでした。副官は短縮駆歩で縦隊からの報告を集めました。「全員おります、サー」と中隊長たちは言いましたが、何人かの声は震えていました。そして彼は大佐の元に戻り、自分の位置につきました。大佐は自分の連隊を、連隊は大佐を見ました。

「大隊―気をつけ!」彼は叫びました、そして兵士たちはガチャガチャ、カチッという音とともに跳ね上がりました。「隊形、4」

命令の言葉は大声ではっきりと聞こえました。1ダース程の兵士が本能的に―少し動いて―仲間を見て、再び仲間の元に戻りました。残りは1インチも動きませんでした。長く恐ろしい沈黙が続きました。大佐の顔は灰色に変わりました。

「兵士諸君」と彼は言いました。「私は諸君に命令した;連隊の名誉を忘れてはならない。隊形、4。」今回は一人として動く兵士がいませんでした。「ではそのまま」彼は必死に叫びましたが、それは不要な命令でした。「クオーター・コラムで前進。速足!」

大隊は動きませんでした。

「ルコント大佐」と大佐は言いました。「君の中隊の腹心の部下は誰かね?」

「バルフ軍曹です、サー」と将校は答えました。

「バルフ軍曹、前進を命じる。速―足!」

軍曹は興奮に震えました;しかし彼は自らの立場を維持しました。

大佐はポーチを開けて慎重にリボルバーを取り出しました。そしてよく掃除されているかどうかを見るかのように注意深く見ました。そして撃鉄を上げ、反逆者の傍へと騎行しました。10ヤードの距離で彼は立ち止まって狙いを定めました。「速―足!」低い威嚇的な声で言いました。

クライマックスが来たことは明らかでしたが、この瞬間、兵舎の門のアーチに隠れていたソレントが事態を見て広場に馬を乗り入れ、速歩で兵士たちの元へ向かいました。大佐はピストルを下ろしました。

「おはようございます」と戦争長官は言いました。

将校は武器を戻して敬礼しました。

「連隊はもう帰る準備ができていますか?」そして返事を聞く前に;「とても機敏なパレードですが結局のところ、今日の行軍は必要ありません。大統領は出発する前に兵士たちが良い夜を過ごすことを、そして」と声を張り上げました。 「彼らが共和国に祝杯を挙げ、敵に混乱をもたらすことを願っています。大佐、彼らを解散させていいです。」

「解散」と大佐は言いました。正しい手続きをとって解散する危険さえも冒そうとしませんでした。

隊列は解散しました。整列は崩れ、兵士たちは兵舎へと流れて行きました。将校たちだけが残りました。

「撃つべきでした、サー、あの瞬間に」と大佐は言いました。

「なりません」とソレントは言いました「一人の兵士を撃つのは;彼らを激怒させるだけです。明日の朝ここに機関銃を2丁持って来ます、そしてそのとき何が起こるかを見ましょう。」

無秩序で錯乱した歓声の嵐に遮られて、彼は突如向きを変えました。兵士たちのほとんどは兵舎に到着していました;一人の兵士が他の兵士に肩車されており、その周りで連隊の仲間がヘルメットを振ったり、ライフルを振り回したり、激しく歓声を上げたりしていました。

「あれが軍曹です」と大佐は言いました。

「わかっています」とソレントは苦々しく答えました。「人気のある男なのでしょう。あなたの隊にはああいう下士官がたくさんいるのですか?」大佐は返事をしませんでした。「紳士諸君」戦争長官は広場をぶらぶらしていた将校たちに言いました。「諸君は自分の宿舎に帰った方が良い。ここでは諸君はかなり魅力的な標的であり、諸君の連隊は特に腕の良い射撃連隊です。そうでしょう、大佐?」

彼はその嘲りに向きを変え、騎馬のまま去りました、怒りと不安に胸が痛んでいました、一方第11歩兵連隊の将校たちは恥を隠し、危険と向き合うため自らの宿舎へと撤退しました。

 

 


第XV章
サプライズ

サヴローラにとっては忙しくてエキサイティングな一日でした。彼は自分の追随者に会い、命令を出し、衝動を抑え、弱者を刺激し、臆病者を励ましました。兵士の行動についてのメッセージと報告が一日中彼に届いていました。親衛隊の出発と支援旅団の行軍拒否は等しく喜ばしい出来事でした。陰謀は今や非常に多くの人々に知らされていたため、彼はそれを政府機関から長く秘密にしておくことは難しいと考えていました。あらゆることを検討した上で、彼は時が来たと感じていました。彼が考え出した入念な計画はすべて実行に移されました。緊張はひどいものでしたが、やがてすべての準備が整い、革命党派の全戦力が最後の闘いに集中しました。ゴドイ、レノス、そして他の人々は市庁舎に集められました、そこで夜明けに臨時政府を宣言するのです。人々に武装を呼びかける実際の任務を割り当てられていたモレは自分の家で配下の人々に指示を出し、宣言の掲示の手配をしました。すべての準備が整いました;全員に頼りにされ、大きな陰謀をその脳が発想し、心が鼓舞してきたリーダーは椅子に横になりました。彼は自分の計画を見直し、遺漏を探し、気を引き締めるために、少しの休息と静かな反省を必要とし、望んでいました。

火格子の中に小さな明るい火が燃え、周りには燃えた紙の灰がありました。彼は1時間も炎に紙をくべていました。彼の人生の1つの時期は終わりました;別の時期もあるかもしれませんが、まずはこの時期を終えることが望ましかったのです。今や死んだか、疎遠になってしまった友人からの手紙、; 彼の若い野心を刺激した祝福、賞賛の手紙。輝かしい人々からの手紙と美しい女性からの何通かの手紙―すべては同じ運命を辿りました。なぜこうした記録が保存されて思いやりのない後世の好奇の目に晒されなければならないのでしょう?もし彼が死んだら、世界は喜んで彼を忘れ去ることでしょう;もし彼が生きていたら、その人生は今後歴史家の管轄に置かれるでしょう。全体的な焼却から逃れた一枚のメモが傍らのテーブルに置かれていました。それはルシールがステートボールへの彼女の招待状に添付したものであり、今まで彼が彼女から受け取った唯一のものでした。

彼が指の上でそれをバランスさせたとき、彼の想いは人生の忙しい困難な現実からその優しい魂と愛らしい顔へと漂いました。そのエピソードも終わりました。彼らの間には障壁が立ちはだかっていました。反乱の結果がどうであれ、彼は彼女を失ったのです。しない限り―ただしその恐るべきしない限りは、思わず不潔なものに触れてしまった人の手のように彼の心を跳び退かせる大変恐ろしい邪悪な示唆を孕んでいました。それは罪、人間社会に対する罪、生命現象そのものに対する罪であり、その汚名は死んでも雪がれず、人類絶滅の日まで許されないものでした。それでも彼はモララを激しく憎みました;そしてもはやその理由を自分自身に隠そうとしませんでした。そしてその理由を想い出して彼の心はより柔らかな気分に戻りました。彼は再び彼女に会うことがあるのでしょうか?彼女の名前の響きでさえ彼を喜ばせるのでした。「ルシール」と彼は悲しげにささやきました。

素早い足音が外で聞こえ;ドアが開くと目の前に彼女が立っていました。彼は驚いて声も上げずに跳び上がりました。

ルシールはとてもきまり悪そうに見えました。彼女の使命はデリケートなものでした。確かに彼女は自分の心に気づいていなかったか、気づきたくありませんでした。それは夫のため、と彼女は自分自身に言い聞かせました;しかし彼女の言葉は矛盾していました。「私はあなたの秘密をばらさなかったことを言いに来たのです。」

「分かっています―私は全然心配していませんでした」とサヴローラは答えました。

「どうして分かったのです?」

「まだ私は逮捕されていません。」

「ええ、でも彼は疑っています。」

「何をです?」

「あなたが共和国に対して陰謀を企てていること。」

「ああ!」 サヴローラは大いに安心して言いました。「証拠を掴んでいないでしょう。」

「明日には掴むかもしれません。」

「明日では手遅れです。」

「手遅れ?」

「はい」サヴローラは言いました。「ゲームは今夜始まります。」彼は時計を取り出しました;あと15分で11時でした。

「12時に警報ベルが聞こえることでしょう。座って話しましょう。」

ルシールは機械的に座りました。

「あなたは私を愛しています」と彼は平静な声で彼女を虚心に見つめ、まるで二人の間にあるのが単なる心理的な問題に過ぎないかのように言いました。「そして私はあなたを愛しています。」答えはありませんでした; 彼は続けました。「しかし、私たちは別れなければなりません。この世界では私たちは隔てられており、壁を取り除く方法もわかりません。私は生涯あなたのことを想うでしょう;他の女性はその空白を埋めることができません。私はまだ野心を持っています:私はいつもそれを持っていました;しかし私が知らず、またはそれを知ることが悩みと絶望でしかないもの、それが愛です。私はそれを遠ざけます、そしてこの後私の愛情はこの焦げた紙のように命のないものなるでしょう。そしてあなたは―忘れてくれますか?あと数時間で私は殺されるかもしれません;もしそうなっても、決して悼まないで下さい。私が何者であったかは覚えていて下さって構いません。私が世界をより幸せに、もっと楽しく、より快適にするかもしれない何かをしたのなら、その行動を思い出して下さい。もし私が私たちの存在の浮き沈みを越えて、私たちの生をより明るくし、死をより悲しいものでなくするような思想を私が話したのなら、『彼はこれを言った、彼はそれをした』と言って下さい。人を忘れてください;その仕事を、できれば思い出してください。宇宙のパズルの中のどこかであなたの魂を補完する一つの魂を知っていたことも思い出して;そして忘れて下さい。宗教に救いを求めて下さい;忘れる心構えをして下さい;生きて、過去は捨ててください。できますか?」

「できません!」彼女はいきり立って答えました。「わたしはあなたを絶対に忘れません!」

「私たちは哀れな哲学者に過ぎません」と彼は言いました。「痛みと愛は私たちとそのすべての理論をばかにするのです。私たちは自分自身を征服したり、私たちの境遇を超えたりすることはできないのです。」

「やってみませんか?」彼女はささやいて、野生の目で彼を見ました。

彼は見て慄きました。そして込み上げる衝動に「あああああ、愛しているんだ!」と叫びました。そして彼女が決意を固めるどころか気持ちさえ決める前に二人はキスをしていました。

ドアの取っ手が素早く回りました。二人は後ずさりしました。ドアが開きました、そして大統領が現れました。彼は私服を着ており、右手を背後に隠していました。暗い廊下からミゲルが続いて現れました。

しばしの沈黙がありました。そしてモララが猛烈な怒声を上げました;「そうか、サー、お前もこのように私を攻撃するのだな―この臆病者、ならず者!」彼は手を上げ、握ったリボルバーを真っすぐ敵に向けました。

ルシールは世界が崩壊したように感じ、ソファにもたれかかって恐怖に啞然としていました。サヴローラは立ち上がって大統領と向き合いました。そして彼女は彼がどんなに勇敢な男であるかを知りました、彼は意識的に彼女と武器との間に立ったのです。「ピストルを下ろして下さい」彼はしっかりとした声で言いました;「それからご説明しましょう。」

「ああ下ろそう。」とモララは言いました。「お前を殺してからな。」

サヴローラは二人の間の距離を目測しました。銃弾の中に飛び込めるだろうか?再び彼は自分のリボルバーが置いてあるテーブルを見ました。彼は彼女の盾になっていました、そこで動かないことに決めました。

「ひざまずいて憐れみを請え、このクズ野郎、さもないと顔を吹き飛ばすぞ!」

「私はいつも死を軽んじようとしてきたし、いつもあなたを軽んじ遂せてきました。どちらにも頭を下げたりはしません。」

「さあ、どうだろう」モララは歯ぎしりをしながら言いました。「5つ数えるぞ―1!」

時が止まったようでした。サヴローラは輝く鋼のリングで囲まれた黒い点であるピストルの銃身を見ました。視界の残りの部分はすべて空白でした。

「2!」大統領は数えました。

そのように彼は死ぬ―その黒い点がぱっと燃え上がったときにこの地球を閃き去るのです。顔全体が吹き飛ばされることが予測され―そしてその先には何もみえず―消滅―暗い暗い夜があるだけでした。

「3!」

銃身のライフリング(*内側のらせん状の溝)が見えました;ランド(*溝が彫られていない部分)がかすかに見えました。それは素晴らしい発明でした―弾丸が移動するとき回転するのです。それが恐るべきエネルギーで自分の脳をかき回すことを彼は想像しました。彼は突進の前に考えようと、自分の哲学や信念にすがろうとしました;しかし彼の身体的感覚はあまりにも暴力的でした。血が静脈で沸き立って、指先がうずきました;手のひらを熱く感じました。

「4!」

ルシールが跳ね起き、大統領の前に身体を投げ出して叫びました「待って、待って下さい!」叫びました。「どうかお慈悲を!」

モララは彼女の表情を見て、その目に恐怖以上のものを読みとりました。そして彼はついに理解して;まるで真っ赤な鉄をつかんだかのように跳び上がりました。「なんてことだ!本当だった!」彼は喘ぎました。「この売女!」彼女を押しのけ、その口元を左手の背で殴って叫びました。彼女は小さくなって部屋の隅に引き下がりました。彼は今やすべてを知りました。自分が仕掛けた爆弾に爆破されて(*Hoist with his own petard)彼はすべてを失ったのでした。激しい怒りが彼を捉え、喉がざらついて痛むほどに震えさせました。彼女は彼を見捨てていました;権力はその手から滑り落ちつつありました;彼のライバル、彼の敵、彼が魂を尽くして憎んだ男は至る所で勝利を収めていました。彼は餌につられて罠に入り込んだのでした;しかし逃げたりはしません。思慮分別と人生への愛には限界がありました。彼の計画、彼の希望、復讐する群衆の咆哮、すべてがその心から消えました。死が彼らの間の長い恨みを洗い流すのです、すべてを解決する死は―今や直ぐそこにありました。しかし彼は兵士であって人生の細部においてこれまで実用的な男でした。彼はピストルを下げ、ゆっくりと撃鉄を起こしました。アクションを一つにすることで確実性が高まるのです;そして良く狙いを定めようとしました。

彼がその動作をする瞬間、サヴローラは頭を低くして前に飛び出しました。

大統領は発砲しました。

しかしミゲルの素早い知性は変化した状況を理解しており、それが生む帰結を知っていました。彼はそのカードが致命的に重大であることを知っており、暴徒を忘れていませんでした。彼はピストルを撥ね上げました、そこで弾丸はほんの少しだけ高く飛びました。

煙と閃光の中でサヴローラは敵に組み付いて地面に倒しました。モララは転んで脳震盪を起こし、リボルバーを取り落としました。サヴローラはそれを掴んでもぎ取り、腹ばいになったモララから遠くへ跳ね飛ばしました。ひとたび彼はそこに立って見渡しました、飢えた殺害の欲望が心に湧き上がり、人差し指(*trigger-finger)がむずむずしました。そして非常にゆっくりと大統領が立ち上がりました。転倒で朦朧となり;彼は本棚にもたれかかって呻きました。

下の表玄関を叩く音がしました。モララはまだ部屋の隅にうずくまっていたルシールの方を向き、彼女を罵り始めました。虚飾と洗練を透かしてその性格の中の品のない醜い部分がさまざまな性交渉や数多くの情事と二重写しになって現れました。その言葉は聞くに堪えず、記憶する価値もないものでした;しかしそれにカチンときた彼女は反抗的態度で答えました:「私がここに来ることをあなたは知っていました;私に来るように言ったのはあなたです!罠を仕掛けたのはあなたです;あなたの責任です!」モララは汚い罵倒で答えました。「私は無実です」と彼女は叫びました;「私は彼を愛していますが、私は無実です!なぜ私にここに来るように言ったのですか?」

サヴローラはぼんやりと理解し始めました。「私にはわからない。」彼は言いました。「あなたがどんな悪事を企てたのかわからない。私はあまりにあなたを理解していないので命を奪うことはできない;しかし出て行って、すぐに出て行ってくれ;あなたの汚さには耐えられない。出て行け!」

大統領は今や落ち着きを取り戻していました。「お前を自分で撃つべきだった。」と彼は言いました。「しかし小隊―5人の兵士と伍長にそれをやらせることにする。」

「いずれにせよ人殺しは復讐を受けるだろう。」

「どうして私を止めたのだ、ミゲル?」

「彼が言う通り、閣下」秘書は答えた。「それは戦術を誤ることになったでしょう。」

大統領は正気になり、公式の態度、話し方のスタイル、男らしい落ち着きを取り戻しました。彼はドアに向かって歩く途中、虚勢を張ってブランデーを一杯飲むためサイドボードに立ち寄りました。「没収」彼はそれを光に掲げて言いました「政府命令。」そして飲み干しました。「明日はお前が撃たれるのを見よう」と彼は付け加えました、その人物がピストルを持っていることには無頓着でした。

「私は市庁舎にいる」サヴローラは言いました;「勇気があるなら、来て連行すればいい」

「暴動!」 大統領は言いました。「プー!踏みつぶしてやる、お前もだ、日が沈む前に。」

「多分違った結末になるだろう。」

「どちらか一方だ」と大統領は言いました。「お前は私の名誉を奪った。お前は私の権力を奪おうと企んでいる。この世界には我々がともに生きていく余地はない。お前は恋人を地獄に連れて行くことになるだろう。」

階段に急いでいる足音がしました;ティロ中尉がドアを開けましたが、部屋の中の人々に驚いて突然立ち止まりました。「銃声がしました」と彼は言いました。

「ああ」大統領は答えました;「事故はあったが、幸いにも実害はなかった。宮殿まで一緒に行ってくれるかな?ミゲル、来い!」

「早くされたほうがいいです、サー」中尉は言いました。「今夜は変な連中が大勢いて、通りの端にバリケードをつくっています。」

「本当か?」 大統領は言いました。「今こそ彼らを止めるための対策をする時だ。おやすみ、サー」と彼は付け加え、サヴローラに目を向けました。「明日会おう、そしてけりを付ける。」

しかしリボルバーを手にしたサヴローラは彼をじっと見ているだけで、沈黙したまま彼を行かせました。沈黙を妨げるのはしばらくの間ルシールのすすり泣きだけでした。ついに引き上げて行く足音が消え、通りに面するドアが閉まったとき彼女は言いました。「ここには居られません。」

「宮殿に戻ることはできません。」

「では、どうすればいいのでしょう?」

サヴローラは思案しました。「とりあえずここに居るのがいいでしょう。家は自由に使っていただいて構いません、あなた一人になるでしょう。私はすぐに市庁舎に行かなければなりません;すでに私は遅れているのです―もう12時近いです―その瞬間が近づいています。その上、モララは警官を派遣するでしょう、そして私には避けられない果たすべき義務があります。今夜は通りが危険すぎます。私は多分朝には戻るでしょう。」

悲劇は二人を唖然とさせていました。痛烈な自責の念がサヴローラの心を満たしていました。彼女の人生は台無しになってしまいました―彼が原因だったのでしょうか?彼は自分がどこまで有罪なのかあるいは無罪なのかが分かりませんでした;しかし誰に責任があったとしても、そのすべての悲しみに変わりはありません。「さようなら」と彼は立ち上がりました。「私は心を置いて行きます、しかし行かなければなりません。多くのものが私に係っているのです―友人の命、国の自由。」

そして彼はそのように世界の人々が見ている前で素晴らしいゲームをプレイするため、男性の人生に対する関心の大部分をなしている野心のための闘いへと出発しました;その間、惨めで今や一人ぼっちの女性になってしまった彼女は待つしかありませんでした。

そしてそのとき突然、速く性急な鐘が街中に鳴り始めました。遠く離れたラッパの響きと鈍い砲声、つまり警報号砲の轟きがありました。騒ぎは大きくなりました;通りの末端で「集合」を叩くドラムのロールが聞こえました;混乱した叫び声と怒鳴り声が多くの場所から上がりました。ついに1つの音が聞こえて全ての疑問に終止符が打たれました―タップ、 タップ、タップ、たくさんの木箱をパタンパタンと静かに閉めるような―遠くの小銃の音。

革命が始まりました。

 

 


第XVI章
革命の進展

その間、大統領と2人の追随者は街を通り抜ける道を辿っていました。通りには多くの人々が動き回っており、あちこちに暗い人影が集まっていました。巨大な事件が差し迫っているという印象が高まっていました;まさに空気は熱気を帯び、ささやき声に満ちていました。サヴローラの家の外に建てられていたバリケードはモララに蜂起が差し迫っていることを確信させていました;宮殿から半マイルのところで他の人々が道を遮っていました。3台のカートが停まって通りを引いて行かれ、50人ほどの男たちが静かに障害物を強化するために働いていました;ある人々は平らな敷石を引っぱり上げ;他の人々は隣接する家から土をいっぱいに入れたマットレスと箱を運んでいました。しかし彼らは大統領一行にほとんど注意を払いませんでした。彼は襟を立て、フェルトの帽子を顔にしっかりと押し付けて障壁をよじ登りました―自分が見ているものの重要性で頭をいっぱいにしながら;確かに略服を着た中尉はいくらか興味を持って見られましたが、その前進を止める試みはなされませんでした。この男たちは合図を待っていたのでした。

この間ずっと、モララは一言もしゃべりませんでした。危険が迫る中、彼はそれに対処するために頭脳を明晰にしようとし、落ち着きを取り戻すために多大な努力を払っていました;しかしその意志の総力を挙げてもサヴローラに対する彼の憎しみはその心を満たし、他のすべてのものを追い出してしまっていました。彼が宮殿に着くとともに街中で反乱が起こりました。伝令に次ぐ伝令が悪いニュースを持って飛び込んで来ました。数個の連隊は人々に発砲することを拒否し;他の隊は彼らと友情を交わしており;バリケードが至る所で伸長し;宮殿へのアプローチは四方八方が閉鎖されていました。革命派のリーダーたちは市庁舎に集まっていました。通りには臨時政府の宣言が貼り出されていました。町のさまざまな場所から将校が急いで宮殿に急行しましたが;その一部は負傷し、多くは動揺していました。その中にソレントがいて、ある無傷の砲兵隊が反乱軍に砲を差し出したという恐ろしいニュースを伝えました。3時半までに電報と伝令から受け取った報告によって、ほとんど実際の戦闘がないまま都市の大部分が革命家たちの手に渡ったことが明らかになりました。

大統領は冷静さをもってすべてに耐え、その厳しく断固たる性格の全ての強さを示しました。実際、彼には恐るべき刺激物がありました。バリケードとその後ろに居並ぶ反乱者たちの向こうには市庁舎がありサヴローラがいました。敵の顔と姿は目の前にありました;他のすべてはほとんど重要ではないように思われました。それでも彼は目がくらむような緊急事態の中で、その怒りの出口、その悲しみの反対刺激物を見つけました;反乱を鎮圧すること、しかし何より彼の念願はサヴローラを殺すことでした。

「日の出を待つことにしよう」と彼は言いました。

「そしてそのとき、サー?」戦争長官は尋ねました。

「そのとき市庁舎へと前進し、この騒動のリーダーを逮捕する。」

夜の残りを費やして夜明けに動くための部隊が組織されました。数百人の忠実な兵士(前の戦争でモララに従った人々)、疑う余地のない忠誠心を持った常備軍の70人の将校、そして武装警察の分遣隊を持つ親衛隊の居残りの大隊だけが利用可能でした。この1400人にも満たない献身的な兵士の一団は宮殿の門の前の広場に集まって日の出を待つ間アプローチを守っていました。

攻撃はありませんでした。「都市を確保する」というのがサヴローラの命令であり、反乱者たちは四方八方にきちんと系統立てて築いたバリケードで忙しく働いていました。さまざまな重要性を持ったメッセージが大統領に届き続けました。ルーヴェは急ぎの文書で反乱への恐怖を表明し、宮殿で大統領に合流できないことをどれほど遺憾に思っているかを述べました。彼によると、急いで街を出なければならなかった;親戚が病気で危険な状態だった、ということでした。自分は革命家たちが鎮圧されることを確信しているので;モララに神を信頼するよう勧めていました。

大統領は自室でこれを読んで乾いた激しい笑い声を上げました。危機においては役に立たない臆病者であることをずっと知っていたため、彼はルーヴェの勇気には全く信頼を置いていませんでした。恨みはしませんでした;彼には彼なりの良い点があり、そして内務省の役人としては立派でした。しかし戦争は彼の領分ではありませんでした。

彼はその手紙をミゲルに渡しました。秘書はそれを読んで思案しました。彼も兵士ではありませんでした。ゲームが終わったことは明らかであり、彼が自分自身に言った通り単なる感傷のために自分の人生を捨てる必要はありませんでした。彼はその夜のドラマで自分が演じた役割について考えました。それは確かに彼に何らかの請求権を与え;少なくとも両賭けが可能になることでしょう。彼は新しい紙を取って書き始めました。モララは部屋を歩き回っていました。「何を書いているのかね?」と 彼は尋ねました。

「港の砦の司令官への命令書です」とミゲルは即座に答えました「彼に状況を知らせ、あらゆる危険に対して持ち場を守るようあなたの名前で彼に命令します。」

「それは不要だ」とモララは言いました。「彼の部下が裏切り者であっても、そうでなかったとしても。」

「私は彼に命じます。」ミゲルは素早く言いました。「もし彼が部下を信頼できるなら、夜明けに宮殿に向かって示威行進をすること。それは牽制になるでしょう。」

「よくわかった」とモララはうんざりして言いました。「しかしそれが彼に届くかは疑わしい、そして砦を十分守備した上で他に割ける人数などほとんどない。」

一人の伝令が電報を持って入ってきました。官庁の事務官、体制支持者、名もなき、名誉ある人物が並外れた幸運と勇気を持ってバリケードの列を通り抜け、それを自分で持ってきたのでした。大統領が封筒を裂いて開ける間、ミゲルは立ち上がって部屋を出ました。彼は外の明るく照らされた通路で怯えてはいましたが無能ではない使用人を見つけました。彼はその男に素早くそして低い声で話しました;市庁舎、20ポンド、いかなる犠牲を払ってでも、というのがその指示の主要点でした。そして彼はオフィスに再び入りました。

「これを見ろ」モララは言いました。「まだ終わっていない。」電報はロレンツォ近郊のブリエンツからのものでした:回線をクリア。ストレリッツと2000人規模の反逆者たちが今日の午後ブラック・ゴルジュへ前進してきました。私は彼らに大きな損失を与えて撃退しました。ストレリッツは捕虜にしました。敗残者を追撃中です。トゥルガで指示を待っています。「これをすぐに公開しなければならない」と彼は言いました。「千部を印刷して、それを支持者の間で、そして可能な限り市内で回覧させるのだ。」

勝利の知らせは宮殿広場に集まった軍隊に歓声を上げて受け取られ、彼らは朝を待ち焦がれていました。やがて日の光が空に広がり始め、他の光、遠くの大火の輝きは薄れました。大統領、続いてソレント、数人の高官、そして副官ティロが階段を下り、中庭を横断して、宮殿の大きな門を通り抜け、彼の最後の予備兵力が集合している広場に入りました。彼は左右を歩き回ってこれらの忠実な友人や支持者と握手をしました。今や彼は大胆な手が闇に紛れて壁の上に置いた反逆者の宣言を目にしました。彼は歩み寄ってランタンの灯りでそれを読みました。紛れもなくサヴローラの文体でした。人々に武器を取るように訴える短い明快な文章は集合ラッパのように鳴り響きました。プラカードの中には劇場の広告で公演の時間を知らせるために使われるような小さな赤い紙片が後から貼られていました。それは電報の複写と称するもので、内容はこうでした:今朝ブラック・ゴルジュを突破。独裁者の軍隊は完全に撤退。ロレンツォを進軍中。ストレリッツ。

モララは怒りに震えました。サヴローラは細部を疎かにせず、チャンスを逃したりはしませんでした。「悪名高い嘘つき!」と大統領はコメントしました;しかし彼は自分が粉砕しようとした人物の力に気づき、一瞬心臓に絶望が込み上げて血管を冷たくしたように感じました。その感覚を振り払うためには多大な努力を要しました。

将校たちはすでに計画の詳細を知っており、その主要な長所は大胆さでした。反政府勢力は計画の立ち上げに成功し;政府はクーデターで応じるのです。いずれにせよ一撃は反乱の中心を狙ったものであり、それが核心を突いた場合、結果は決定的なものになるでしょう。「紳士諸君、反乱のタコは」と大統領は革命宣言を指して周囲の人々に言いました。「長い腕を持っている。従って頭を切り落とさなければならない。」そして誰もが冒険は決死のものであると感じていましたが、彼らは勇敢な兵士であって覚悟を決めていました。

宮殿から市庁舎までの大通りは広くて曲がりくねっており、約1マイル半の距離がありました;部隊はこの通りと両側のより狭い通りを3つに分かれて静かに前進しました。大統領は中央の縦隊と一緒に徒歩で前進しました。脅かされていた左翼の指揮はソレントが執りました。ゆっくりと、そしてお互いのコミュニケーションを維持するため頻繁に停止しながら軍隊は静かな通りに沿って前進しました。人っ子一人いませんでした;家々のすべての鎧戸は閉じられ、すべてのドアはしっかり施錠されていました。そして東の空は徐々に明るくなりましたが、街はまだ暗闇に沈んでいました。前進した縦列は通りを押し進み、木から木へと走っては暗闇の中をのぞき込むため毎回慎重に一時停止しました。彼らが曲がり角を曲がったとき、突然射撃音が前方に鳴り響きました。「前へ!」大統領が叫びました。突撃のラッパが鳴り響き、太鼓が打ち鳴らされました。薄明かりの中、200ヤード先にバリケードの輪郭が見え、車道を横切る暗い障害物となっていました。兵士たちは叫んで走り出しました。バリケードの守備側は驚いて効果のない銃撃を行い、攻撃が本気であることを知って守備力に不安を感じ、時間があるうちに退却しました。バリケードは一瞬にして捕獲され、襲撃者たちは成功に酔いしれながら前進を続けました。バリケードの向こうは左右の十字路になっていました。いたるところから発砲が始まり、ライフル銃の大きな音が家々の壁にこだましました。側面の縦隊は敵のバリケードで鋭く阻止されていましたが、中央の陣地が捕獲されたため2つの陣地は回り込まれることになり、守備側は孤立させられることを恐れて無秩序に逃げ出しました。

もう日中になっていましたが、街中の光景は不思議なものでした。小競り合いが木々の間を移動し、小さな青白い煙のパフが画面全体に斑点をつけていました。退却した反乱側は負傷者を地面に残し、残酷にも兵士たちはそれを銃剣で刺しました。家の窓から―そして街灯柱、郵便ポスト、負傷した人物、転倒した辻馬車など、ありとあらゆる遮蔽物から銃弾が発射されました。ライフルの銃火は徹底的で、通りはあまりにむき出しでした。遮蔽物が欲しい、何かの後ろに隠れたい、という要求から兵士たちは両側の家に押し入り、椅子、テーブル、そして寝具の山を引きずり出し;そしてこれらは弾丸からの保護にはなりませんでしたが、兵士たちは背後がむき出しではなくなったと感じました。

この間ずっと、絶え間ない損失を被りながらも軍隊は着実に前進していました;しかし次第に反乱側の銃火は激烈になりました。多くの人々がどんどん現場へ急行させられ;側面への圧力が厳しくなり;大統領が自由に使えるわずかな戦力をさらに弱体化させ続けるため、包囲する敵は脇道から押し込んできました。やがて反乱側は退却を止めました;彼らは砲にたどり着いたのでした、そのうちの4門は大通りに一列に並べられていました。

市庁舎は今やわずか4分の1マイルの距離にあり、モララは兵士たちに最高の奮闘を呼びかけました。銃剣で砲を奪取するという大胆な試みは30人の死傷者を出して失敗し、政府軍は大通りに直角な脇道に避難しました。これに今度は敵が縦射して縦隊を一掃し、退却路を遮り始めました。

今や広い半円に沿った全方向から発砲がありました。即席の砲兵をその場所から追い出すことを期待して軍隊は通りの両側の家に押し入り、屋根の上から敵を撃ち始めました。しかし戦術を繰り返す反乱側は応戦し、その試みは煙突と天窓の間での必死でありながら無意味な戦いへと萎んでしまいました。

大統領は男らしく身体をさらしていました。ティロは彼の近くにいましたが、もし停止させられたなら自分たちにはもうほとんどチャンスがないことに気づくには十分戦争を知っていました。一瞬一瞬が貴重でした;いつしか時間が過ぎ去っていて、小さな部隊はすでにほぼ完全に取り囲まれていました。ライフルを使って家のドアを破壊するのを手伝っていたとき、驚いたことに、彼はミゲルに会いました。秘書は武装していました。彼はこれまで注意深く後方に留まり、通りの木々の後ろに隠れることで空中の危険(*銃弾)を避けていました。しかし今や彼は大胆にも戸口に進み、それを打ち壊すのを手伝い始めました。それが終わるや否や「今日はみんなが兵士だ!」と叫びながら急いで階段を駆け上がりました。何人かの歩兵が一番低い窓から発砲するため彼に続きましたが、ティロは大統領を離れることができませんでした;しかし彼はミゲルの勇敢さに驚き、喜びました。

間もなく試みが失敗したことが誰の目にも明らかになりました。敵の数が多すぎました。宮殿に戻る道を切り開く命令が出たとき、部隊の3分の1が死傷していました。勝ち誇った敵はあらゆる方向から激しく押し寄せて来ました。退却した縦隊から切り離された兵士たちの孤立したパーティーは家の中と屋根の上で必死に身を守りました。全員が激昂していて、慈悲を求めるのは時間の無駄であったため、最終的に彼らはほぼ全員殺されました。他の兵士たちは家に火を放ち、煙に紛れて逃げようとしましたが;成功した者はほとんどいませんでした。またその他の兵士たち、そしてその中にはミゲルもいたのですが、人々の気性が人間らしさを取り戻して降伏が知られざる言葉でならなくなるまでクローゼットや地下室に隠れていました。親衛隊大隊の5つの中隊からなる右の縦隊は完全に囲まれ、反乱側の将軍が彼らの命を救うと約束したため降伏しました。約束は守られ、革命側の上官たちはその追随者の怒りを抑えるために多大な努力をしているように見えました。

政府軍の本体は1個縦隊に集結して、あらゆる段階で兵士を失いながら宮殿に向かって奮闘しました。しかし損失があったとしても彼らが立ち止まることは危険でした。その退却線を妨害した反乱側の1パーティーは猛烈な突撃で一掃され、再びいくらかの試みがなされました;しかし、ライフルの銃火は絶え間なく情け容赦なく続き、最終的には撤退は潰走になりました。血なまぐさい追撃が続き、捕獲や死を免れて大統領とソレントとともに宮殿にたどり着いた兵士は80人だけでした。大きな門は閉ざされ、貧弱な守備隊は最後まで身を守る準備をしました。

 

 


第XVII章
宮殿の防衛

「今日の戦いは」ティロ中尉は門の中に入ると砲兵隊の大尉に言いました「これまでで最高だったな。」と言いました。

「ひどいことになるとずっと思っていた」と相手は答えました;「そしてやつらが砲を持ってきたとき、それが確かになった。」

「砲のせいじゃない」大砲の価値について誇大な考えを持たない槍騎兵中尉は言いました;「騎兵隊がいればよかったのだ。」

「もっと多くの兵士がいればよかった」と砲手は答えましたが、その時点で異なる武器の相対的な価値について議論することを望んでいませんでした。「後衛の戦闘は苦しかった。」

「後衛が最後に少しやったよりもはるかにたくさんの戦闘があった」ティロは言いました。「負傷者はズタズタにされたのかな?」

「全員やられただろう、考えものだ;やつらは最後オオカミのようだった。」

「これからどうなる?」

「やつらはここに来て俺たちを殺すつもりだろう。」

「それについては」ティロは言いました。その快活な勇気は長きにわたる試練に耐えることができました。「艦隊がもうすぐ戻ってくる;それまでこの場所を守ろう。」

確かに宮殿は防衛に不向きではありませんでした。それはしっかりと石で造られていました。窓は地面からある程度の距離にあり、低いものはしっかりと閉じられていました、ただし庭側は違っていてテラスと階段から背の高いフランス窓に接近することができました。しかし、その方角のむき出しで狭いアプローチは数丁の優れたライフルで遮断できることは明らかでした。確かに建築家が今や到来したこの機会のことを考えて宮殿を装った要塞を建設したことはほとんど間違いない、と思われました。街区に面した側が最も攻撃に適した方面でした:しかし衛兵室のある2つの小さな塔が大きな門を守っており、中庭の壁は高くて厚いものでした。しかし、この前線では敵は自分たちの人数を最大限に活用できるように見えたため、小さな守備隊の大部分がそこに集まりました。

反乱側は賢明かつ慎重に率いられていました。彼らはすぐに宮殿への攻撃を押し進めませんでした;獲物を確信しているので待つ余裕があるのです。その間、生き残った政府支持者たちは自らの最後の足場を安全にしようと努力していました。守備隊があまり露出せずに発砲できるよう、中庭に敷かれていた荒削りの石畳が梃で外され、これを用いて窓が銃眼に改造されました。門は閉じられて閂がかけられ、角材で突っ支い棒をする準備がなされました。弾薬が配られました。各区域の防衛の義務と責任がさまざまな将校に割り当てられました。防御者たちは自分たちが明確な結論を出さなければならない争いに参加したことを認識しました。

しかしモララの心理状態は変化していました。夜の激怒は冷まされて朝の激しく野蛮な勇気へと変わりました。彼は市庁舎を占領するための必死の企てを主導し、その後の戦いの混乱の中で自由に、そして無謀にも自分の身体を晒しました;しかし傷を負うことなく宮殿に帰り着き、サヴローラを殺す最後のチャンスを逃したことに気づいた今、死が非常に厭わしくなりまして。彼が十分に持っていて;彼を支えていたすべての興奮が消え去っていました。心中で逃げ道を探しましたが無駄でした。その瞬間の責め苦は激烈でした。数時間で助けが来るかもしれず:艦隊はきっと来ますが;手遅れになるでしょう。巨大な砲が彼の死に復讐するかもしれませんが;その命を救うことはできないでしょう。苛立ちの感覚が彼を震わせ、そしてその背後で迫りくる闇の実感が高まっていました。恐怖がその心に触れ始め;神経が揺らぎました;彼には他の人より恐れるべきものがたくさんありました。大衆の憎しみは彼に集中していました;結局のところ、彼らが望んでいたのは彼の血でした―ほかの誰よりも。それは恐るべき特異性でした。深く意気消沈して彼は自分の部屋に引きこもり、防衛には参加しませんでした。

11時ごろ敵の狙撃手が宮殿の正面を囲んでいる家々に侵入し始めました。まもなく上の方の窓から発砲があり;他がそれに続き、すぐに途切れることのない連続射撃が始まりました。防御側は壁に隠れて注意深く応射しました。ティロ中尉と戦時中のモララの同志である親衛隊の軍曹が大門の左側の衛兵室の窓を守っていました。二人とも良い射手でした。中尉はポケットを弾薬筒で満たし;軍曹は自分のそれを敷居の上に揃えて5列に並べました。彼らの位置は街区から門に通じている通りを撃つのに打ってつけでした。衛兵室の外ではまだ十数人の将校と兵士がエントランスをより安全にすることに従事していました。彼らは地面と2番目の横木の間に巨大な厚板をくさびで留めようとしていました;こうしておけば門の強度は反逆者が門に突進しようとしたとき抵抗するには十分でしょう。

周囲の家々からの銃火は危険というよりは厄介でしたが、数発の弾丸が即席の銃眼の石を打ちました。防衛側は弾薬を消費したり、無駄に自分の身体を晒したりしないよう気をつけて注意深くゆっくりと発砲していました。突然、約300ヤード離れたところで多くの男たちが門に通じる通りに向けて何かをどんどん前へ押したり引いたりし始めました。

「気をつけろ」とティロは作業班に叫びました。「やつらは砲を持ってきている;」そして狙いを定めて近づいてくる敵に発砲しました。軍曹と宮殿のこちら側にいた他のすべての防御者も見慣れない活力で発砲しました。前進してくる連中は速度を緩めました。その中に倒れる者が出始めました。前の数人がお手上げになり、他の人々に運び去られました。攻撃は縮小しました。そして駆け戻ってきたのは2、3人の男たちだけでした。その時、残りはすべて尻尾を巻いて脇道の遮蔽へと慌てて駆け込み、砲(捕獲された12ポンド砲のうちの1門)は車道の真ん中に置き去りにされ、その周りには10余りの形の崩れた黒い物体が横たわっていました。

守備側は歓声を上げ、それに応えて周囲の家々からの射撃音が増大しました。

15分が経過しました、そしてそのとき反乱側は脇道から主たる接近路に流れ出して小麦粉の袋を積んだ4台のカートを押し始めました。防御側は再び速やかに発砲しました。弾丸は袋を打ち、奇妙なクリーミーな白い雲を上げました;しかしこの可動性のカバーに守られた攻撃側は着実に前進を続けました。彼らは砲にたどり着き、カートの後ろから袋を押し出して空にし始め、標準的な胸壁ができるとその後ろに跪きました。数人が発砲し始め;他の数人は現在守備側の目標が向けられている砲を発射することにその努力を費やしました。2人の犠牲者を出しましたが彼らはそれを装填し、門に向けることに成功しました。3人目の犠牲者は前進してフリクション・プライマー(*これに取りつけた引き綱を引くことによって摩擦で砲の火薬に火がつく)を取りつけた人物で、これによって砲撃がなされたのでした。

ティロはしっかりと狙いを定めて撃ち、そして遠くの人影が崩れ落ちました。

「命中」と軍曹は感心して言い、決死の勇気を持って砲を発射しようと前進してきた別の標的を撃つため前方に身を乗り出しました。彼は確実性を上げることを意図して標的を狙ったまま長く停止し;小銃規則に従って、息を止めて引き金を徐々に引き始めました。突然、半分は鈍い衝撃音、半分は粉砕音というとても不思議な音がしました。ティロはすばやく左に跳び退き、辛うじて飛び散る血やその他の肉片から逃れました。銃眼を覗き込んだ軍曹が砲弾の出迎えを受けて殺されたのでした。遠くの人物は砲身を据え、引き綱を掴んで、砲撃するために後ろと脇に立ちました。

「門から離れろ」ティロは作業班に叫びました;「援護できない!」彼はライフルを上げ、機を見て発砲しました。同時に砲から大きな煙の雲が噴出し、別の雲が宮殿の門にわき上がりました。木造物は粉々に砕けて破裂弾の破片とともに飛び続け、遮蔽物へと慌てて逃げる作業員に死と怪我が追いつきました。

周囲の家や通りの全ての方向から長く大きな歓声が上がり、隠れて待っていた何千もの人々が砲の爆発を聞いてそれに続きました。最初反乱側の発砲が増加しましたが、すぐにラッパが辛抱強く鳴り始め、約20分後に小銃射撃は完全に止まりました。そしてバリケードの上から白い旗を持った人物が他の2人とともに前に出てきました。宮殿側はハンカチを振って休戦に同意しました。代表団は粉砕された門までまっすぐに歩き、リーダーは門を通り抜けて中庭に入りました。守備側の多くは彼を見て、どんな条件が出されるかを聞くため持ち場を後にしました。来たのはモレでした。

「あなた方全員に降伏を呼びかけます」と彼は言いました。「フェアに裁かれるまで、あなた方の命は守られます。」

「私に言って下さい、サー」ソレントは前に出て言いました。「ここの指揮を執っているのは私です。」

「共和国の名の下にあなた方全員に降伏を呼びかけます」とモレは大声で繰り返しました。

「兵士に話しかけることを禁じる」とソレントは言いました。「もう一度話しかけたなら、その旗はあなたを守らないだろう。」

モレは彼の方を向きました。「抵抗は無駄です」彼は言いました。「どうしてこれ以上命を失おうとするのですか?降伏すればあなたの命は守られるのです。」

ソレントは思案しました。おそらく反乱側は艦隊が近づいていることを知っているのだろう、そうでなければ彼らが和平を申し出たりはしないはずだ、と彼は思いました。時間を稼ぐ必要がありました。「条件を検討するのに2時間かかるだろう」と彼は言いました。

「駄目です」モレは断固として答えました。「すぐに降伏しなければなりません、今ここで。」

「我々はそのようなことはしない」と戦争長官は答えました。「宮殿は防御可能である。艦隊と勝利した野戦軍が戻るまで、我々は宮殿を守る。」

「すべての条件を拒否するのですか?」

「我々はあなたが申し出たすべての条件を拒否する。」

「兵士の皆さん」とモレは再び兵士に向かって言いました。「皆さんが命を捨てることがないよう心からお願いします。私はフェアな条件を出します;拒絶しないでください。」

「若造」ソレントは怒りを募らせながら言いました「私はすでに長々と理由を言ってお前と話をつけた。お前は民間人であって戦争の習慣を知らない。私には警告する義務がある、お前がまだ政府軍の忠誠心をたぶらかそうとするのなら撃つ。」彼はリボルバーを抜きました。

モレは注意を払うべきでした;しかし彼は元々、機転が利かず、勇敢で、衝動的な人物だったのでほとんど気にしませんでした。彼の温かい心は惜しみなくさらなる人命の損失を救いたいと思っていました。その上、ソレントが冷酷に彼を撃つとは信じられませんでした;それは無情すぎるでしょう。「皆さん全員に生きて欲しいのです」と彼は叫びました;「死を選ばないでください。」

ソレントはピストルを挙げて撃ちました。モレは地面に倒れ、その血が白い旗の上にちょろちょろと流れ始めました。しばらくの間、彼は身をよじって震え、そして静かに横たわりました。脅しが実行されるのを見るとは思っていなかった傍観者たちから戦慄のざわめきが上がりました。しかしこの戦争長官のような人物の慈悲を当てにするのはよくありません;彼らはその人生を慣例や規則によって生きすぎているのです。

門の外にいた二人の人物は銃声を聞いて、覗き込み、見て、そして素早く仲間の元に戻り、一方守備側は今やすべての希望を捨てなければならないと感じて、ゆっくりとむっつりと彼らの持ち場に戻りました。停戦の話は彼の想像に花開いた人生の、そしておそらく復讐の新たな見通しによって大統領を部屋から連れ出しました。彼が階段を下りて中庭に入ったとき、そのほんの間近な距離での銃撃に驚きました。条件の持参人の状態を見たとき、彼はよろめきました。「なんてことだ!」ソレントに「あなたは何ということをしたんだ?」と言いました。

「私は反逆者を撃ったのです、サー」彼の心は不安でいっぱいでしたが、しらを切ろうとしました。「軍隊を反乱と脱走に扇動したためです、その旗がもはや彼を保護しないという正当な警告をしてからのことです 。」

モララは頭から足まで震えました;最後の退路が断たれたと感じました。「あなたは私たち全員に死刑を宣告した」と彼は言いました。そして身体をかがめて、死んだ男のコートから突き出していた紙を手に取りました。中には次のように書かれていました: 私はあなたに共和国の元大統領であるアントニオ・モララと大統領官邸を守っている将校、兵士、そして支持者の降伏を受け入れることを許可します。彼らの命は救われ、政府の決定が出るまで保護されなければなりません。公安評議会代表―サヴローラ。そしてソレントは彼を―群衆の怒りから彼らを救うことができた唯一の男を殺してしまったのでした。モララは心が病んで話すことができずに顔を背け;それと同時に街区の家々からの発砲が猛烈な勢いで再開されました。今や包囲者たちは彼らの使者に何が起こったかを知ったのでした。

そしてその間ずっと、モレは中庭にとても静かに横たわっていました。そのすべての野心、その熱意、その希望は完全に停止してしまい;世界の出来事におけるその役割は終了し;彼は過去の海に沈んで泡すらほとんど残しませんでした。ローラニア政府に対する陰謀のすべての策略においてサヴローラの存在が彼を矮小化させていました。それでも彼は愛情と頭脳と度胸の人物であり、もっと多くのことを成し遂げていたかも知れず;そして彼には彼が踏んだ土を愛し、彼を世界で最もすばらしい男だと思っている母親と2人の妹がいました。

ソレントは長い間自分の所業を見ながら立ちつくし、その行いに対する鬱憤が高まっていました。彼の気難しく強固な性質は本物の自責の念を受け入れませんでしたが、彼は長年モララを知っており、彼の悲嘆を見てショックを受け、自分が原因であることに思い悩みました。彼は大統領が降伏を望んでいることに気づいていませんでした;気づいていたなら、と自問自答しました、自分はもっと寛大だったことだろう。損害を回復する可能な方法はないだろうか?モレに降伏を受け入れることを許可した人物は大衆に力を持っている;彼は市庁舎にいるはずだ―使者を送らねばならない―しかしどうやって?

ティロ中尉はコートを手に近づきました。上司の残忍さにうんざりして、言葉にしなくともはっきりと自分の気持ちを表そうと決めたのでした。彼は遺体の上に身をかがめ、手足を揃えました;そして白い無表情な顔にコートをかけ、立ち上がって不躾な態度で大佐に言いました。:「彼らは数時間以内にあなたをこのようにしようとするでしょう、サー」。

ソレントは彼を見て刺々しく笑いました。「プー!私が何を気にするのかね?私と同じくらい多くの戦いを経験していたなら、君もこんなに多感ではなかっただろう。」

「私がこれ以上を経験することはないでしょう、あなたが私たちの降伏を受け入れることができる唯一の人物を殺したのですから。」

「もう一人いる。」と戦争長官は言いました。「サヴローラだ。生きたいのなら、行って、彼にそのhounds(*猟犬、熱中する人)を止めさせなさい。」

ソレントは苦々しく話しました、しかしその言葉は中尉の心を動かしました。サヴローラ―彼は彼を知っていて、彼が好きで、彼らには共通点があると感じていました。彼が迎え入れられたなら、そのような人物に会えるのです。しかし宮殿を離れることは不可能と思われました。反乱側の攻撃は正面玄関の側面にのみ向けられていましたが、厳重な包囲と弾の雨が全周に渡って続いていました。包囲側の前線を道路から通過することは問題外でした。ティロは残りの選択肢について考えました;トンネルはなく;気球は1つもありませんでした。絶望的な問題に頭を振り、彼は澄んだ空気をじっと見つめて思いました。「鳥でもなければ無理だ。」

宮殿は上院と主要な官公庁に電話で接続されていて、たまたま大都市の東端からその屋根まで電線の本線が横切っていました。ティロが見上げると、頭上に細い線が見えました;20本くらいありそうでした。戦争長官は彼の視線を追いました。「電線を伝って行けないかね?」彼は真剣に尋ねました。

「やってみます」中尉はそのアイデアに興奮して答えました。

ソレントは握手をしようとしましたが、少年は後ろに下がって敬礼し、背を向けました。彼は宮殿に入り、平らな屋根に通じる階段を上りました。その試みは大胆で危険なものでした。反乱側が空中の彼を見てしまったらどうなるのでしょうか?彼はしばしばカラス、空を背景にした木の枝の間の黒い点、をカラス用ライフルで撃ったものでした。その考えは不思議に不愉快に思えました;しかし、命の危険を冒して銃眼を覗いている人々は狙いを定めるのに余念がなく、目をぼんやり漂わせることは滅多にない、と思い直して自分を慰めました。彼は屋根に足を踏み入れ、電信柱まで歩きました。その強度には疑いの余地はありませんでした;とはいえ彼は立ち止まってしまいました、勝ち目は薄く、死は近く恐ろしく思えたのでした。彼の信仰は多くの兵士の信仰と同様、ほとんど役に立ちませんでした;それはほとんど暗唱されることはなく、理解できず、決して掘り下げられることのない単なる決まり文句の寄せ集めであり、もし自分の義務を紳士のように果たすならばうまくやっていけるだろう、という楽観的ではあっても拠り所のない信念でした。彼には哲学がありませんでした;ただ自分が持っているすべてのものを危険に晒されていると感じていただけで、それが何のためなのか分かりませんでした。その動機との間にはまだ埋められない隙間がありましたが彼はそれができるだろうと考え、そしてまっしぐらに突き進むことにしました。自分に言い聞かせました。「あの豚どもをへこませてやるんだ」そしてこの思いに奮い立って恐怖を振り払いました。

彼はポールを一番下のワイヤーまでよじ登りました;そして身体を高く引き上げて絶縁体に足を乗せました。ワイヤーは2本ずつ組になってポールの両側に走っていました。彼は一番下の2本の上に立ち、一番上の2本を腋にはさみ、手を下に伸ばしてそれぞれの手でもう1本ずつを掴みました。そしてぎこちなくあちこちを動かしながら出発しました。径間は約70ヤードでした。欄干を過ぎるとき彼が下の通りを見下ろすと―はるか下に見えました。家々や宮殿の窓からの撃ち合いが絶えることはありませんでした。60フィート下には死んだ男が横たわり、輝く太陽をまぶしがることもなくワイヤー越しに見上げていました。彼は銃火をくぐったことがありましたが、これは新奇な体験でした。径間の真ん中に近づくとワイヤーが揺れ始め、しっかりと握らなければならなくなりました。傾斜は始め彼に有利でしたが、中央を通過した後は不利な登りになりました;しばしば足が後ろに滑って、ワイヤーが腋の下に食い込み始めました。

距離の3分の2まで安全に渡ったところで、左足の下のワイヤーがパチンとちぎれ、向こう側の家の壁を鞭打つように落ちました。体重が肩にかかりました;痛みは鋭く;彼は身をよじり―滑り―でたらめに握りしめ、途方もない努力をして立ち直りました。

下の窓の男がその後ろに隠れて発砲していたマットレスを引っ込め、頭と肩を突き出しました。ティロは見下ろし、そして彼らの目が合いました。男は狂ったように興奮して叫び、至近距離から中尉にライフルを発射しました。銃声の轟きのせいで弾丸がどれだけ近くを通過したかは分からず;しかし彼は被弾しなかったと感じ、電線を渡るための奮闘を続けました。

終点に着きました;すでに行くも戻るも等しく致命的でした。「やり抜いて見せるぞ」彼は自分に言ってワイヤーから家の屋根に飛び降りました。トタン屋根からのドアは開いていました。屋根裏の階段を駆け下り、彼は踊り場に現れて手すりの上から覗き込みました;誰もいませんでした。敵はどこにいるのだろうと思いながら狭い階段を彼は慎重に降りました。やがて2階の通りに面した部屋に行き当たりました。壁に隠れて部屋の中を覗き込みました。部屋の中は半ば暗くなっていました。窓は箱、旅行鞄、マットレス、そして土を詰め込んだ枕カバーで塞がれており;割れたガラスが壁からの漆喰の欠片と混ざり合って床に散らばっていました。狭い隙間や銃眼から差し込む光で彼は奇妙な光景を見ました。部屋には4人の男たちがいて;1人は仰向けになっており、その他は彼の上にかがみこんでいました。ライフルは壁に立てかけられていました。彼らの目は、ますます広がる血溜まりの中で床に横たわって、ごぼごぼとむせながら、そして明らかに話をしようとして途方もない努力をしている仲間だけに向けられていました。

中尉は十分に見ることができました。通りに面した部屋の奥側にはカーテンのかかった出入り口があり、彼はその後ろに滑りこみました。何も見えなくなりましたが、ひたすら耳を傾けました。

「かわいそうに」という声がしました。「本当にひでえことになっちまった。」

「どうしてこんなことになっちまったんだ?」 別の声が尋ねました。

「ああ、やつは撃つために窓から身を乗り出して―弾丸が当たって―肺を突き抜けて、たぶん―空を向いて撃って、叫んだんだ。」そしてより低く、それでも聞きとることができる口調でつけ加えました。「やられた!ってな」

負傷した男は異常な音を立て始めました。

「逝く前にやつはかみさんに何か言い残したいんじゃねえか」と職人のような言葉を遣う革命家の一人が言いました。「なんだい、相棒?」

「鉛筆と紙を渡してやれ;やつはもう喋れねえ。」

ティロは身も凍る思いがしました、リボルバーにそっと手を伸ばしました。

1分近くの間、何も聞こえず;それから叫び声が上がりました。

「神にかけてやつをとっ捕まえてやる!」と職人は言いました。そして彼ら3人全員がカーテンのついたドアの前をバタバタと通り過ぎ、上階へと走りました。一人の男が真ん前で立ち止まりました;彼はライフルを装填していて;弾薬筒が動かなくなり;それを地面に叩きつけ;成功したことは明らかでした、中尉は遊底のクリック音を聞いたのです。そして素早い足音が仲間に続いて屋根に向かいました。

彼は隠れ場所から現れ、低い姿勢でこっそりと歩きました。しかし開いた部屋を通り過ぎるとき、覗き込まずにはいられませんでした。負傷した男はたちまち彼を見つけました。そして床から半分立ち上がって、叫ぼうとして、恐るべき奮闘をしましたが;はっきりした声は出ませんでした。ティロは偶然自分のかけがえのない敵となったこの見知らぬ人物を一寸見て、そして人の心に潜んでいる流血と危険が目覚めさせたその残酷な悪魔に唆され、彼の手に乱暴にキスしました、痛烈な嘲笑でした。痛みと怒りの激発で相手は後ろに倒れ込み、喘ぎながら床に横たわりました。中尉は急いで立ち去りました。最下階に達すると台所に回りました、そこの窓は地面からわずか6フィートしかありませんでした。彼は土台めがけて飛び降り、裏庭に着地しました、そしてそのとき突然激しいパニックに襲われて全速力で走り始めました―来た道を戻れる望みはない、という恐怖でした。

 

 


第XVIII章
窓から

ローラニアの首都で立て続けに起こった巨大な出来事は男たちの心を目下の緊急事態でいっぱいにしていましたが、女たちは違いました。通りには躍動的な光景、血気、そして興奮がありました。戦争の危険、そして接近した混戦には多くの献身的そして残虐行為の機会がありました。勇敢な男はその勇気を示し;残酷な男はその野蛮さに耽り;すべての中間のタイプはその瞬間の務めに高揚し、不本意な恐怖の時間はほとんどありませんでした。家の中ではそれは違っていました。

ルシールは最初の銃声にびくっとしました。聞こえる音は多くはなく、遠くの混乱した発砲音と一緒に時折不調和な衝突音が聞こえるだけでした;しかし彼女はこれが何を意味するのかを知って身震いしました。下の通りは人でいっぱいのような物音がしていました。彼女は立って窓際に行き、見下ろしました。薄暗く青白いガス灯の光の下、ドアから約20ヤード宮殿側で道路を遮断しているバリケードで男たちが忙しく働いていました。彼女は見たことのないものに興味を抱いてせわしく働く人々を見ました。それで気を紛らわせることができるだろう、もし何も見るものがなかったら恐ろしいサスペンスに自分は発狂してしまうだろうと思いました。どんな細部も彼女の気を逸らすことはありませんでした。

彼らはなんと一生懸命働いたことでしょう!バールとつるはしを持った男たちが敷石をこじ剥がし;他の者たちは重さによろめきつつそれを運び;他の者たちは再びそれを積み上げて道路を遮断する強い壁をつくりました。2、3人の少年たちが誰にも負けないくらいくらい一生懸命働いていました。小さい子が持っていた石を足の上に落とし、たちまち座ってひどく泣き出しました。仲間がやって来て蹴飛ばして奮起を促しましたが余計泣いただけでした。やがて水のカートが到着し、喉が渇いた建設者たちは3、4人と連れ立って飲みに行き、2つの錫のマグカップと1つのガリポット(*陶器の小壺)で水を掬いました。

周りの家の人々はドアを開けさせられ、そして反乱者たちはバリケードに置くため、あらゆる種類のものをぞんざいに引きずり出しました。ある一団は彼らが価値ある貴重品と見なしている何本かの樽を発見しました。彼らは樽の片側を叩き壊し、それをシャベルで一杯一杯、舗装を剥がされてむき出しになった歩道の土で満たし始めました。それは長い仕事でしたが、ついに彼らは成し遂げ、樽を壁の上に持ち上げようとしましたが;重すぎたため地面にドシンと落下して、すべてバラバラになりました。これに彼らは激怒し、赤い襷を掛けた将校が現れて黙らせるまでプリプリと口論しました。彼らは他の樽に土を入れようとはしませんでしたが、家に再び入ると快適なソファを運び出し、むっつりと座ってパイプに火をつけました。しかし 彼らは一人また一人と仕事に戻り、不機嫌の発作から少しずつ抜け出し、品位に気を配るようになりました。そしてこの間ずっとバリケードは着実に成長していました。

ルシールはなぜ誰もサヴローラの家に入って来なかったのかを疑問に思いました。やがて彼女はその理由に気がつきました;玄関先にライフルを持った4人の男たちの監視隊がいたのです。かの網羅的な知性は何事も忘れてはいませんでした。そして時間が経ちました。時折その思考は自分の人生を襲った悲劇へと立ち戻り、彼女は絶望してソファに沈み込みました。一度、彼女はまったくの倦怠感から1時間のうたた寝をしました。遠くの銃声は聞こえなくなり、単発のものが時々聞こえましたが、街は概して静かになりました。不思議な不安感で目を覚まして彼女は再び窓に駆け寄りました。今やバリケードは完成し、建設者たちがその後ろで横になっていました。彼らの武器は壁に立てかけられており、壁の上には2、3人の見張りが立ってずっと通りを監視していました。

まもなく通りのドアをドンドンと叩く音がして、恐怖に彼女の心臓は高鳴りました。彼女は注意深く窓から身を乗り出しました。監視隊はまだ同じ場所にいました、しかし別の人物が彼らに加わっていました。ノックに対する返答がなかったため、彼は身をかがめ、ドアの下に何かを押し込んで行ってしまいました。しばらくしてから彼女は勇気を奮い起し、暗い階段を忍び歩いてこれが何なのかを確認しに行くことにしました。マッチの光で彼女はそれが家と通りの番号だけを書いてルシールに宛てられたメモであることに気づきました―ローラニアではアメリカの都市のようにすべての通りに番号が付けられているのです。それはサヴローラからのもので、鉛筆書きで、こういう趣旨でした: 街と砦は私たちの手に渡りましたが、日中に戦いがあるでしょう。決して家を出たり、ご自分を人目に晒したりしないでください。

日中に戦い!時計を見ると5時15分前でした、すでに空は明るくなりつつありました;その時が近づいている!彼女の夫に対する恐れ、悲しみ、不安、そして少なからざる痛みを伴う憤りが心の中で争いました。しかしバリケードの後ろで眠っている人々はこれらのどの感情にも悩まされていないようでした;彼らは静かに黙って横になっている、悩みを持たない疲れた男たちでした。しかし彼女はそれが来ることを知っていました。それは彼らをびっくりして目覚めさせるような騒々しく恐ろしいものでした。彼女はまるで劇場で演劇を見ているように感じ、窓はボックス席のように思えました。彼女がしばらくそこから目を離していると、突然ライフル射撃の音が響きました、明らかに通りの約300ヤード宮殿側からでした。そしてパチパチという発射音、軍隊ラッパ、そして叫び声がありました。バリケードの防御者たちは大慌てで跳び上がって武器を手にしました。さらに発砲がありましたが、それでも彼らは応射しませんでした、そこで彼女は窓の外に頭を出すことなく、思い切って何が彼らを妨げているのかを見ました。彼らは皆、バリケードの上でライフルを持って大いに興奮しており、多くの人々が早口に短い会話を交わしていました。すぐに100人近くの男たちの群れが壁に駆け寄り、互いに助け合いながらよじ登り始めました。そのとき彼らは戦友でした;他にもバリケードがあって窓の下のバリケードは2列目なのではないか、と彼女は思い当たりました。これは実際その通りであって、一列目は既に奪われていたのでした。この間ずっと宮殿の方向からの発砲が続いていました。

逃げてきた人々が壁を超えるや否や2列目の防御者が発砲を開始しました。すぐ近くではライフルは他のものよりとても大きな音と明るい閃光を放ちました。しかし一分ごとに日の光が強くなってきて、そしてまもなく煙のパフが吐き出されるのが彼女に見えるようになりました。反乱側は多くの種類の銃で武装していました。古い前装式マスケット銃を持った一部の人は槊杖を使うため立ち上がってバリケードから降りなければなりませんでした;より近代的な武器で武装した人々は遮蔽物の後ろにしゃがみ続けて絶え間なく発砲しました。

遠近のついた小さな人影でいっぱいの光景は大向こうから見た劇場の舞台を思わせました。彼女はまだ怖くありませんでした;なんの被害もなく、誰もどこも悪いようには見えませんでした。

この考えをほとんど終えないうちに彼女はバリケードから地面に下ろされる人物がいることに気づきました。明るくなりかけた日光の下で青ざめた顔がはっきりと見てとれ、たちまち彼女はひどい吐気に襲われました;しかし魔法にかかったようにその光景から目を離すことができませんでした。負傷した男を4人の男たちが肩と足を持って運び、胴は低く下がっていました。彼らが視界から外れたとき、彼女は壁を振り返りました。さらに5人の男たちが負傷していました;4人は運ばれなければならず、もう1人は仲間の腕に寄りかかっていました。さらに2人の人物がバリケードから引き離され、邪魔にならないよう歩道に無造作に横たえられました。彼らは誰からも注意を払われることなく、地下室の階段の柵近くに寝かされていました。

そして通りの向こうの端からドラムと甲高いラッパの音が何度も何度も繰り返されました。反乱側は狂ったように興奮してできるだけの速さで撃ち始めました。数人が倒れました、そして銃声に重なって奇妙な音、かすれたような、ウォーという叫び声が上がってたちまち近づいて来ました。

バリケードの上から1人の男が飛び降りて通りを走り始めました;すぐに5、6人が続きました;そして3人を除いたすべての防御者が接近してくるその奇妙な叫び声から急いで逃げました。何人かはさらに数人増えていた負傷者を引きずって行こうとしましたが;彼らは痛みに叫び声を上げ、放っておいてくれるよう懇願しました。その懇願にもかかわらず一人の男が他の男の足首を持って荒れた道路の上をゴツンゴツンと引き摺って行くのを彼女は見ました。踏みとどまった3人の男たちは胸壁の後ろからきちんきちんと発砲しました。すべて数秒おきでした;そして威嚇するような叫び声はその間中ずっと近づいて来ていました。

それから一瞬にして人の波―もみ革色の顔に青い制服を着た兵士たち―がバリケードへと押し寄せ、乗り越えました。彼ら全員の前にいる将校が、ほんの少年でしたが、反対側に飛び降り、「臆病な悪魔どもをきれいに掃除するぞ―来い!」と叫びました。

3人の不動の男たちは寄せる波の下に沈む岩のように姿を消しました。大勢の兵士がバリケードを乗り越えました;彼らのグループが負傷した反乱者の周りに群がって銃剣を下に向け、獰猛にその仕事をしているのが彼女に見えました。そのとき魔法が解けて状況が動き出し、彼女は叫びながら窓からソファに駆け寄ってクッションの中に顔を突っ込みました。

今や大変な騒ぎになっていました。特にサヴローラが住んでいる通りと平行する大通りの方向からの銃声は大きく継続的であり、兵士たちの叫びとドン、ドンという足音が騒音に加わっていました。戦闘の波は次第に家を通り過ぎて市庁舎の方へ進んでいきました。これに気づいたとき、彼女は自分のすべての心配事を思い出しました。戦いは反乱側に対して起こっているものであり;彼女はサヴローラのことを考えました。そして彼女は祈りました―それが不注意な耳に入らないことを念じて自分の懇願を宇宙に送り、身悶えるように祈りました。名前は言いませんでした;しかし全知である神々は彼女が夫である大統領よりも愛する反逆者の勝利を祈ったと、冷笑しながら言い当てたかもしれません。

まもなく市庁舎の方向からものすごい騒音がしました。「カノン砲」と彼女は思いましたが、窓の外を見る勇気はありませんでした;恐ろしい光景が好奇心そのものを蝕んでいたのです。しかし銃火が近づき、再び戻ってくるのが聞こえました。そしてその時、彼女は奇妙な喜びを感じました;すべての恐怖の真ん中でいくらかの戦争の成功の喜びを。人々の奔流が家を通り過ぎて行く音がしました;窓の下で銃声がしました;それから通りのドアがドンドンと叩かれ、打ち壊されました。家に侵入された!彼女は部屋のドアに駆け寄って鍵をかけました。階下で数発の銃声があり、木が裂ける音がしました。退却する軍隊の発砲は家を通り過ぎて徐々に宮殿へと向かって行きました;しかし彼女はそれに耳を傾けることはありませんでした;他の音、近づいてくる足音に注意を集中していたのでした。誰かが階段を上って来ていました。彼女は息を止めました。ハンドルを回し、ドアがロックされていることを知ると未知の人物はそれを荒々しく蹴りました。ルシールは叫びました。

蹴るのが止まり、見知らぬ人物が恐ろしいうめき声をあげるのが聞こえました。「どうか情けをかけてください、中に入れてください!怪我をしていて武器を持っていないのです。」彼は哀れに泣き始めました。

ルシールは耳を傾けました。たった1人しかいないようで、負傷しているなら彼女を傷つけることはないでしょう。外でまたうめき声が聞こえました。人間の持つ同情心がその心に起こり;彼女はドアのロックを解除し、注意深く開けました。

一人の男が素早く部屋に入ってきました;ミゲルでした。「閣下にお許しを願います」と彼は落ち着いて、この落ち着きこそが彼のけちな魂をいつも強くしていたのですが、もの柔らかに言いました;「隠れる場所が要るのです。」

「怪我はどうしたのです?」彼女は言いました。

「ruse-de-guerre(*ルーズ・デ・ゲー、戦争の策略)です。中に入れていただきたかったのです。隠れる場所はありますか?追手がすぐに来るかもしれません。」

「そこから屋根の上か天文台に行けます。」彼女はもう一方のドアを指差して言いました。

「彼らには言わないでください。」

「どうして私が?」と彼女は答えました。男は間違いなく平静でしたが、彼女は彼を軽蔑しました;よく知っていたのです、それが自分の目的に適いさえするなら彼はどんな汚物でも食べるという事を。

彼は上へ行って大きな望遠鏡の下の屋根に隠れました。その間彼女は待っていました。その日はその心を様々な感情がどんどん続けざまに通り過ぎて行ったので、もうこれ以上のストレスには耐えられないと彼女は感じました;鈍い痛みの感覚が残りました、重傷を負ったあとに似たしびれや怪我の感触でした。銃声は宮殿の方向へと後退して行きました、今では町の中のすべてが再び比較的静かでした。

九時ごろ正面玄関のベルが鳴りました;しかしドアが壊れていたので彼女はあえて部屋を出ようとはしませんでした。しばらくすると人々が階段を上ってくる音が聞こえてきました。

「ここに女性はいません;お嬢さんは昨夜叔母さんのところに帰ったのです」と声がしました。それは老婦人でした;喜びに跳び上がり、狂おしい程に同性の共感を熱望して、ルシールはドアに駆け寄って開けました。そこにはベティンがいました、そして一緒にいた反乱側の軍の将校が手紙を手渡して言いました。「President(*大統領、会長)からです、マダム。」

「President!」

「公安評議会の。」

このメモはただ政府軍が撃退されたということを彼女に伝えるだけのものであり、次の言葉で結ばれていました:今や結末は一つだけであり、それは数時間以内に成し遂げられるでしょう。

返事をされるなら階下で待っています、と言って将校は部屋を出ました。ルシールは年老いた保母をドアの中に引き込み、彼女を抱きしめて泣きました。彼女はあの恐ろしい夜の間中どこにいたのでしょうか?ベティンは地下室にいました。サヴローラは、彼女のことを何よりも大切に思っているようでした;彼はベッドをそこに降ろすように言い、そして前日の午後にその場所にカーペットを敷いて家具まで置いていました。彼女は言われた通りにそこに居ました。彼女のアイドルへの完全な信頼がそのすべての恐れを追い払いました、しかし彼女は彼について「ものすごく気を揉み」ました。彼は彼女が世界中で持っていたもののすべてでした;他の人は愛情を夫、子供、兄弟、姉妹へ撒き散らします;彼女の優しい年老いた心のすべての愛は無力な赤ん坊だった頃から育ててきた男に集中していました。そして彼は忘れていませんでした。彼女は誇らしげにこう書かれた紙片を見せました、ご無事で。

朝の間中続いていた銃声は、今や宮殿の方向から控えめに聞こえて来るだけでした;しかし通りが再び静かになったのを見たミゲルは隠れ場所から出て、再び部屋入って来ました。「Presidentにお会いしたいのです」と彼は言いました。

「夫ですか?」 ルシールは尋ねました。

「いいえ閣下、セニョール・サヴローラです。」ミゲルは素早く状況に適応したのでした。

ルシールは将校のことを思い出し;ミゲルに彼のことを話しました。「彼があなたを市庁舎に連れて行ってくれるでしょう。」

秘書は喜び;階段を駆け下りて行って姿が見えなくなりました。

実用的な精神を持つ老保母は朝食の忙しく準備をしました。ルシールは自分の考えを紛らわせるため彼女を手伝いました、そして間もなく―それが私たちの性質ですが―卵とベーコンに安らぎを見つけました。彼女らは監視隊が再び通りのドアに配置されているのに気づいて安心しました。それを発見したのはベティンでした、ルシールの気分は変わっておらず、あのような怖しい光景を見た通りを見たくなかったのです。そして彼女が正しかったのです、なぜならバリケードは今や打ち捨てられていましたが、その周りやその上に数時間前に人間だった20近くの物体が横たわっていたのです。しかし11人ばかりの労働者が2台の清掃人のカートとともに到着し;そしてすぐに財産以外の何物かの破壊があったことを示すのは舗装の血痕だけになりました。

朝はゆっくりと不安に消えて行きました。宮殿の近くでの発砲は継続的でしたが、遠方でした。時折それは鈍い轟音へと高まり、他の時には個々の銃声は一種の素早いガラガラ音に聞こえました。ついに2時半ごろ、それが急に止まりました。ルシールは慄きました。戦いが決着したのです、どちらか一方に。彼女の心はすべての可能性に直面することを拒否しました。時折彼女は狂おしい恐怖に襲われて年老いた保母にすがりつきました、なだめようとしても無駄でした;他の時には彼女は家事を手伝ったり、気の毒な老人が快適さでその不安を消し去ろうと用意してくれたさまざまな食事を味わったりしました。

発砲の停止に続く不吉な沈黙は長くは続きませんでした。最初の大砲の音が聞こえたのはベティンがそのためにわざわざ作ったカスタード・プディングをルシールに食べさせていたときでした。遠く離れていたにもかかわらず、ものすごい爆発が窓をガタガタ鳴らしました。彼女はぞっとしました。これは何でしょう?全部終わったのだろうと期待していたのです;しかし爆発は次から次へと続き、港からの連続砲撃の雷鳴がほとんど彼女らの声をかき消すまでになりました。二人の女性にとってうんざりする待ち時間でした。

 

 


第XIX章
教育的経験

ティロ中尉は無事に市庁舎に到着しました。通りは興奮した人々でいっぱいでしたが彼らは平和的な市民であり、サヴローラに会うために送られたと聞くと通行を許してくれました。市政の建物は白い石の壮大な建造物で塑像や彫像で精巧に装飾されていました。その前には鉄の柵に囲まれ、3つの出入り口から出入りできる広い中庭があり、そこには市の過去の大物たちの大理石像に囲まれた大きな噴水があって絶えず水が噴き出し、心地よい効果を与えていました。建物全体がローラニアの首都の豊かさと壮麗さにふさわしいものでした。

銃剣を装着した反乱軍の2人の歩哨が中央の出入り口を警戒しており、正当な許可なしには誰も立ち入ることを許しませんでした。伝令はひっきりなしに中庭を急いで横切って行き、騎馬の従卒が全速力で出入りしていました。もし門がなかったなら、広い往来は大いに興奮していながらも大部分は静かにしていた大勢の人たちに埋め尽くされていたことでしょう。根も葉もない噂が大衆の間に出鱈目に広まっており、興奮は強烈でした。遠くの発砲の音は明瞭で連続していました。

ティロは群衆の中を難なく通り抜けましたが、歩哨が出入り口に立ちはだかっていることに気づきました。彼らは彼の進入を許すことを拒否し、彼は一瞬自分が冒した危険が無駄になるのではないかと懸念しました。しかし幸いなことに中庭をぶらぶらしていた市の係員の1人が彼をモララの副官と見知っていました。彼は一枚の紙に自分の名前を書き、それをサヴローラ、あるいは彼が今そう呼ばれている公安評議会の会長の元に持って行くよう頼みました。公務員は出発し、10分後に革命派の赤い襷で輝いている将校と一緒に戻ってきました。彼はすぐ自分についてくるように言いました。

市庁舎のホールは自分の命を危険にさらすことなくそれができるものであれば自由のために奉仕することを熱望する、興奮したおしゃべりな愛国者たちでいっぱいでした。彼らは皆赤い襷を身に着け、頻繁な伝令が到着して壁に貼った戦場からのディスパッチについて大声で議論し合っていました。ティロとその案内人はホールを通り抜け、通路に沿って急いで小さな委員会の部屋の入り口に到着しました。数人の守衛と伝令がその周りに立っており;一人の将校が外で勤務していました。彼はドアを開けて中尉が来たことを告げました。

「どうぞ」とよく知られた声がして、ティロは入りました。腰板のついた小さな部屋で、赤っぽい色合いの重く色あせたカーテンで覆われた、高く深く設置された2つのガラス窓がありました。部屋の真ん中のテーブルではサヴローラが書き物をしていて;窓辺ではゴドイとレノスが話をしていて;隅で別の男が忙しく走り書きをしていることに彼はしばらく気づきませんでした。偉大な民主主義者が顔を上げました。

「おはよう、ティロ」と彼は上機嫌で言いましたが、少年の深刻でもどかしい表情に気づいて何が起こったのかと尋ねました。ティロは早口で大統領が宮殿を明け渡したがっている、と言いました。「ああ」とサヴローラは言いました。「モレが行っています、全権を持っているのです。」

「あの人は亡くなりました。」

「どのように?」 サヴローラは沈痛な声で尋ねました。

「喉を撃たれたのです」中尉は簡潔に答えました。

サヴローラは真っ青になりました;彼はモレを好きで、二人は長い間友達でした。闘争全体に対する嫌悪感に襲われましたが;抑えました;後悔している時間はありませんでした。「人々が降伏を受け入れないということですか?」

「おそらく今ごろ全ての兵士を虐殺しているのではないかと思います。」

「モレは何時に殺されたのです?」

「12時15分です。」

サヴローラは、テーブルの上で彼の横にある紙を取り上げました。「これは12時半に送られて来たものです。」

ティロはそれを見ました。そこにはモレの署名があって内容は以下の通りでした:最終的な攻撃の準備をしています。すべて順調です。

「それは偽造です」中尉は簡単に言いました。「私は30分前に出発したのです、そのときセニョール・モレは死んで10分経っていました。誰かが指揮権を盗んだのです。」

「わかったぞ」サヴローラはテーブルから立ち上がりました。「クロイツェだな!」彼は帽子と杖を取りました。「行こう;止めなければ彼は間違いなくモララを、そしておそらく他の人たちをも殺すだろう。私が自分で行かなければならない。」

「何ですって?」レノスは言いました。「最も不法なことです;あなたのいるべき場所はここです。」

「将校を送ってください」とゴドイは提案しました。

「あなたがご自分で行かれないのでしたら、私は人々に十分な力を及ぼすことができないでしょう。」

「私が!無理です、決して行けません!私には考えられません」ゴドイはすぐさま言いました。「無駄です;私は暴徒に言うことを聞かせたりできません。」

「朝の間ずっと仰っていた口ぶりとは違いますね」サヴローラは静かに答えました、「少なくとも政府側の攻撃を撃退してからとは。」そしてティロに目を向けて彼は言いました。「行こう。」

部屋を出て行くとき、中尉は隅で書き物をしていた男が自分を見ていることに気づきました。驚いたことにそれはミゲルでした。

秘書は皮肉に会釈しました。「また一緒になりましたね」彼は言いました;「ついて来たら良かったのに。」

「ばかにするな」ティロは心の底から軽蔑して言いました。「沈む船から逃げ出すネズミめ。」

「彼らは賢い」と秘書は答えました;「そこにいても何もできないのだからな。私はいつも聞いてきた、戦場から最初に逃げるのは副官である、と。」

「お前は呪われた汚らわしい犬だ」より馴染んでいた稚拙な返し言葉に頼って中尉は言いました。

「もう待てないよ」サヴローラが明白な命令の口調で言いました。ティロは従い、彼らは部屋を出ました。

通路を歩いて、ホールを通り抜ける時にサヴローラは大きな歓声を浴び、彼らは馬車が待っている入り口に着きました。赤い襷をかけてライフルを持った十数人の騎馬の男たちが護衛としてその周りに並んでいました。門の外の群衆は偉大なリーダーを見、中の喝采を聞いて、叫び声を上げました。サヴローラは護衛の指揮官の方を向きました。「護衛は必要ありません」彼は言いました;「それを必要とするのは暴君だけです。私は一人で行きます。」護衛は退きました。二人の男たちは馬車に乗り込み、強い馬に引かれて通りに出て行きました。

「君はミゲルを嫌いですか?」しばらくしてサヴローラは尋ねました。

「やつは裏切り者です。」

「街には大勢いますよ。だって君からすれば私も裏切り者でしょう。」

「あぁ!でもあなたはいつも一途でした」とティロはぶっきら棒に答えました。サヴローラは少し笑いました。「つまり」と相手は続けました。「あなたはいつも物事をひっくり返そうとしているのです。」

「私は自分の反逆に一途だったということですね」サヴローラは言葉を補いました。

「はい、―私たちはいつもあなたと戦ってきましたが;この毒蛇は―」

「まあ」とサヴローラは言いました。「見つけ出した人材はそのまま受け入れなければなりません;私心は誰にでもあるものです。あなたが毒蛇と呼ぶ彼は哀れな人間ですが;私の命を救ってくれました、そしてその代わりに自分の命を救ってほしいと頼んできたのです。私にどうすることができるでしょう?その上彼は役に立ちます。財政の正確な状態を知っており、外交政策の詳細に精通しています。なぜ止まっているのですか?」

ティロは外を見ました。通りはバリケードで閉鎖されて袋小路になっていました。「次の曲がり角を入ってみてください」と彼は御者に言いました。「すぐに行って下さい。」今や発砲の音がはっきりと聞こえるようになりました。「今朝はもうほんの少しのところだったのに」とティロは言いました。

「ええ」サヴローラは答えました。「攻撃を撃退するのには手こずったと聞きました。」

「あなたはどこに居られたのですか?」 少年は驚いて尋ねました。

「市庁舎で眠っていました;とても疲れていたのです。」

ティロはたまらない嫌悪感を感じました。この偉大な人物はそんな臆病者だったのです。政治家は自分の肌の手入れをし、自分たちの戦いに他の人たちを行かせる、といつも聞いていました。彼はどういうわけかサヴローラは違うと思っていました;彼はポロについてとてもよく知っていましたが;他のすべての人たちと同じでした。

サヴローラはすぐに気づき、彼の表情を見て再び乾いた笑い声を上げました。「君は私が通りにいるべきだったと思うのですね?信じてください、私は自分がいた場所でもっと良いことをしたのです。戦闘中の市庁舎のパニックと恐怖を見ていたなら、自信を持って眠りについていた方がまだマシだったと君も認めることでしょう。その上、人の力でできることはすべて終わっており、計算違いはしていませんでした。」

ティロは納得していませんでした。サヴローラに対する彼の信用は壊れました。彼はこの男の政治的勇気の多くを聞いていました。彼の心の中では物質は常に精神を上回っていました。彼はしぶしぶサヴローラは単なる言葉の紡ぎ手であり、スピーチに関しては十分勇敢であるが、より苛烈な仕事をするときには慎重なのだと納得しました。

再び馬車が停止しました。「通りはすべてバリケードで塞がれています、サー」と御者は言いました。

サヴローラは窓の外を見ました。「もうすぐそこだ。歩こう;憲法広場を横切ってわずか半マイルだ。」彼は飛び出しました。町のこの部分の通りがそうであったように、バリケードは放棄されていました。暴力的な反乱者のほとんどは宮殿を攻撃しており、平和的な市民は家の中か市庁舎の外にいました。

彼らは、敷石と土嚢を2台のワゴンの上下に積み上げたでこぼこの壁をよじ登り、道の向こう側へと急いで下りました。それは街の大きな広場に通じていました。遠い方の端には国会議事堂があり、その塔には反乱側の赤い旗が掲げられていました。エントランスの前には塹壕が掘られており、その上に数人の反乱軍の兵士の姿が見えました。

彼らは広場の距離の約4分の1を移動したとき、突然300ヤード離れた塹壕、あるいはバリケードから煙のパフが吐き出され;さらに5、6人が間断なく続きました。サヴローラはびっくりして立ち止まってしまいましたが、中尉はすぐに理解しました。「走れ!」叫びました。「立像だ―後ろに隠れろ。」

サヴローラはできるだけ速く走り始めました。バリケードからの発砲は続きました。チューとキスするような音を空中で2回聞き;何かが彼の前の舗装を打ったため破片が飛び散って彼が通り過ぎる間に灰色の染みが出現し;彼の傍らの地下室の柵は大きな音でタンタンと鳴り、道路のホコリが奇妙に噴出して何度も舞い上がりました。走るにつれてこれらが意味することの実感は強くなりましたが;距離は短く、生きたままで像に到達することができました。その巨大な台座の後ろには二人にとって十分な避難場所がありました。

「撃たれたね。」

「やりやがった」ティロは答えました。「くそっ!」

「しかし、なぜ?」

「この制服です―悪いいたずら―走っているやつ―面白いのでしょう―やつらにとっては。」

「先を行かなくては」とサヴローラは言いました。

「広場を横切ることはできません。」

「では、どうしよう?」

「やつらから遠ざかる方向に通りを進むのです、像が私たちと銃の間にある状態のまま、一本左側の通りに出るのです。」

大通りは巨大な広場の中心を通り、そこから彼らが進んで行く方向と直角に伸びていました。像に隠れてこれを下って行けば平行する通りからさらに前進することができるのでした。これによって塹壕からの銃火を回避できるか、少なくとも危険な空間を数ヤードに減らすことができます。サヴローラはティロが示した方向を見ました。「こちらはきっともっと短い」彼は広場を横切る方向を指差して言いました。

「はるかに短い」中尉は答えました。「3秒もあれば別の世界へ行けることでしょう。」

サヴローラは立ち上がりました。「行こう」と彼は言いました。「私はそのような考えが自分の判断に影響を与えることを許さない。兵士の命が危機に瀕している。時間は短い。さらにこれは教育的経験なのだ。」

彼の頬は上気し、その目はきらめいていました;彼のすべての無鉄砲さ、すべての興奮への嗜好が血管の中を動いていました。ティロは彼を見て驚きました。彼は勇敢でしたが、狂った政治家のすぐ後に続いて死へと突進することを喜びませんでした;しかし道案内を誰にも譲る気はありませんでした。彼はもう何も言わず、助走をつけるために一旦台座の奥に引っ込み、そして広場に跳びだしてできる限り速く走りました。

どのようにして横切ることができたのか、彼には分かりませんでした。ある弾丸は帽子のてっぺんを切り、別の弾丸はズボンを引き裂きました。彼は多くの男性が戦死するのを見ていました、そして舗道を粉砕し、自分を打ち倒す恐るべき一撃を予期していました。本能的に顔を隠すように左腕を上げました。とうとう彼は安全な場所に到達しました、息が切れ、信じられない思いでした。そして振り返りました。サヴローラは真っすぐに立ったまま着実に歩いて、半分のところまで来ていました。30ヤード離れたところで彼は立ち止まり、フェルト帽を取って遠くのバリケードに向かって挑戦的に振りました。ティロは彼が腕を揚げて歩き出すのを見ました、そして帽子は地面に落ちました。彼はそれを拾い上げませんでした、そしてすぐにそばに来ました、その顔は蒼白で、歯は食いしばられており、すべての筋肉が硬直していました。「教えて下さい」と彼は言いました。「君たちはあれを激しい銃火と呼びますか?」

「あなたは狂っている」と中尉は答えました。

「どうして?聞いていいですか」

「あなたの命を投げ捨てる、やつらを挑発するために立ち止まることにどんな意味があるのです?」

「ああ」と彼は大いに興奮して答えました。「私は運命に出会って帽子を振ったのです。あの浅ましい無責任な動物にではありません。宮殿に行こう;おそらくもう手遅れだろうが。」

彼らは人気のない通りを急いで通り抜けました、小銃射撃の音はますます大きくなり、群衆の叫び声と声援と混ざり合っていました。彼らは現場に近づくと、大部分は平和的な市民であり、心配そうに騒動の方を見ている人々のグループの間を通り過ぎました。何人かは制服が異彩を放っている兵士に鋭い視線を投げかけましたが;多くの人は帽子を取ってサヴローラに挨拶しました。それぞれに蒼白な傷ついた人物を載せた担架の長い列が通り過ぎ、単縦列で戦いからゆっくりと離れていきました。人込みは濃くなり、武器が至る所に見られるようになりました。まだ制服を着ている反乱側の兵士、仕事着の労働者、民兵の服を着た他の兵士、そして全員が反乱の赤い襷を掛けている人々が通りを埋め尽くしていました。しかしサヴローラの名前は本人が通る前に広まって、群衆は歓声とともに左右に分かれ、通り道を開けました。

突然前方の発砲が止まり、しばらくの沈黙があり、続いて不揃いのバチバチという一斉射撃と多くの喉からの低いどよめきがありました。

「終わっちまった」中尉は言いました。

「早く!」 サヴローラは叫びました。

 

 


第XX章
争いの終わり

ティロ中尉が電信線を伝って脱出した約15分後、宮殿への攻撃は活発に再開されました。さらに反政府側は新しいリーダーを見つけたようで戦術にかなりの連携が見られるようになりました。発砲はすべての方向で増加しました。そして小銃射撃の援護の下で敵は数本の通りから同時に流れ出し、大通りを突進して全面的な攻撃を加えました。守備側は着実にそして効果的に発砲しましたが、前進してくる多勢を止めるのに十分な弾丸がありませんでした。多くの人々が倒れましたが、それ以外が勢いよく押し進み、中庭の壁の下に避難場所を見つけました。防御側はこの外側の防御線を保持できなくなったことに気づいて建物本体に戻り、エントランスの大きな柱の間で自らを守りました。そしてしばらくの間、壁の上に頭を出したり露出したりしたすべての人々を正確に撃ち、敵の銃火を抑えました。しかし次第に反乱側はその多人数によって銃火の戦いで支配権を獲得し、今度は防御側が撃つために自分たちの身体を晒すのは危険であることに気づく番でした。

攻撃側の銃火はどんどん激しくなり、防御側のそれは減少しました。攻撃者は今や外壁全体を占領し、ついに政府側の生き残った味方の銃火も完全に沈黙させました。頭出しているすべての兵士から20丁のライフルが発射されていましたが;彼らはこの決然とした兵士に敬意を示すことを控え、チャンスを逃しませんでした。彼らは援護射撃と中庭の壁に守られて門を破壊するために使った野戦砲を運び込み、100ヤードの距離から宮殿を砲撃しました。破裂弾が石造建築を突き破り;大広間で破裂しました。別の弾が続いて建物をほぼ完全に通り抜け;反対側の朝食ルームで爆発しました。カーテン、じゅうたん、椅子に火が付いて勢いよく燃え始め;宮殿の防衛が終わりに近づいていることは明らかでした。

純粋に専門的な見地から戦争のすべての出来事を見るよう長い間自分自身を鍛えてきた、自分が他の何よりも好む作戦は敗北した軍隊から後衛を組織することである、と自慢していたソレントはこれ以上何もできることはない、と感じました。彼は大統領に近づきました。

モララは苦い絶望の表情を浮かべ、5年の間そこに住んで統治していた大広間に立っていました。舗装のモザイクは破裂弾の鉄の破片によって剝ぎ取られ、傷つけられており;塗装された屋根の大きな破片が床に落ちており;深紅のカーテンは燻っており;割れた窓のガラスが床に飛び散り;宮殿の反対側からは煙の重い雲が巻き上がっていました。大統領の姿と表情は破滅と破壊の光景によく調和していました。

ソレントは多分に仰々しく敬礼しました。彼は軍法以外に信じるべきものを持っておらず、それをしっかりと握りしめていました。「サー」と彼は公式に始めました。「反乱側が近距離で砲を戦闘に参加させたため、今やこの場所を守ることができなくなったことをお知らせする義務を私は持っています。突撃して砲を奪う必要があります、そして中庭から敵を追い出すのです。」

大統領には彼が言わんとすることが分かりました;出撃して戦いの中で死ぬべきである。その瞬間の苦悩は強烈であり;果たされない復讐の棘が死の恐怖を実際よりも大きなものとし;彼は大きな声で呻きました。

突然、群衆から大きな叫び声が上がりました。火事の煙で終わりが近づいていることを知ったのでした。「モララ、モララ、出てこい!独裁者」と彼らは叫びました。「出てこないと焼け死ぬぞ!」

人は死ななければならないと確信したとき、立派に振舞い、尊厳を持って人生の舞台を去りたいという願いが他のすべての思いに打ち勝つことがよくあります。モララは思い出しました、何と言っても彼は兵士たちの間で誉れ高く生きてきたのです。彼はほとんど王でした。世界のすべての目が演じられようとしている場面に向けられ;遠い国が知り;遠い未来が振り返ることでしょう。死ななければならないのであれば、勇敢に死ぬことには価値がありました。

彼は周りにいた最後の防御者たちを呼びました。残ったのは30人ばかりで、そのうちの数人は負傷していました。「紳士諸君」と彼は言いました。「あなた方は最後まで忠実だった;私はあなた方にこれ以上の犠牲を求めることはしない。私の死があの野獣どもを宥めることだろう。私はあなた方の忠誠に感謝する、そしてあなた方の降伏を許可する。」

「断じて!」ソレントは言いました。

「軍令です、サー」と大統領は答えてドアに向かって歩きました。彼は粉々になった木部を通り抜けて広い階段の上に出ました。中庭は群衆でいっぱいでした。モララは前進して途中まで降り;そして立ち止まりました。「来たぞ。」と彼は言いました。群衆は見つめていました。しばらくの間、彼は明るい日差しの中でそこに立っていました。ローラニアの星と外国の多くの勲章と綬にきらめく彼の紺色の制服のコートは開いていて、その下に白いシャツが見えていました。彼は無帽で背を伸ばして真っすぐに立っていました。しばらくの間、沈黙がありました。

そして中庭のすべての場所から、それを見下ろす壁から、そして向こう側の家の窓からさえ、不揃いな一斉射撃が起こりました。大統領の頭がぐいと前に引かれ、脚が下方から撃たれて、彼は足を引き摺って地面に倒れました。体は2、3段転がり、微かに痙攣しました。黒づくめの、どうやら群衆に権力を振るっていたらしい男がそこに向かって進みました。一発の銃声がありました。

同時にサヴローラとティロは壊れた門を通って中庭に入りました;暴徒はすぐに道を通しましたが、不機嫌でやましさから沈黙していました。

「私から離れてはいけない」とサヴローラは中尉に言いました。彼はまだ反乱側の兵士が侵入していない階段に向かってまっすぐ歩きました。柱の間の将校たちは発砲の停止とともに姿を現し始め;誰かがハンカチを振りました。

「紳士諸君」サヴローラは大声で叫びました。「私はあなた方に降伏を呼びかけます。あなた方の命は救われます。」

ソレントが前に進み出ました。「大統領閣下の命令により、私は宮殿とそれを防御していた政府軍を降伏させます。私は彼らの命が救われるという約束の元にそれをします。」

「了解しました」とサヴローラは言いました。「大統領はどこですか?」ソレントは階段の反対側を指さしました。サヴローラは振り向いてその場所に歩いて行きました。

かつてローラニア共和国大統領であったアントニオ・モララは彼の宮殿のエントランスの階段の一番下の3段に頭を下にして横たわっていました;数ヤード離れたところに彼に統治されていた人々が輪になって立っていました。黒いスーツを着た男がリボルバーに装弾していました;秘密結社のナンバーワン、カール・クロイツェでした。大統領は体のいくつかの銃創から大量に出血していましたが、とどめの一撃が頭に加えられたものであったことは明らかでした。頭蓋骨の後部と左側が耳の後ろから吹き飛ばされ、おそらく近距離の爆発の力で顔のすべての骨が割れてしまい、皮膚が丸ごと残っていたので、それはスポンジバッグの中の壊れた陶器のように見えました。

サヴローラは愕然としました。彼は群衆を見、群衆はその目から尻込みしました。徐々に彼らはすり足で後ろへ下がり、偉大な民主主義者と向かい合った陰鬱な装いの男だけが残されました。男たちの大集団は深く静まり返りました。「誰がこの殺人を犯したのですか?」彼は秘密結社の長に視線を向けながら低い声で尋ねました。

「これは殺人ではありません」男は頑なに答えました。「処刑です。」

「誰の権限で?」

「Society(*社会、結社)の名の下に。」

サヴローラは敵の死体を見たとき恐怖に襲われました、しかし同時にその心は凄まじい喜びに震えました;今や障害が取り除かれたのです。彼はその感情を抑えるのに苦労し、その苦闘が怒りを生みました。クロイツェの言葉は彼を激怒させました。狂おしいばかりの苛立ちが全身を揺さぶりました。間違いなくこれはすべて彼の名前に降りかかってくるのです;ヨーロッパはどう思い、世界は何と言うでしょう?自責、恥、無念、そして彼が押し潰そうとした邪悪な喜びがすべてない混ぜになって衝動的で抑制できない情熱になりました。「卑劣な人間のくず!」彼は叫んで段を降り、杖をしならせて相手の顔を打ちました。

強烈な痛みの弾みで男は喉に飛びついてきました。しかしティロ中尉は既に剣を抜いていて;強い腕と心からの善意とともに下へと一閃し、彼を地面に転がしました。

ばねが解き放たれ、大衆の怒りが噴出しました。大きな叫び声が上がりました。革命論者の間でのサヴローラの評判は大変なものだったので、この人々はより下位の他のリーダーたちの方をより親しく見知っていたのでした。カール・クロイツェは人々の味方でした。彼の社会主義的著作は広く読まれており;彼は秘密結社の長として自身を支援する一定の確かな影響力を持っており、宮殿への攻撃の後半を指揮していたのでした。彼が憎らしい将校の一人に今、目の前で殺されたのです。群衆は獰猛な怒りに叫びを上げながら前に押し寄せて来ました。

サヴローラは階段を後ろに跳ね上がりました。「市民の皆さん、聞いて下さい!」彼は叫びました。「皆さんは勝利を勝ち取ったのです;それを汚さないでください。皆さんの勇気と愛国心は勝利しました;皆さんが戦ったのは私たちの古来の憲法のためであることを忘れないでください。」その声は叫び声と嘲笑に遮られました。

「私が何をしたのかって?」彼はその声に応えました。「ここにいる皆さんと同じです。私も大義のために命を危険にさらしたのです。ここには怪我をしている人がいますか?出てきて下さい、私たちは仲間です。」そして初めて誇らしげなジェスチャーで彼は左腕を持ち上げました。ティロは彼が憲法広場で敢えてガントレットを走った(*昔の軍隊の刑罰で過失を犯した者に二列に並んだ人々の間を走らせて棒などで叩いた、転じて試練を受けること)理由に気がつきました。彼のコートの袖は引き裂かれて血が染み込んでおり;シャツのリネンは深紅に染まり;指は硬直していて全体が血まみれでした。

生み出された印象は凄まじいものでした。暴徒たちはいつも劇的なものに特別強く動かされるものですが、同じ危険にさらされている負傷者に対してすべての男たちが感じる、その共感に揺り動かされました。激変が起こりました。歓声が上がり、最初はかすかでしたが、次第に大きくなっていきました;中庭の外の人々は理由も知らないままにそれに呼応しました。サヴローラは続けました。

「専制政治から解放された私たちの国は、フェアな汚れなき状態で船出しなければなりません。国民から与えられたものではない不当な権力を行使する者は大統領であろうと市民であろうと罰せられます。この軍の将校たちは共和国の裁判官の前に出てきて自らの行動の責任を取らねばなりません。自由な裁判はすべてのローラニア人の権利です。同志の皆さん、多くのことが成し遂げられましたが、私たちの仕事はまだ終わっていません。私たちは自由を高く掲げました;それを守らなければなりません。この将校たちは刑務所に入れます;皆さんには別の仕事があります。艦隊が戻ってきています;まだライフルを片付けてはいけません。問題を見通すことができる人がいるでしょうか―最後まで?」

血まみれの包帯を頭に巻いた男が前に歩み出ました。「私たちは仲間だ」と彼は叫びました;「握手しよう。」

サヴローラは固い握手をしました;彼は反乱軍の下級将校の一人であり、数ヶ月間サヴローラと少し見知っていた単純で正直な男でした。「あなたに大切な仕事を任せます。この将校たちと兵士たちを国の刑務所に連れて行って下さい;私は馬に乗った伝令を使って全ての指示を送ります。護衛を探せますか?」志願者には事欠きませんでした。「では刑務所へ、そして共和国の信用は彼らの安全にかかっていることを忘れないでください。前へ、紳士諸君」と彼は付け加え、生き残った宮殿の防衛者たちに目を向けました。「私の名誉にかけて、あなた方の命は安全です。」

「陰謀家の名誉」とソレントは冷笑しました。

「お好きなように、サー、しかし従ってください。」

ティロだけをサヴローラと一緒に残して集団は立ち去り、囲まれ、多くの群衆がついて行きました。彼らがそうしていると、鈍い重い砲声が海の方向から聞こえ;次から次へと矢継ぎ早に続きました。ついに艦隊が戻って来ました。

 

 


第XXI章
艦隊の帰還

デ・メロ提督は自分の言葉に忠実であり、適切な経路から届いた命令には従いました。共和国のエージェントが乗った通報艦と出会ったとき、彼はサイド港から100マイル以内に到達していました。彼はすぐに進路を変え、つい最近去ったばかりの街に向へと蒸気を使って戻って行きました。艦隊は遅くて時代遅れではあっても手ごわい機械である2隻の戦艦、2隻の巡洋艦、1隻の砲艦で構成されていました。折悪しく旗艦フォーチュナの蒸気管が破裂して数時間の遅延が発生したため、岬を回って右舷船首に港とローラニアの街がくっきり白く浮かび上がるのが見えたのは2日目の午後2時でした。将校たちは自分たちの故郷であり、その栄光を自らの誇りとしている首都を不安気な目でじっと見ました;また、その恐れは根拠のないものではありませんでした。通りや庭の中から半ダースの大火災の煙が上がっており;外国船は港から出て停泊地に待機しており、大部分が蒸気を使っていました;突堤の先端にある砦には見なれない赤い旗が上がっていました。

提督は半速度の合図をして、慎重に水路の入り口に向かって進みました。それは通過する船が砲台の重砲の十字砲火にさらされなければならないように工夫されていました。実際の通路の幅は約1マイルでしたが、航行可能な水路自体は危険なほど狭く、極度に困難なものでした。その隅々までを知っていたデ・メロはフォーチュナで先頭に立ち;2隻の巡洋艦、ソラトとペトラークが続き;その次は砲艦リエンツィで、もう一隻の戦艦ソルダーニョ号は後ろに控えていました。戦闘のために信号はクリアされました;太鼓が鳴って兵士は部署に分かれ;将校は持ち場につき、艦隊は好都合な潮に助けられ、蒸気を使ってゆっくりと入り口に向かいました。

反乱側の砲手は手続きに時間を浪費しませんでした。フォーチュナが弾道に入って来ると二つの大きな煙の膨らみが砲眼から吹き出し;海側の砲台の9インチ砲が発射されました。二発の破裂弾が空高く飛び、速度を7ノットに上げ、僚船を従えてコース上にいる戦艦のマストをうなりをあげて通り過ぎました。砦の各砲の威力を発揮してそれは発射されました、しかし狙いが悪く発射体は水の上へと景気よく跳ね飛び、大きな水煙を噴き上げました、そして先頭の船が入り口に到着するまで命中することはありませんでした。

高性能爆薬で発射された重い破裂弾がフォーチュナの左舷の砲台に突っ込み、 60人近くの兵士を殺傷するとともに4門の砲のうち2門を砲架から降ろしてしまいました。これは巨大な機械を奮起させ;前部の砲塔が回って、砦へと方向を変え、その大きな一対の大砲を作動させました。その発射はほぼ同時であり、船全体が凄まじい反動によろめきました。両方の破裂弾は砦に衝突し、衝撃で爆発し、石積みを砕いて破片にし、土盛りを空中に吹き飛ばしました;しかし被害はわずかでした。安全な防弾設備の中にあって反乱側の砲手の危険は砲眼から入ってくる砲弾だけでした;一方、そうした砲をバーベットの砲架から(*胸壁越しに)発射するとすれば目に見えるのは発射の瞬間だけです。

それにもかかわらず巨大な船は文字通りあらゆる方向に炎を噴き始め、その多数の速射砲は砲眼を探し、小さな破裂弾を惜しみない速さでばら撒きました。そのうちののいくつかには穴があき、反乱側は兵士を失い始めました。船が前進するにつれて十字砲火はより激しくなり、引き続き互いに猛烈に応戦しました。連続砲撃は途方もないものになり、重砲の大きな爆発音は速射砲の絶え間ないガラガラ音にかき消されてしまいました;港の水にはいたるところに大きな泡の噴出口が、澄んだ空気には爆発した破裂弾の白い煙のパフが見られました。フォーチュナの主砲は完全に沈黙していました。2発目の破裂弾が爆発して恐ろしい虐殺を引き起こし、生き残った水兵たちはその場から船の装甲のある部分に逃げてしまい;また将校たちは無茶苦茶になった鉄の塊の間に押しつぶされて仲間の破片が転がっているその恐ろしい修羅場に彼らを戻らせることができませんでした。船の側面は切れ目が入り、至る所が裂けていました、そしてポンプの能力は甲板の排水穴から大量の水が逆流していることから明らかでした。フォーチュナの煙突は甲板とほぼ同じ高さまで撃ち落とされ、船尾から漂う黒い煙の雲が後部旋回砲塔と後部の砲の砲手を追い出しました。壊れて、装備を失い、死者と死にかけの人でいっぱいでしたが、その中枢部はまだ無傷で、その司令塔にいる艦長は舵輪に反応があることを感じ、自らの幸運を喜んでそのまま進路を進みました。

巡洋艦ペトラークは破裂弾のために蒸気操舵装置がねじれて動かなくなり、砂州に座礁して手に負えなくなりました。砦は砲火を倍増させ、艦を粉々に砕き始めました。艦は白い旗を掲げて発砲をやめました;しかしこれについては何の注意も払われることはなく、他の船が浅瀬に行く危険を冒してまで救助しようとしなかったため、艦は難破し、3時に巨大な爆発音とともに破裂しました。

最も被害が少なかったソルダーニョ号は、非常に重装甲であったため、砲艦をどうにか保護することができました。全員が死亡したペトラルカ号の乗組員を除いて220名の死傷者を出しましたが40分間の戦闘の後に全艦隊が砲台を通過しました。反乱軍の損失は約70名であり、砦への被害はわずかでした。しかし今度は水兵たちの番でした。ローラニアの街は彼らの掌中にありました。

提督は自分の船を岸から500ヤードのところに停泊させました。彼は停戦の旗を掲げ、ガントレットを走っている間にすべての船舶が大破したため談判を望む、という信号を税関に送って将校の派遣を希望しました。

約1時間の遅延の後、桟橋から艦載ボートが出てきてフォーチュナに横づけしました。共和党民兵の制服を着て、腰に赤い襷を巻いた2人の反乱側の将校が乗船してきました。デ・メロは、非常に丁寧に、ボロボロの後甲板で彼らを出迎えました。荒っぽい船乗りでありながら、多くの国の男達と交わって、危険の接近や力の意識によって彼のマナーは常に向上していました。「教えてください」と彼は言いました。「何故に私たちは自分の生まれた街でこの歓迎を受けているのですか?」

2人の将校のうち年長の方が砦は発砲を受けるまで発砲しなかった、と返答しました。提督はその点については議論しませんでしたが、市内で何が起こったのかを尋ねました。革命と大統領の死を聞いて、彼は深く心を揺り動かされました。ソレントと同じく、彼は長年モララを知っていました、正直で率直な人物でした。将校たちは臨時政府が彼とその艦隊の降伏を受け入れ、彼とその将校を名誉ある条件で捕虜と認定すると続けました。彼はサヴローラが署名した公安委員会の許可証を取り出しました。

デ・メロは幾分軽蔑して彼に真剣になるよう要求しました。

将校はボロボロの状態の艦隊は再び砲台のガントレットを走ることができず、兵糧攻めに会うだろうと指摘しました。

これに対してデ・メロは、自分の砲が軍の突堤からと岬からの接近を両方見渡しているので、港の先端の砦も同じような状態にあると答えました。彼はまた船上には6週間分の糧食があり、弾薬は十分にあると思っていると付け加えました。

彼の強みは否定されませんでした。「疑いなく、サー」と将校は言いました。「あなたは臨時政府と自由と正義のために大きな貢献をすることができるでしょう。」

「現在」提督は冷淡に答えました「正義が私の助けを必要としているように見える。」(*反乱側が裁判もせずにモララを殺したのは不正義である)

それに対して将校たちは自分たちは自由な議会のために戦い、自らの道を歩まなければならないという以上のことは言えませんでした。

提督は返事をする前に一、二周歩き回りました。「私の条件はこうだ」彼はついに言いました。「陰謀のリーダーである―この男、サヴローラは―すぐに降伏し、殺人と反乱の罪で裁判を受けなければならない。これが行われるまでは私は交渉に応じない。これが明日の朝6時までに行われない限り私は町を砲撃し、この条件が遵守されるまでそれを続ける。」

二人の将校はそれが残酷で野蛮な行為であると抗議し、彼はその破裂弾の責任を取らされることになるであろうと仄めかしました。提督はこの問題について話し合うことや他の条件を検討することを拒否しました。彼を動かすことは不可能だったので、将校たちは艦載ボートで岸に戻りました。4時でした。

この最後通牒が市庁舎の公安委員会に報告されるとたちまち、驚愕とでもいうべきことが起こりました。勝者側であることが明らかになったとたん反乱派に加わった豊かな市民たちにとって、砲撃は意に染まないものでした。また他人にダイナマイトを使うことには賛成しても自分が高性能爆薬と直接の近づきになることを喜ばない社会主義者にとっても不快なものでした。

将校たちは彼らの会見と提督の要求について話しました。

「そして私たちが従うことを拒否した場合は?」サヴローラは尋ねました。

「その場合、彼は明日朝6時に砲火を開くでしょう。」

「うーん、紳士諸君、私たちは歯をくいしばって耐えなければならないでしょう。彼らはあえてすべての弾薬を撃ち果たすことはないでしょう、そして私たちの決意が固いことを知ればすぐに屈服するでしょう。女性と子供は地下室にいれば安全でしょう、そして砦の砲の何門かを港に運ぶことができるかもしれません。」熱狂はありませんでした。「高くつくブラフのゲームになることでしょう」彼は付け加えました。

「もっと安くつく方法があります」と社会主義者の代表がテーブルの端から意味ありげに言いました。

「どのような提案ですか?」サヴローラは彼を凝視して尋ねました;男はクロイツェの親しい盟友でした。

「反乱のリーダーが社会のためにご自分を犠牲にされるなら、もっと安くつくでしょう。」

「それがあなたのご意見ですか;それについて委員会の意向を聞くことにしたいと思います。」多くの出席者が「だめ!だめ!」「恥を知れ!」という叫び声を上げました。何人かは黙っていました;しかし過半数がサヴローラを支持していることは明らかでした。「よろしい」と彼は冷ややかに言いました;「公安委員会は名誉あるメンバーの提案を採用を進言しませんでした。彼は却下されました。」―ここで彼は男を睨みつけてたじろがせました―「文明的習慣を持つ人々の中で生きているのですから。」

別の男が長いテーブルの端から立ち上がりました。「あのねえ」と彼は乱暴に言いました;「俺たちの街がやつらのやりたい放題なんだったら、俺たちには人質がいるだろ。今朝俺たちと戦った洒落ものが30人いるんだ。提督に言ってやれ、やつが1発撃つたびに1人づつ殺すってな。」

同意のつぶやきがありました。多くの人が提案を承認しました。なぜならそれが実行に移されることはないと考えられ、全員が破裂弾を阻止したかったためです。サヴローラの計画は賢明でしたが、痛みを伴うものでした。新しい提案が人気なことは明らかでした。

「それは問題外です」とサヴローラは言いました。

「なぜです?」 いくつかの声が尋ねました。

「なぜなら、サー、この将校たちは条件に基づいて降伏したからです、なぜなら共和国は無実の人々を殺してはならないからです。」

「採決しましょう」と男は言いました。

「私は採決に異議を申し立てます。これは論争したり意見を述べたりする問題ではありません;善悪の問題です。」

「それでも私は採決に賛成です。」

「私も」「私も」「私もだ」多くの声が叫びました。

採決することになりました。レノスは法に基づいてサヴローラを支持しました;将校たちは今審理中である、と彼は言いました。ゴドイは棄権しました。21対17で賛成が多数になりました。

挙手の数は歓声とともに受け入れられました。サヴローラは肩をすくめました。「こんなことは続けられません。私たちは突然野蛮人になるのですか?」

「別の方法があります」とクロイツェの友人は言いました。

「サー、この新しい計画が実行されるくらいなら私は喜んで別の方法を受け入れます。しかし」と低い威嚇的な口調で言いました。「まずはお互いの意見を言うことになるでしょう、そして私はそのとき皆さんと私の本当の敵を名指しすることになります。」

男は明らかな脅しに答えませんでした;他のすべての人々と同じく、彼は暴徒に対するサヴローラの力とその強い支配的な性格に相当の畏敬の念を抱いていました。委員会は問題に決定を下しました、と言うゴドイの言葉が沈黙を破りました。そこで都市が砲撃された場合には捕虜を射殺することを告げる文書が起草され、提督に送られました。さらなる議論の後、委員会は解散しました。

サヴローラは後に残ってメンバーが話をしながらゆっくりと離れていくのを見ていました。そして彼は立ち上がって自分のオフィスとして使っていた小さな部屋に入りました。彼は意気消沈していました。少しばかりでしたが怪我もしていました;しかしそれより悪いことに職務上の敵対勢力が存在し;自分が党派に対する支配力を失っていることに彼は気づいたのでした。彼の存在が不可欠だったのは勝敗が決まるまでのことで;今や彼らは自力でやって行こうとしていました。彼はその日に経験したことすべてについて考えました;夜の恐ろしい光景、戦闘中の興奮と不安、広場での奇妙な体験、そして最後に、この重大な問題。しかし、彼の心は決まっていました。彼はデ・メロを十分知っていたので彼が何と答えるかを推測できました。「彼らは兵士です」と彼は言うでしょう。「彼らは必要とあらば命を捧げなければなりません。捕虜は自分のために友軍が妥協させられることを許すべきではありません。彼らは降伏するべきではなかったのです。」砲撃が始まったなら恐怖が残忍へと転じ、群衆がリーダーたちの脅迫を実行することが想像されました。何としてもこの事態を続けることは許されませんでした。

彼はベルを鳴らして係員に「秘書にここに来るように言って下さい」と言いました。彼は行って、しばらくしてからミゲルと一緒に戻ってきました。「どの将校が刑務所を担当しているのですか?」

「当局者は変わっていないと思います;彼らは革命に参加していません。」

「そうですか、捕虜を送るように所長に命令を書いてください。今日の午後に捕らえた軍の将校を非公開の馬車で駅に送るのです。彼らは今夜10時にそこにいなければなりません。」

「彼らを解放するのですか?」ミゲルは目を見開いて尋ねました。

「安全な場所に送るのです」とサヴローラは曖昧に答えました。

ミゲルはそれ以上のコメントをすることなく命令を書き始めました。サヴローラはテーブルから電話をとって駅を呼び出しました。「交通局長に来て私に話すよう言ってください。局長ですか?―公安評議会の執行委員会の委員長です―聞こえますか?特別列車を用意して下さい―30人分の宿泊施設―10時出発の予定です。回線をクリアして国境へ―そう―国境に繋げて。」

書き物をしていたミゲルが素早く見上げましたが、何も言いませんでした。彼は大統領が破滅し、その主張が敗北したのを見て彼を見捨てたのでしたのですが、サヴローラに対しては本物の憎しみを抱いたのでした。その頭にある考えが浮かびました。

 

 


第XXII章
人生の報酬

たくさんのことが起こりましたが、サヴローラが家を出て市庁舎へと急いでから少しの時間しか経っていませんでした。何ヶ月もの間静かにそして秘密裏に進行していた深く複雑な陰謀が世界の舞台で爆発し、国々に衝撃を与えました。ヨーロッパ中がローラニアに5年間存在していた政府を数時間のうちに倒した突然の恐るべき動乱に驚きました。9月9日を通して猛威を振るった戦闘において1400人以上が死亡しました。財産への被害は甚大でした。上院は炎上しており;宮殿は破壊されていて;両方とも多くの店や民家とともに暴徒と反乱兵による略奪を受けていました。市内の数カ所でまだ火が燻っていました;多くの家は空っぽで女性が泣いていました。通りでは救護馬車と市のカートが死体を集めていました。国の歴史上の重大な日でした。

そしてルシールは怖ろしい時間を小銃射撃の音を聞きながらずっと待っていました。その音は時には遠く断続的で、時には近く持続的であり、不機嫌にぶつぶつ言ったり、大声で罵ったりしている怒り狂った巨人の声のようでした。連続砲撃の凄まじい喧騒でそれが消えるまで、悲しみとどっちつかずの不安の中で彼女は耳を傾けていました。時折、老保母の平凡な物質的な慰め―スープ、カスタードなど―の間に、彼女は祈っていました。宮殿での悲劇を知らせるサヴローラからのメッセージを受け取る4時まで、彼女はあえて自分の訴えに名前を入れていませんでした;しかしその後、彼女は慈悲深い神に愛する人の命を救うよう懇願しました。彼女はモララを悼んでおらず:彼の死は恐ろしく残酷なものでしたが、彼女は喪失感を感じることができませんでした;しかし彼が自分のせいで殺されたという考えはその心をとてつもない罪悪感で満たしました。もしそうであれば、と彼女は自分自身に言いました。1つの壁がなくなって別の壁が立ちはだかっただけではないのでしょうか。しかし何よりも彼女は世界で一人ぼっちになってしまいたくないがために彼の帰還を祈っていたのです、彼女のサヴローラへの愛情の前に立ちはだかるのは力と死だけである、と心理学者は皮肉な真実を断言することでしょう。

今では彼女に残されたのはその愛だけのように思われましたが、それによって人生は壮麗さ、権力、そして賞賛に包まれた宮殿における寒々とした日々よりも、より現実的に強く色づいていました。彼女は自分に欠けているものを見つけたのであり、彼もそうでした。彼女と一緒にいるとまるで昇る太陽の光がクリスタルプリズムに当たって虹をかけたか、雪の山頂をバラ色、オレンジ、スミレ色に染めたようでした。サヴローラに関しては激しい愛の輝きのせいで揺るぎない野心の青白い炎が見えなくなっていました。人の魂は世界のるつぼの中で多くの精製剤にかけられます。彼は気分や思考の変化に敏感でした;もはや運命に帽子を振ることはないでしょう;今や勇気に慎重さを加えていました。宮殿の階段に横たわった、その目も当てられない亡骸を見た瞬間から、彼は自分の人生に他の力の影響を感じていました。異なる興味、異なる希望、異なる願望がその心に入って来ました。別の理想と幸福の新しい基準を探していました。

とても消耗して、とても疲れて彼は自分の部屋へと向かいました。過去24時間の緊張は甚大なもので、将来に対して感じる不安は痛切なものでした。評議会の決定を覆し、囚人を国外に逃がすという措置をとったことがどのような結果を生むか、すべてを見通すことはできませんでした。それは、彼が信じるところの、唯一のコースでした;そしてその結果について、自分自身が関係する範囲についてはあまり気にしていませんでした。彼はモレのことを考えました―1日で世界を正そうとしていた勇敢で衝動的な亡きモレ。そのような友人の喪失は個人的にも政治的にも彼にとって深刻なものでした。彼が必要な時に頼ることができるたった一人の私心のない人物を死が奪い去ったのでした。疲労感、闘争への嫌悪感、平和への欲求がその魂を満たしました。彼が長くそのために骨折って働いた目標はほぼ達成されましたが、価値のないものに思われました、比べれば価値のないものに、つまり、ルシールと比べれば。

彼は革命家として長い間、ローラニアから逃げなければならない場合に備えて他国でも十分な収入を確保できるよう、自分の財産を手配していました;そしてその争いと大虐殺の現場を去り、自分を愛してくれる美しい女性と一緒に暮らしたいという強い願いがその心を支配しました。しかし彼の第一の義務は自分が転覆した国に政府を樹立することでした。しかしひねくれた代議員たち、卑屈で迎合的な猟官者の群れ、弱く、疑り深く、臆病な同僚について考えたとき、それを試みたいとは全く感じませんでした;ほんの数時間がこの断固とした野心的な人物に及ぼした変化は非常に大きなものでした。

彼が入ってくるとルシールは立ち上がって出迎えました。彼女には人生に他の希望がなく、助けを求めることができる人もいなかったので、確かに運命が二人を結びつけたのでした。それでも彼女は彼を見て恐怖しました。

その素早い知性は彼女の疑いを言い当てました。「私は彼を助けようとしたのです」と彼は言いました。「しかし間に合いませんでした、近道をしようとして怪我までしたのですが。」

彼女はその包帯を巻かれた腕を見て、愛を込めて彼を見つめました。「私のこと、大嫌いですか?」と彼女は尋ねました。

「いいえ」と彼は答えました。「私は女神と結婚しません。」

「私もしません」と彼女は言いました。「哲学者さんとは。」

そして二人はお互いにキスをしました、そしてそのときから二人の関係は気取りのないものになりました。

しかしその日一日の労苦にもかかわらず、サヴローラに休む時間はありませんでした。やるべきことがたくさんあり、ひどいプレッシャーの中で短い時間働かなければならないすべての人々と同じく、彼は薬の力に頼りました。部屋の隅にある小さなキャビネットに行って、睡眠をなしで済ませることができ、新鮮なエネルギーと持久力を与える効能のある薬を呷りました。そして彼は座って命令と指示を書き始め、市庁舎から持ってきた書類の山に署名し始めました。ルシールは彼がこのように忙しくしているのを見て、自分の部屋に行きました。

ベルが鳴ったのは午前1時ごろでした。老保母を気にかけていたサヴローラは駆け下り、自分でドアを開けました。ティロが私服で入って来ました。「あなたに警告するために来たのです。」と彼は言いました。

「どういうことです?」

「誰かがあなたが捕虜を釈放したことを評議会に知らせたのです。緊急会議が召喚されました。大丈夫ですか?」

「なんてことだ」 サヴローラは沈痛な声で言いました。そして少ししてから言い足しました「行って会議に参加します。」

「国境までの道に整備されている駅馬車があります」と中尉は言いました。「大統領が夫人閣下を逃がそうとする場合に備えて私に手配させられたのです。ゲームをあきらめるのであれば、これを使って逃げることができます;私の令状があれば用意できます。」

「いいえ」とサヴローラは言いました。「その気持ちはありがたいです;しかし、私は人々を専制政治から救いました、そして今彼らを彼ら自身から救わなければならないのです。」

「あなたは私の兄弟将校の命を救って下さいました」と少年は言いました。「私を頼りにして下さっていいのです。」

サヴローラは彼を見て、ある考えが閃きました。「その替え馬は大統領夫人閣下を中立の土地へと運ぶことを命じられたのだから、そのように使ったほうがよいでしょう。彼女を連れて行ってくれますか?」

「この家に居られるのですか?」中尉は尋ねました。

「うん」とサヴローラはぶっきら棒に言いました。

ティロは笑いました;少なくともスキャンダルとは思っていませんでした。「私は毎日どんどん政治を学び始めていますね」と彼は言いました。

「誤解だよ」とサヴローラは言いました。「何はともあれ、頼んだようにしてくれますか?」

「もちろんです、いつ出発しましょうか?」

「いつ出発できるのです?」

「30分後に旅行用大型馬車を回せます。」

「頼みます」とサヴローラは言いました。「君には感謝しています。君と私は一緒に色々な経験をしましたね。」

彼らは心からの握手をし、中尉は馬車を用意するために出発しました。

サヴローラは階段を上って行き、ルシールのドアをノックして、彼女に計画を知らせました。彼女は一緒に来るよう彼に懇願しました。

「本当にできることならそうしたいのです」と彼は言いました。「こんなことにはもううんざりしているのです;でも最後まで見届ける義務があるのです。私はもう権力に魅力を感じていません。事態が落ち着いたらすぐに戻って来ます、そして結婚して幸せに暮らせるのです。」

しかし皮肉なひやかしも議論も彼女を説得することはできませんでした。彼女はその両腕で彼の首にしがみつき、自分を捨てないで欲しいと懇願しました。それは辛い試練でした。彼は心を痛めながらもやっとのことでそれを振りほどき、帽子とコートを身に着けて市庁舎に向かいました。

距離は約4分の3マイルでした。半分ほど来た時、将校の指揮する反乱軍のパトロールに出会いました。彼らは彼に停止を呼びかけました。彼は帽子を目深にかぶりました、さしあたり気づかれることを望まなかったのです。将校が前に出てきました。それは宮殿が降伏した後、サヴローラが捕虜の護送を任せた負傷した将校でした。

「サンマルコ広場まであとどれくらいですか?」彼は大きな声で尋ねました。

「そこですよ」とサヴローラは指差しました。「23番街です。」

反乱将校はすぐ彼に気づきました。「前進」と部下に言いました。そしてパトロール隊は去りました。「サー」と彼は決意した男の低く速い声でサヴローラにつけ加えました、「私は評議会が出したあなたの逮捕令状を持っています。彼らはあなたを提督の元に送ろうとしています。時間があるうちに逃げて下さい。私は部下に回り道をさせます。それであなたには20分の時間ができます。逃げてください;それは私にとっても高くつくかもしれません、親愛なる方、しかし私たちは仲間です;あなたはそう仰いましたね。」彼はサヴローラの負傷した腕に触れました。そしてパトロールに向かって大声で言いました。「その通りを右に曲がれ;目抜き通りからは出た方がいい。やつはどこかの路地をこそこそ逃げているだろう。」そして再びサヴローラに:「他の隊も来ますので、逃げ遅れないで下さい;」そう言って彼は急いで部下の後を追いかけました。サヴローラはしばし立ち止まりました。行くことは投獄され、おそらく死ぬことであり;戻ることは安全とルシールを意味します。一日前だったら彼は問題を最後まで見届けたことでしょう;しかし彼の神経は何時間も張りつめられており―邪魔するものは何もありませんでした。彼は振り返って、急いで家に戻りました。

旅行用大型馬車がドアのところに立っていました。ルシールが泣きながらその中に乗り込むのを中尉が手伝っていました。サヴローラは彼に声をかけました。「私も行くことに決めた」と彼は言いました。

「首都!」ティロは答えました。「あの豚どもにはお互いの喉に食らいつかせておけばいいのです;そのうち正気に戻るでしょう。」

それで彼らは出発しました、そして彼らが街の後ろの丘の長い登りに骨を折っていたとき、夜が明けました。

「あなたを告発したのはミゲルです」と中尉は言いました;「市庁舎で聞きました。やつはあなたの害になるって私は言っていましたよね。いつかやつを裁いて仕返しをしなければなりません。」

「私は決してああいう人間に無駄に復讐しない」とサヴローラは答えました。「天罰が下るのだから。」

丘の頂上で馬車が止まり、息を切らした馬たちを風に当てました。サヴローラはドアを開けて外へ出ました。4マイル向こうに、そして今やはるか下にあるように見える、彼が立ち去った都市がありました。数カ所の大火災から太い煙の柱が立ち上って漂い、夜明けのまだ澄んだ空気の中に巨大な黒い雲が見えました。白い家の長い列の下には上院の廃墟、庭園、そして港の水域が見えました。艦隊は港に停泊しており、砲は町に照準されていました。その光景は怖しいものでした;この峠に至るまでのかつての美しい街は変わってしまっていました。

遠くの装甲艦から白い煙のパフが噴き出し、しばらくすると重砲の鈍い轟きが聞こえました。サヴローラは時計を取り出しました;6時でした。提督は細心の注意を払って時間を厳守して約束を守ったのでした。夜中にその多くの砲が内陸に移動していた砦は艦隊の砲火に応戦を始め、全般的な砲撃戦になりました。新しく燃えた家から煙がゆっくりと立ち上って、破裂する砲弾の黄色い閃光で白く見える、黒く垂れこめた雲に合流しました。

「これが」長く凝視した後サブローラは言いました。「私の人生をかけた仕事なのか。」

優しい手が彼の腕に触れました。振り向くと、ルシールが隣に立っていました。彼はその美しい姿を見ました、そして結局のところ自分は無駄に生きてはいなかった、と感じました。

 

ローラニア共和国の年代記をさらに追いかけることを望む人々は、騒動が収まった後、いかにして人々が自分たちのために自由を勝ち取り、その勝利の時に自分たちが捨て去ってしまった輝かしい亡命者に再び心を向けたかを読むことでしょう。彼らは人々の気まぐれさを嘲笑しつつ、サヴローラがその美しい配偶者とともに自ら愛してやまなかったその古来の街に戻ったことを読むでしょう。いかにしてティロ中尉が戦場におけるその勇気のために世界中で敬意を払われている小さな青銅製のローラニアン・クロスを授けられたかを;いかにして彼が槍騎兵隊のポロ・チームを望み通りイングランドに導き、オープン・カップの決勝戦で大富豪連合軍を破ったかを;いかにして彼が栄誉と成功とともに共和国に忠実に仕え、ついには軍の司令官に上り詰めたかについてについて読むでしょう。老保母については確かにこれ以上を読むことはありません、そうしたことを歴史は取り扱わないのです。しかしゴドイとレノスの二人がその天分にふさわしい公職に就いたこと、そしてその卑劣で憎むべき性格の代償として幸運を享受し続けたミゲルにサヴローラが悪意を抱いていなかったことに、彼らは気がつくかもしれません。

しかし大学の設置や鉄道、運河の開通以外に列挙すべき大事件がほとんどないため、年代記の編者はギボンのあの壮麗な一文を思い出すことでしょう、すなわち歴史とは「人類の犯罪、愚行、不幸の記録に過ぎない」; そして数多くのトラブルの後、平和と繁栄がローラニア共和国に戻ってきたことを喜ぶでしょう。

 

 


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2021.4.12